老紳士の来店
「へぇ、これがリュネット質店の案内書かぁ」
営業時間は終了し(来店客0人)黒猫亭へと戻った俺はフェリシーちゃんが描き上げた広告ポスターをレンちゃんに渡した。
「そうそう、猫の絵が可愛いでしょ?」
「うーん……これは問題ね……」
「な、なぜ?」
「うちの黒猫亭と猫が被るじゃない」
猫に著作権があるのか?
そう思い呆然となった俺だったが、ハッと意識を取り戻すと反論する。
「黒猫じゃないしいいでしょ」
「あははは!本気になってるぅ!冗談だよ!冗談!」
この女子はどうしてくれようか?
そんなレンちゃんはケラケラと笑って近くの掲示板にポスターを貼ってくれた。
今回はまあ大人の俺が水に流すとしよう。
「お客さん、来てくれるといいね?」
「そうだね。じっくりと待つことにするよ」
そうして市場や酒場などに広告ポスターを張らせてもらい、結果が出るまで少し日がかかることになったが、三日目にしてお客さんがやってきた。
チリンチリン。
「いらっしゃいませ!」
俺は鐘の音に即座に反応する。
せっかくの来客だというのにフェリシーちゃんは食事休憩中なのが残念だ。
「やあ、知人に教えてもらってね。少し家を整理をしようと思って持ってきたんだ」
やってきたのは帽子にスーツを着こなす上流階級の老紳士といった感じか?
老紳士はそう言うとバイオリンのケースをカウンターの上に置いた。
「見させてもらってもよろしいですか?」
「ああ、もちろんだとも」
俺は手袋をはめてバイオリンを取り出す。
うん、いい木材を使っているな。
高級木材のブラックオークスだ。
それに弦は羊の腸を材料としたガット弦、弓も馬の毛を使っている。
これは、かなりクラシックなスタイルのバイオリンだ。
ん?これは……
俺はバイオリンの裏面に刻印された印に気づいた。
それはアリシオル王家の盾と天秤の金印だった。
「お客様?これはどういった代物で?」
「ふふっ、特に言い伝えなんてない。ただ我が家で継承してきたものだよ」
「そうですか」
「それでいくらくらいになるかな?」
「そうですね、お手上げです。値段はつけられません」
「ほう?ガラクタというのかね?」
「逆ですよ。高価すぎてうちでは買い取りできません。どうしてもお金にしたいのなら国立博物館でオークションをかけることをおすすめしますね。そんなつもりはないんでしょうけどね」
「ふふふ……面白い!リューの後継者と聞いてやってきたがよく見破ったな!」
「さすがにわかりますよ。こんな貴重品を手放すような人には見えませんからね」
「うむ。客を見ることも質屋としては重要な要因だ。ますます気に入った」
チリンチリン。
そうしている間にフェリシーちゃんが戻ってきた。
「凄い馬車が来てると思ったらやっぱりヘイゼンおじいちゃんだったんだ」
「ほほほ、新しい鑑定士が入ったとリューから聞いてな?遊びに来たんじゃ」
どうやらリューさんともフェリシーちゃんとも知り合いのようだ。
「えっと……お知り合い?」
「うん。この国の公爵家のご隠居さんだよ」
「……公爵家」
おいおい、とんだVIPじゃないですかやだー。
「気にするでない。ただの隠居じじいじゃ。こうして若いもので遊ぶのが趣味のな」
ニヤリと笑うヘイゼンさんはまるでいたずら小僧のようだ。
「あんまり凄いの持ってこないでくれます?こっちは初めてのお客様でワクワクしてたんですよ?」
「ほほほ!すまんすまん!鑑定料だ、受け取っておけ」
ヘイゼンさんは金貨十枚を渡してきた。
「いえいえ、もらえませんよ」
「いいから取っておきなさい。若者は遠慮をしないことだ」
年の功を存分に振りまいてきたので、これ以上断ることが失礼だと悟った。
「ありがとうございます」
「うむ。それでいい」
満足したようにヘイゼンさんは頷くと、バイオリンケースを手に取った。
「面白いものが入ったら教えてくれ。リュネットの名前を言えば屋敷はフリーパスじゃからな」
「そんなやすやすと行けませんって」
「待っておるからの!」
俺のお断りの言葉も虚しく、ヘイゼンさんは陽気に店を出ていった。
「はぁ……とんでもないものを持ってくるんだもんなぁ……」
「ヘイゼンさんはなにをしに来たんですか?」
「うーん……実際はただの鑑定かな?」
「ふふふ、高価なものだったんですか?」
「うん、白金貨で五百枚くらいかな」
「ご、五百枚!?」
日本円にして五億円ほどだ。
一介の質屋が買い取れる代物じゃない。
「あんなの買い取れなんて無茶な話だよね?」
「……リソールさんもなんだか呑気に話してますけど」
「いやいや、俺もびっくりしているよ?めちゃくちゃいいものを見させてもらったって」
「うふふ……おじいちゃんもいいものに巡り会えたとき、そんな風に楽しそうな顔をしていました」
「フェリシーちゃんも楽しそうだよ?」
「そ、そうですか?」
「うん、とってもいい笑顔だ」
「……おじいちゃんと一緒にいるみたいで嬉しいんです」
おじいちゃんか……
若い男としては残念な表現だが、彼女の笑顔が見れたのならいいか。
「さてそれじゃ、お昼からも頑張ろうか?」
「はい!」
一方その頃、リソールを追い出したオルドス国立博物館では、館長のガンブツが頭を抱えていた。
「ち、父上、申し訳ありません……」
「また贋作を王家に献上してしまったとは……」
「ですがあれほどのもの、鑑定ミスすることも仕方ないでしょう!?」
「そんなこと言っていられん!陛下からの信用はもはや風前の灯!こうなったら献上をすることをやめるしかあるまい……」
「でも、ダンジョンや市井から特別なものが出たら……」
「そ、そんなに容易く出るようなものでもあるまい……しばらくは大人しくしておこう」
立て続けに贋作を王に献上したことで、焦りを隠せないガンブツ親子であった。




