遷都と作戦S
思わぬ形で地上に7つの拠点を得た我々紫苑軍だったが、その防衛は容易では無かった。
地上戦になれているグリード軍と、プレイヤ数が圧倒的に多いサイファ軍と一緒だったから、今まで上手くやれていた事を思い知らされた。
パイロットの質は高い紫苑軍だが、複数個所の物量作戦を仕掛けられては、守るのが精いっぱいだった。
拠点のレベルや守りも安定しておらず、もうしばらくの我慢が必要だった。
そこで紫苑さんはある決断を下した。
紫苑「地球の方が重要だ。宇宙は最悪捨てる覚悟で。ガンダーラに遷都する。」
思わぬ発言だった。
ガンダーラは、地球で所持している拠点の一つだった。
安定している宇宙を捨てて、混戦の中の拠点を本拠地に?
でも確かに、そうする方が良いかもしれないとも思う。
地球の拠点は何処も生産性が高いし、ガンダーラは中でも最高クラスだ。
それに、早い段階で地球に安定した基盤を築く事は必要だった。
コロコロコロニーから、宇宙専用の艦船と人型以外、全てを移動してくる。
宇宙は、全てレイズナーさんに任せた。
壁さんとてけとーさんも、地球へと降りてきてもらった。
紫苑さんの決断は正解だった。
宇宙は比較的安定しており、時々攻めてくる敵もあったが、レイズナーさんで十分守れた。
それとも光合成さんの活躍か。
とにかくなんの問題もない日々が続いた。
地球上はと言うと、壁さんに本拠地ガンダーラを固めてもらい、すぐに安定した守りになった。
地球上にある7つの拠点は、本当の意味で、紫苑軍の拠点として機能し始めた。
しかし、後数日で新たな作戦行動を起こそうかという時に、宇宙に敵が攻めてきた。
と言っても、本来我々が負けるような相手ではない。
ただし、レイズナーさんの部隊だけでは、守りきれないかもしれない戦力だった。
下手をすると、一気に拠点を飲みこまれるかもしれない。
それくらいの相手だった。
紫苑「せめて今日だけ守れれば、明日には宇宙に何人か戻せるな。」
スピードスター「俺、即行戻る?♪」
紫苑「いや、今から行っても時間も無いし、敵領域をいくつも行くのは危険。元々捨てる覚悟だったし。」
俺は戦闘中で手が離せなかったので、二人のチャットをただ見ていた。
しかし、今まで守りぬいていた要塞やコロニーを取れるのもしゃくだなぁと思った。
一生「ま、仕方なし。」
俺は目の前の戦闘に集中しようとした。
でも、チャットはまだ終わっていなかった。
紫苑「でも、みすみす負けるつもりもないけどね。作戦S発動!(笑)」
紫苑さんの悪知恵キター!と、少し顔がにやけた。
この発言が気になって、今日は少し集中力を欠いた戦闘となった。
そして結局、1つの拠点も落とされる事なく、24時をむかえた。
後から聞いた話だが、作戦Sとは、前に我が軍に入った、「ジーク」を使った作戦だった。
巨大勢力を率いる大将ジークの情報を徹底的に集めて、色々とそっくりにしていた。
会員ナンバーはそれぞれに違うし、所属軍も階級も違う。
でも、まず戦闘時に表示されるのは、プレイヤ名と機体名である。
情報画面を開かれれば、すぐに偽物だとばれるが、自分たちもそうだけど、一瞬の戦闘時に情報画面を開く人は少なかった。
それが有名人ならなおさらだ。
情報を調べなくても知っているのだから。
我が軍のジークが、バルバロッサという名の艦船に乗ってあらわれると、戦場は一瞬止まったようになったらしい。
そこから人型が出撃し、敵を攻撃し始めると、敵は混乱したようだ。
「紫苑軍とジーク軍は繋がっていたのか?」「ジークを倒せば英雄だぞ!」「ヤバイんじゃないか?逃げた方が良いんじゃ?」
色々な事を言っていたであろう敵の姿が想像できる。
でもきっと、すぐに偽物だとばれたはずだ。
ただ、その一瞬の混乱のチャンスを、光合成さんが見逃さなかった。
背後から敵の主要機を狙い撃った。
運が良かったのか、それとも光合成さんの実力か、とにかく状況を打開するには十分だった。
後は、光合成さん、レイズナーさん、ジークさんで混乱する敵を討った。
隠していた、一度しか使えない作戦は、見事に成功した。