リューおじいさん
チリンチリン……
「あっ、おかえりなさい」
俺はフェリシーちゃんに出迎えられた。
銀髪美少女のおかえりなさいという言葉にジーン……と感動を覚えてしまう。
「あの……どうかされました?」
「……こほん、ただいま」
俺は彼女に不思議そうに見つめられ、なんとも照れてしまった。
「上手く交換はできましたか?」
「ああ、問題なく手続きできたよ」
「それはよかったのですが……質草、お預かりしちゃって大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよ。もしおじいさんのお眼鏡に敵わなかったら新しく店を立ち上げようと思うから」
「そうですか……なんだか残念な気がしますね……」
フェリシーちゃんは少し寂しそうにうつむいた。
「そうならないように頑張るよ。フェリシーちゃんも応援してね?」
「はい。頑張ります」
既に閉店作業は終わっているようで、俺たちは一緒に店を出た。
そして職人街から少し歩いた静かな街並みに到着すると、
「あそこです」
白い石壁造りの三階建ての建築物が見えてきた。
『聖イリアス国立病院』
確かこの国の建国王の名前がイリアス様だったな。
そんなことを考えながら病院内を先導するフェリシーちゃんの後をついていく。
そうして清潔感の溢れる病棟を歩いていると、103と書かれたプレートが掛けられている病室へとやってきた。
コンコン。
「どうぞ」
フェリシーちゃんがノックをすると中から声が聞こえてきた。
ガチャッ。
「おじいちゃん、来たよ」
「おお、フェリ。毎日毎日ありがとうな」
「ううん。私もおじいちゃんに会いたいもん」
店では大人びて見えたフェリシーちゃんだが、こうして見ると年相応の女の子に見えた。
「おや?後ろの方は?」
「えっと……」
「はじめまして、僕はリソールと申します」
「これはこれはご丁寧に、リューと申します」
リューさんは白く染まった髪にたっぷりのヒゲを蓄えた優しそうなおじいさんだ。
人当たりの柔らかさに人柄がよく出ている。
「単刀直入で申し訳ありませんが、リューさんのお店をやらせてもらえませんか?」
「ふむ……突然じゃな?」
「失礼なことだとはわかっていますが、僕は店内のものを見させてもらい素晴らしく思いました。リューさんの鑑定眼に惚れ込んだんです。どうかお許しをいただけませんか?」
「おじいちゃん、私からもお願い。リソールさんはいい人だと思うよ」
「うぅむ……しかし突然孫娘が嫁ぐということになるのは、複雑なものだ……」
……ん?誰が嫁ぐって?
「ち、違うよおじいちゃん!結婚はしないからね!」
「なんじゃ違うのか?ほほほ、びっくりしたわい。てっきり結婚して二人で店をやっていくものかと思っての」
「そ、そんなわけないじゃない!今日会ったばかりなんだから!」
「今日会ったばかりの人と店をやりたいのだろう?勘違いしても仕方ないじゃろうて?」
「た、確かにそうかも知れないけど……」
「その……フェリシーさんをもらいに来たわけではなくてですね……?」
「なんじゃ孫娘が気に入らんというのか?うちの看板娘じゃぞ?」
「いえ気に入らないということではなく、フェリシーさんは可愛くて綺麗だし一緒にやっていけたらなとは思いますが……」
「なんじゃ?いたく気に入ったようじゃの?」
「おじいちゃん!」
「おお、怖い怖い」
ほっほっほっと笑うリューさん。
この人本当に病気なんだろうか?
「冗談はさておき、店のことじゃが本気なのかのぉ?」
「はい、本気です」
「じゃがわしは君のことを知らん」
「一応紹介状がありますが、読んでいただけますか?」
「拝見しよう」
俺は鞄から紹介状を取り出すと、リューさんに渡した。
「なんと……オルドスの国立学院の長であるセレイン殿の紹介状か。ふむ……紋章も相違ない」
「リソールさんってすごいんですね?」
「いや、そんなこともないよ」
尊敬の眼差しで見つめられ、俺も鼻高々……だったのだが、
「鑑定眼は一流だが、国王に逆らって国外追放になったたわけと書かれているな」
「王様に逆らったんですか!?」
「まあ……そうですね、はい」
ポッキリと折られてしまった。
「ホホホ、そう落ち込むでない。師として誇りを持っていると書き終えてある。君は認められているんだろう」
「そうだと嬉しいですね」
「じゃが、本当にいいのかのぉ?この紹介状さえあれば国立博物館にだって勤められるのに。潰れかけのボロ質店にはもったいなかろう?」
「そんなことありませんよ。素晴らしいお店だと思います」
「そうか……婆さんと一緒に始めた店をのう……」
リューさんはヒゲをなぞりながら、俺をまっすぐと見つめてきた。
その目は俺の中までを見通すような眼力だった。
「……一つだけ条件がある」
「なんでしょうか?」
「君の資金力を見させてもらいたい。質店には鑑定眼に次いで大事なものじゃ」
「でしたらこちらをご覧ください」
俺は先ほど作った黒い通帳をリューさんに見せた。
するとリューさんはカッと目を開いた。
「……なんとも貯めたものじゃのう?どうやってこれだけの貯金をしたんじゃ?」
「休日はダンジョンに潜ってましてね。そこでいろいろと発見をしてハンターギルドから報奨金をいただいていました」
「お主、ハンターでもあるのか?」
「駆け出しのようなものですけどね」
「ふふっ、面白い男じゃのう君は。フェリが気に入ったのも納得じゃわい」
「べ、別に……気に入ったとかじゃないけど……」
「ホホホ……リソール君。小さな店だが想いだけはこもっている店だ。君に任せていいかのぉ?」
「お任せください!人のため、もののために最大限に力を尽くさせてもらいます」
「そうか……そうか」
「ふふふ、おじいちゃん、嬉しそうだね?」
「それはもちろんじゃ。喪ったはずの跡継ぎができたのじゃから。あとはひ孫さえ見れればのぉ……」
「そ、それは関係ないでしょ!」
真っ赤な顔で怒り出すフェリシーちゃんに、楽しそうなリューさん。
こうしてリューさんに認められた俺の新しい人生の一歩が始まるのだった。




