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催眠アプリが効いてると思ってたのは俺だけで、小悪魔後輩には全部バレていた

作者: Romanoff726
掲載日:2026/05/03


朝、目を覚ましてスマホを見た瞬間、違和感に気づいた。


 見覚えのないアプリが、一つ増えている。


『好きな子が自分を好きになるアプリ』


 ……怪しすぎるだろ。


 普通なら即削除だ。ウイルスか、悪質なジョークか。


 なのに――なぜか、俺はそれを開いていた。


『一度だけ使用可能。自己責任でどうぞ♡』


 それだけ表示される。


 ……説明、雑すぎないか?


 けどまあ、減るもんでもない。


 俺は軽い気持ちで「実行」を押した。


 ――これが、全部の始まりだった。



 俺、結城優希は陰キャ寄りのオタクだ。


 そして。


 そんな俺が片想いしている相手がいる。


 葉月なの。


 一つ年下の後輩で、同じ読書部。


 小柄で可愛くて――性格は小悪魔。


 からかってくるし、距離は近いし、正直めちゃくちゃ振り回される。


 ……でも、好きだ。


「優希先輩ー♡」


 後ろから声が飛んできて、振り返る。


 やっぱり、なのだった。


「おはようございます♡」


「……おはよう」


 なんか今日、やけにテンション高くないか?


「先輩、なんかいいことありました?」


「別にないけど」


「へえ〜。彼女できたとか?」


「できるわけないだろ」


「ですよね♡ 先輩に女の子の知り合い、私くらいですもんね」


 いつも通りの軽口。


 ……やっぱり、変わらないか。


 そう思った、その瞬間。


 なのが、俺の手を取った。


「……は?」


 指が絡む。


 一気に距離が縮まる。


「手、冷たいですね。風邪ですか?♡」


「な、なんで急に……!」


「先輩の反応、見たかったので♡」


 くすっと笑う。


 ――でも。


 よく見ると、耳がほんのり赤い。


(……え?)


 胸がざわつく。



 昼休み、屋上。


「先輩、目閉じてください」


「絶対ろくでもないだろ」


「いいから♡」


 押し切られて、目を閉じる。


「いち、に――」


 その途中で。


 ふわ、と。


 柔らかい感触が胸に触れた。


 反射的に目を開ける。


 目の前にいたのは――顔を真っ赤にした、なの。


「……え」


「……あ、開けちゃいました?」


 慌てて距離を取る彼女。


 理解が追いつく。


「今のノーカンです♡」


「いやカウントしろよ!?」


「先輩、変な期待してました?♡」


「してない!」


「変態ですね♡」


「お前がやったんだろ!」


 いつものやり取り。


 ……なのに、心臓がうるさい。


 そのあと、なのは弁当を差し出してきた。


「これ、プレゼントです」


 開けると、可愛いオムライス。


 隣でなのも同じ弁当を開く。


 ――完全に同じ。


「カップル弁当です♡」


「さっき余り物って言ってなかった?」


「バレました?♡」


 笑う。


 でもやっぱり、どこか照れている。


(……アプリ、効いてる?)



 放課後、部室。


 なのはすでに来ていた。


「先輩、今日変なアプリ入ってませんでした?」


 心臓が跳ねる。


「……知らないけど」


「私は入ってましたよ♡」


 軽い声で続ける。


「“催眠アプリを無効化するアプリ”ってやつ」


「……は?」


「説明に書いてあったんです。“そのアプリを使う人は、すでに自分に片想いしている人です”って♡」


 ――全部、バレてた。


 頭が真っ白になる。


「つまり先輩のアプリ、最初から効いてません♡」


 終わった。


(……嫌われた)


 最低だ、俺。


 こんな方法で近づこうとして。


 俯いた、そのとき。


「でも先輩」


 なのの声が、少しだけ柔らかくなる。


「嫌がること、何もしませんでしたよね?」


 思わず顔を上げる。


「……当たり前だろ」


「好きなやつに、そんなことするわけない」


 言ってから、固まる。


「……あ、やっぱり♡」


 なのが楽しそうに笑う。


 逃げ場はない。


 だったら――


「……なの」


 覚悟を決める。


「好きだ」


 声が震える。


「ちゃんと好きだ。だから――付き合ってほしい」


 数秒の沈黙。


 心臓が痛いくらい鳴る。


 そして。


 なのが、ゆっくりと近づいてきた。


「……やっと、ですね♡」


「……え?」


「私、前からずっと先輩のこと見てましたよ?♡」


 指先が、俺の袖をつまむ。


「不器用で、優しくて……バレバレなくらい真っ直ぐで」


 少しだけ視線を逸らして――


「そういうところ、全部好きです」


 心臓が止まりそうになる。


「だから」


 くすっと、小悪魔みたいに笑って。


「ちょっとくらい騙されてあげてもいいかなって思ったんです♡」


 そして、まっすぐ俺を見る。


「――はい。付き合います」


 あっさりと。


 でも、はっきりと。


「今日から恋人ですね♡」


 頭が追いつかない。


「明日、デート行きましょうね。連絡、絶対返してください♡」


 さらに一歩、距離が縮まる。


「あと――」


 耳元で囁かれる。


「距離、もっと近くしますから」


「……っ!」


「私、ずっと我慢してましたし♡」


 顔が一気に熱くなる。


「先輩、真っ赤ですよ?」


「お前もだろ……!」


「バレました?♡」


 差し出される手。


 今度は迷わず、握り返した。


 ――結局。


 効いていたのは、アプリなんかじゃない。


 俺の気持ちと。


 最初から、少しだけズルかった彼女の優しさだ。

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