ぬいぐるみの価値は?
チリン、チリン……
ある日のこと、小さな音を立ててお客さんがやってきた。
おどおどとした女性で歳は二十代半ばくらいかな?
茶髪のロングヘアーはウェーブがかっており、長い前髪で顔がよく見えずにいるがその所作から弱気な印象を受けた。
「いらっしゃいませ」
フェリシーちゃんが接客に向かうが、彼女は立ち尽くし押し黙ったままだ。
そして困った様子のフェリシーちゃんと向かい合ったまま、五分ほど続くと俺にはボソボソとしか聞こえないほどのボリュームで言葉を発したらしい。
「リソールさん、どうやら鑑定してほしいものがあるそうですよ?」
「それでは品物見せてください」
俺はほんの少しも威圧感を与えないように丁寧な言葉と笑顔で対応する。
「……これなんですが」
ようやく聞こえた彼女の声は思っていたよりも可愛らしいものだった。
そう言って麦わらを編み込んだ鞄から取り出したのは、猫の姿をしたぬいぐるみだった。
「わぁ、可愛いですね」
フェリシーちゃんがその愛らしさに目を輝かせる。
毛糸を編み込んだ編みぐるみといえるようなもので、確かに可愛らしい。
俺は手袋をして鑑定していくが、しっかりとした編み込みで中身は綿が入っているようでとても柔らかい。
「これはどういったもので?」
「……あの、その」
「慌てなくて大丈夫ですよ。ゆっくりとお話しください」
俺はそう言ったはものの、彼女は上手く話せない。
「よろしかったらどうぞ」
そんなときにフェリシーちゃんがお茶を淹れてきてくれた。
「あ、ありがとうございます……」
そっとティーカップを受け取った女性は、ゆっくりとお茶を口にした。
温かいお茶のおかげで少しはリラックスできたのだろう。
ようやく彼女は少しづつ話し始めた。
「これは……私が編んだものです……」
「なるほど、お客様が……そういったお仕事をしているのですか?」
「いえ……身体が弱くて仕事はしていません……」
「それは失礼いたしました。ですが、この編みぐるみはとてもお上手なのでお仕事にしているのかと思いました」
「ありがとうございます……それでなのですが、こういったものに価値はありますか……?お父さんがこちらのお店の案内書を見て、勧めてくれたのですが……」
「十分にあると感じますね。フェリシーちゃんはどう?欲しい?」
「そうですね!とっても可愛いですから女の子なら欲しいと思うんじゃないですか?私も欲しいですし……」
「ということです。価値は十二分にありますよ」
「……嬉しいです。こんな私でも価値があるものを作り出せたんですね……」
女性は涙を見せた。
これには俺も慌ててしまう。
「そ、それで鑑定ですが、金貨二枚でも欲しがる方はいるかもしれません」
日本円で二万円ほどだが、これほど丁寧に作られたものなら貴族社会の女の子たちをターゲットに十分に狙えるだろう。
それに誕生日などのお祝いごとなら、一般の方でも手が出せないわけではない。
だから俺は決して高いとは思わない。
「そ、そんなにですか!?」
「ええ、その証拠としてこちら買い取りさせていただいていいですか?金貨二枚をお出ししますので」
「も、もちろんです!」
「それではこちら買い取りさせていただきますね?」
俺は手元にある手提げ金庫を開くと、金貨を二枚取り出し女性に渡した。
「あぁ……私がお金が稼げるなんて夢みたいです……」
「ありがとうございます。これはしっかりと価値あるものですよ」
「……ありがとうございます」
彼女は再び涙をこぼすが、嬉しそうな笑顔とともにしたものなので俺も嬉しく思える。
そして正面を向いた彼女の顔は、びっくりするほどに綺麗で驚かされた。
「こほん……それではまた来ていただけますか?」
「はい!もちろんです!」
「それでは改めまして自己紹介を。私の名前はリソールと申します。そしてこちらがフェリシーです」
「わ、私……アイリスと申します……」
「アイリスさん。長いお付き合いをさせてくださいね?」
「えっ……その……」
アイリスさんは俺の言葉に顔を赤く染めた。
「……リソールさん、告白みたいになってますよ」
「い、いや!そういった意味ではなく!お取引を続けるといった関係でして!」
ジトッと見つめてくるフェリシーちゃんに真っ赤に顔を染めるアイリスさん。
俺はいたたまれなく思い、慌ててしまった。
「そ、そうですよね……」
今度はしゅん……と落ち込んでしまったアイリスさんをなんとかフォローしようと俺は言葉を選ぶ。
「アイリスさんは綺麗ですから。自信を持ってください」
「あ、ありがとうございます……」
アイリスさんは俺の言葉に嬉しそうな笑顔を見せてくれて、俺もホッとした。
その後、彼女を見送って今回の鑑定業務は終わった。
明日にでもヘイゼンさんのところに持っていこう。
「ヘイゼンさんって女の子のお孫さんいる?」
「ええ、いますよ。とても可愛がっているとのことです」
フェリシーちゃんに相談したところ、妙に他人行儀さを感じる。
「あの……どうかした?」
「別に。アイリスさん綺麗でしたよね」
フェリシーちゃんはそう言うとぷいっとそっぽを向いた。
「……えっと、フェリシーちゃんも可愛いよ?」
「……ふんだ」
その日は一日中機嫌が悪いフェリシーちゃんと過ごすことになった。
年頃の女の子は難しいものだ。




