アイドル中山西子
地上戦を始めてから、既に1週間が経っていた。
紫苑軍の、地上戦素人の面々も、だいぶ戦い方をつかみ始めていた。
そんなある戦闘1時間前、グリード軍本拠地のジャングルには、オンしているメンバーが集まっていた。
別に集まる事はそれほど珍しくはないが、今日は珍しい仲間がオンしており、それがきっかけで集まっていた。
サイファ「カニさん、仕事忙しそうですね。」
キャンサー「うん、でもせっかく盛り上がってるし、ちょっとでも参加したくてぇ~w」
真でれら「それにしても、喋り方変わりすぎ~」
キャンサーさん。
通称カニさん。
カニさんは前作で、サイファ軍所属の主要メンバーのひとりだ。
打ち上げにも参加していて、その時に分かったらしいのだけれど、結構有名な女優だったのだ。
名前を「中山西子」通称「しゃこたん」と呼ばれている。
前作の頃は今ほどは売れてはいなかったので、ゲームにも結構参加していたようだけど、今では超売れっ子で、アイドル業、歌手、タレントと、忙しくてゲーム参加どころでは無くなっていた。
しゃこたんが宇宙の絆をやっていた事は、ファンの間では有名だけど、それがどのキャラクターなのか、知る人は少ない。
ゲーム終盤までプレイしていた事は、しゃこたんブログに書いており、ジーク軍、紫苑軍、サイファ軍、ダイユウサク軍、グリード軍あたりに所属していた事は予想されている。
そして俺も今日まで、しゃこたんがサイファ軍にいた事は知らなかった。
キャンサー「うむ。俺おかしいか?(笑)」
LOVEキラ「ははは、カニさんだ。」
カニさんは、どうやらばれないように、前回では男喋りしていたらしい。
ネカマもいれば、その逆もあるって事ですな。
アライヴ「それにしてもあのしゃこたんがサイファ軍にいたなんて。そして話せるなんて嬉しいです。」
俺はちょっと浮かれてしまっていた。
紫苑「ハンドルハンドル」
アライヴ「あっ!すみません。」
ゲーム内では、個人を特定できるような事は言わないのがマナーだ。
俺は浮かれてつい、しゃこたんと言ってしまった。
キャンサー「大丈夫だよw特に隠してるわけでもないから。」
サイファ「えっ?マジっすか。でも騒ぎになるかも…」
そのとおりだ。
あの、今や超アイドルのしゃこたん、それがココにいるなんて知ったら、みんなが集まってきかねない。
と、思った直後、チャットに大量の反応があった。
グリード軍のメンバーが、一気にキャット通信に入ってきた。
俺の一言でチャット画面は一気に流れ、俺が話に参加する余地が無くなってしまった。
カニさんへの確認や質問が大量だ。
同盟軍入り乱れてのチャットだったので、友軍チャットで行っていたから、ほとんど全員集合だ。
結局戦闘開始10分前まで、カニさんはたくさんの人達といっぺんにチャットしていた。
涼しい顔で。
って、見えないけれど。
流石、オタクアイドルとも言われているのは、伊達では無いって事か。
さて、戦闘が始まったが、そこからも更に大変だった。
カニさんも今日は戦うとかで、人型で出撃。
それをとりまくように、たくさんの人型が、人型キャンサーの周りを固めていた。
キャンサーさんには、1発たりとも攻撃を当てさせるなってのが合言葉のようで、身を挺して守っているようだった。
正に親衛隊のようだ。
敵からすればその行動に疑問を持つのは当然で、逆に敵を集めていた。
今日の戦いは、なんだか満員電車の中で戦うような、そんな感じだった。
敵のほとんどは、カニさんと親衛隊に任せて、俺たちは軽々と本拠地を落とした。
こんなに簡単で良いのか?なんて思っていたけど、親衛隊の多くが所属しているグリード軍の損害は、過去最高だった。
それでも親衛隊の人達は、皆満足そうだった。
損害も多かったが、楽しく勝利できたのだから、それで良いのだと思った。
23時過ぎ、カニさんは戦場から消えていった。
なんだか嵐が過ぎ去った後のような状況が残された。