覚醒
向かってくる大量のミサイル。
俺に、かわす術は無かった。
いや、無いはずだった。
俺は無意識のうちに、フェンネルを前方に、半球状に出していた。
さっきチサトさんが「シールドフェンネル」とか言っていたからだろうか。
それとも、俺のフェンネルへの信頼からだろうか。
両方かもしれないし、どちらでもないかもしれないが、とにかく俺は、ミサイルにフェンネルをぶつけて、九死に一生を得たようだ。
やろうと思ってやったわけではない。
体が勝手に動いた。
自分でも信じられない。
俺、覚醒した?なんて思って、少し嬉しくもあるが、まだ現実感が無かった。
そして今も無意識のうちに、ジークの要塞へと向かっていた。
ドリーム「ちょっと負けちゃったwやるねぇ!」
夢さんの通信に、俺は我にかえった。
どうやら夢さんも無事、あの壁を突破したらしい。
そしてどうやら、俺は夢さんよりも先に、あの壁を突破したようだ。
夢さんに勝ったのか。
仲間があっての勝利だが、勝ちは勝ちだ。
俺は顔がにやけた。
それでも、さっきの自分はなんだったのだろう。
今一受け入れられず、俺に慢心は全くなかった。
アライヴ「まぐれだよ。なんか勝手に体が動いてさ。」
俺は正直に話した。
すると夢さんは、それが当然と言わんばかりだった。
ドリーム「ん?いつも勝手に動くよ。違うの?」
それを聞いて理解した。
いつも夢さんは、さっきのあの感覚の中で戦っているのではないか。
だから人間業とは思えないスピードが得られるのではないか。
もしそうなら、勝てるわけがない。
でも、もしさっきのアレが、再び俺にできるなら、ようやく俺は、夢さんに追いついたのかもしれない。
今更ながらドキドキしていた。
突破したのは、俺と夢さん、そしていつの間にか、カズミンさんもこちら側にいた。
俺は要塞を目指したが、夢さんとカズミンさんは、後方から艦船を攻撃していた。
ありがたい。
残った仲間の事は、任せて大丈夫そうだ。
俺はただ一機、広がる空域を突き進んだ。
そして間もなく、要塞内へと突入した。
要塞内は、静かだった。
本来ジークから見れば、紫苑軍は敵であるわけだから、防衛機能が働いていたら、攻撃があるはずだ。
それが無いって事は、この辺りの防衛システムは既に破壊されている事になる。
当然だが、美菜斗軍にやられたのだ。
これは一刻の猶予もない。
俺は先を急いだ。
しばらく進むと、両軍の人型の残骸が、そこかしこに見られるようになった。
この辺りから、本格的な戦闘が行われたのだろう。
美菜斗軍の人型が一機、こちらに攻撃してきた。
俺は軽くかわして、敵機をビームソードで切りつけた。
その後も要塞内で、何度か美菜斗軍の人型と戦闘した。
俺はことごとく勝利する。
そして、もうすぐ司令室のある拠点エリアに入ろうかという辺り、広くなった場所で、信じられない光景を見た。
無数の人型が、その空間を埋め尽くすように漂っていた。
屍がゾンビとなって、行く手を阻んでいるようだった。
これだけ沢山の人型が、導入された大戦争、それほどまでに重要な戦い。
此処でジークが負ければ、美菜斗軍に宇宙は制覇されるって事だろうと理解した。
人型をどけながら、俺は進んだ。
一刻も早く進みたいのに、本当にじれったい。
それでも焦らず、俺は残骸の海を渡り、ようやく拠点エリアへとたどり着いた。
さて、此処からは迷路だ。
そして、より一層美菜斗軍とはち合わせる可能性が高まる。
それでも俺は全速で司令室を目指した。
拠点内では、何度も美菜斗軍の人型と遭遇した。
その度に俺は速攻で倒して、先を急いだ。
そんな時、通信が入った。
紫苑「その有人要塞阿蘇山、美菜斗に持ち主が変わってるんだけど。(^0^)」
どういう事だ?
ジークは司令室にいたのではなかったのか?
この拠点が落とされたからと言って、ジークが負けるわけではない。
生き残る事が目的なら、別に司令室を放棄して、何処かに時間切れまでかくれている事もできる。
俺はふと思いついた。
隠れるのに、うってつけの場所。
さっき通ってきた、屍の海。
木を隠すなら森の中。
人型を隠すなら、人型の中。
俺はまた無意識に、先ほど通ってきた、人型の残骸の海を目指して、来た道を戻っていた。