美菜斗の狙い
美菜斗軍にクマクマ軍が吸収されたのを皮切りに、次々と弱小軍が美菜斗軍へと吸収されていった。
吸収や合併には制限がある。
クライアント側で発表するランキングで、50位以内の軍同士では、合併も吸収もできない。
更に、吸収される側の軍に所属する者は、査定ポイントが大きくマイナスされる。
それは、その後優勝しても、たいして賞金は貰えないほどの、大きなマイナスだ。
優勝しそうな軍に吸収されようとする者を防ぐ為の処置だが、当然吸収される事を良しとしない人が多くなるペナルティだった。
だから、俺の頭の中には、合併や吸収という戦略は端から無かった。
しかし、冷静に考えれば、美菜斗さんらしい戦略だと思う。
ブラウザ戦国大戦の時も、同じような手を使って、一気に勝負を決めていたのだから。
それを知る者なら、この話を持ち掛けられれば、優勝できると思うだろう。
そして優勝すれば、査定で大きくマイナスがあったとしても、多少は賞金を手にできるかもしれないし、なんと言っても優勝だ。
ゲームだから勝ってなんぼだ。
賞金ばかり意識していたが、やはり勝たないとゲームは面白くない。
紫苑「うはwドンドン美菜斗軍がでかくなっていくよ(^0^)」
紫苑さんの言葉に、全体マップを開いてみたら、秒単位で領域が塗り替えられていくのが分かった。
もう凄いとしか言いようがない。
これだけ多くの人を巻き込んだ作戦は、ジークでも無理だろう。
ふとジーク軍の勢力図が気になった。
マップ左下ブロックをみると、ジーク軍領域を、着実に美菜斗軍が取り囲んでいくのが分かる。
そう、美菜斗軍へと塗り替わるのは、もっぱら左下ブロックが多かった。
アライヴ「美菜斗さんの狙いは、もしかしてジーク?」
なんとなく思った事を書いただけだったが、それは的を射た発言だったようだ。
紫苑「おお!間違いない。ナイスアライヴ。これはできるだけ早くERROR軍を殲滅しないと。よろしく!(^0^)」
どうやら紫苑さんは、ERROR軍との決着を早めなければならない何かに気がついたのだろう。
アライヴ「了解w」
俺はマップを閉じて、ERROR軍との戦闘に集中した。
23時を過ぎ、チョビがネットから落ちた後も、激しい戦闘は続いていた。
チョビがいなくなると、俺達の戦力はガタ落ちだ。
それでも俺達優位は変わらないが、今までより敵機を墜とすペースが落ちる事は必至だった。
紫苑「曹操軍完全無視でも良かったな。(^0^)」
それは、レイズナーさんや光合成さんも、こちらに回せば良かったと言う事か。
俺は今のままで良い感じだと思うのだけどな。
しかし、ERROR軍を早く倒さないといけない何かがあるのだろう。
紫苑「ん~どしよ」
紫苑さんは悩んでいるようだった。
すると直後吉報が入る。
スピードスター「しゃにゃ軍撤退していく♪サイファが動いたかな?♪」
星さんから入った通信は、今あった懸念を払拭するものだった。
紫苑「サイファ来たかwよし!星、こっちに戻ってきてくれ!」
スピードスター「♪」
星さんがこっちに戻ってくる。
これで再びペースが上がりそうだ。
なんだかわからないけど、とにかく良かった。
そしてこうしてる間も、美菜斗軍は吸収を繰り返し、どんどん大きくなっていた。
0時を過ぎた頃、美菜斗軍の拡大は、ようやく終わりを迎えていた。
発表されている同盟ランキングでは、既にジーク軍を遥かに追い越して、1位になっていた。
そして、どうやらジーク軍へ大攻勢をかけるべく動き出したと、情報が入ってきていた。
情報発信者は、サイファさん。
サイファさんも、美菜斗さん同様、多くの人達と良い関係を築く事で勝利をものにするプレイヤだ。
だから今日この事態を、事前に知っていたのかもしれない。
ちなみに、サイファさんのところにも、美菜斗さんからID宛てにメールが届いていたそうだ。
我々に届いたメールと同じような内容で。
実際侵攻してきたようだが、サイファ軍は攻撃してこないと信じて無視したらしい。
するとすぐに撤退を開始したようだ。
撤退の完了を見届けた後、空家になったしゃにゃ軍を攻めてたという話。
しゃにゃ軍が撤退した理由は、やはりサイファ軍の侵攻だったわけだ。
美菜斗さんは今、ジーク軍を攻める。
その際、紫苑軍とサイファ軍を介入させない為に、こういった小細工をしたとすれば、我々は、この戦いに参戦する事こそが、美菜斗さんの計算を狂わせる最大の行為。
だから紫苑さんは、できるだけ早く、ERROR軍と決着をつけたいのだろう。
マップ右上ブロックにあるERROR軍の領域を全て取れば、先ほど美菜斗軍領域になったばかりの場所と隣接できる。
簡単に言えば、ジーク軍を攻める美菜斗軍の背後をつけるって事だ。
美菜斗軍は、ERROR軍を壁にして、しばらく凌ごうとでも思っていたのだろう。
だからもしかしたら、曹操軍をあおって戦闘へとかきたてたのかもしれない。
それでも実際、曹操軍、ERROR軍、しゃにゃ軍が全て全力で攻めてきたら、俺達が負ける事だって可能性としてあっただろうし、そのあおりは良い助言であったとも言えるのか。
サイファ軍も、きっと同様の事態だったのだろうか。
ただ、美菜斗さんに計算違いがあったとすれば、サイファさんもまた人気の高いプレイヤであった事と、紫苑さんを侮っていた事。
それでも、美菜斗さんの大きな優位は揺るがないわけだけどね。
せめて少しでもダメージを与える為に、俺はこの戦局に関係ないERROR軍との戦闘を続けた。
マップ上では、先ほどまであわただしく塗り変わっていた勢力図が、完全に沈黙していた。