美菜斗
最近の俺は、再びテンダネスに乗り、宇宙で暴れまわっていた。
日本最大の掲示板サイト2chで、俺が水陸両用機で、バカみたいに宇宙で戦っている事を書かれたのが、1カ月前。
それからやはりと言うか、わざわざ遠征して戦いをいどんでくる奴がいた。
しかし俺は、もうモノトーンで出撃していない。
乗りなれた最近の主力機、テンダネスに乗っている。
来る敵来る敵、倒しまくっていた。
するといつからか、白い稲妻とか、稲妻アライヴとか、言われるようになっていた。
二つ名は、強い者につけられる勲章みたいなものだから、俺は嬉しかったが、同時に照れくさくもあった。
ちなみに、ジークやサイファさんにも二つ名はあるし、ダイユウサク軍には、二つ名持ちが大勢いた。
俺もようやくその仲間になったのだなと思った。
ところで、俺がそう呼ばれるようになった理由にはもちろん強さもあるが、稲妻ってのは、テンダネスにペイントした背中の傷。
雷みたいだとは思ったけれど、まさかこれが二つ名になるとはね。
俺にとっては戒めの為のペイントだったのに。
少し苦笑いした。
俺がテンダネスで出撃するようになったからだろうか。
このところは戦闘も、各軍の動きも活発になってきた気がする。
戦闘時間中は、頻繁に各軍の戦闘結果が表示されているし、静かだった頃が嘘のようだ。
前に見た、あの2chに書いてあった最後のレス。
「賞金見て参戦か?美菜斗よ。もう入る余地ねぇぞw」
これを見た時、何かが起こりそうな予感がした。
俺は美菜斗という名前に見覚えがあったから。
俺はすぐにこの名前を、宇宙の絆Ⅱ内で検索した。
確かにいた。
そしておそらく本人に間違いないと思った。
美菜斗さん。
シミュレーションネットゲームでは、超有名な人。
アクション系ではドリームダストが有名だが、シミュレーションでは美菜斗さんと言われるような人。
でも決して、戦略が凄いとか、戦術に長けているってわけではない。
一言で言うなら、エンターテイナー。
高い能力値を言うなら、カリスマ。
長くネットゲームをやっているそうで人脈も広いし、人柄も良い。
宇宙の絆Ⅱを始める前まで、俺はこの人と、ブラウザ戦国大戦というネットゲームで、半年ばかり一緒に遊んでいた。
たった半年だったが、シミュレーションが得意ではない俺でも、この人の元だと楽しめた。
とにかく味方からの評判は良い。
ただし、美菜斗さんに負ける人は、すっごく面白くない負け方をする。
だから一部、凄く嫌っている人がいるのは、仕方の無いところだろう。
不敗の美菜斗と呼ばれる彼が、美菜斗にだけは手を出すなと言われる彼が、宇宙の絆Ⅱに参戦してきたのだから、きっと何かが起こる気がしていた。
先日までの静けさも相まって、俺はそう確信していたわけだが、いつの間にか忘れるくらい、普通の日々へと変わっていた。
2chで見た時は、もちろんすぐに紫苑さんに連絡を入れた。
紫苑さんは全く知らなかったようで、気をつけておくって話だった。
それ以後、この話が話題に上る事は無かった。
更に数日が過ぎても何事もなく、紫苑軍は絶好調。
元々戦力は、ジーク軍、サイファ軍に続いて3位だったが、下との差はドンドン広がって、サイファ軍とももう差は無い。
ちなみに戦力ってのは、プレイヤの数と、生産性で判断している。
人型の数や、艦船の数は、だいたい生産性で決まると言っていいからね。
2位や3位と言っても、今まではそれ以下ともドングリの背くらべ、五十歩百歩だったが、今では確実に抜け出そうとしていた。
ちなみにダイユウサク軍は相変わらずで、軍の戦力としては、30位前後といったところ。
それでも、トップレベルの軍と差の無いポテンシャルを持っているからね。
一騎当千って言葉があるけれど、ダイユウサク軍のメンバーは本当に、一機が千機の働きをするから。
こう考えると、4軍がやや抜け出しつつある状況だ。
ファーストの時と同様な展開だなと思った。
一生「結局美菜斗さんでも、此処からじゃ何もできないか。」
俺は独り言をつぶやき、PCの電源を切った。
2chのスレに、「そろそろ美菜斗がくるぞw上位の軍は気をつけろよww」と書かれていた事を知るのは、全てが終わってからだった。