銀行でVIP対応されました
職人街を抜け、メイン通りの大きな一画に銀行はあった。
『レインクリル銀行』と看板が掲げられており、二階建てだが面積は大きい。
「すいません、換金をお願いしたいんですがこちらでよろしいですか?」
「はい、こちらで承ります」
俺とお客さんであるガルドさんは並んで窓口前の椅子に座った。
「こちらの白金貨を換金したいのですが」
「失礼いたします」
受付の女性は金貨を受け取ると、まじまじと白金貨を見つめていく。
「こちらオルドス製の白金貨ですね。アリシオル金貨百枚となりますがよろしいですか?」
「はい、それで結構です」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
受付さんはそう言うとさっと奥に引っ込んだ。
「おおっ……疑って悪かったな」
「いえいえ、大金となるとそういうものですので。では今のうちにサインをしておきますか?」
「ああ、もちろんだ」
俺はさきほどの書類を取り出すと、ガルドさんにサインをしてもらった。
「よかった……これで娘も助かってくれるはずだ……」
「ええ、僕もお祈りさせていただきます」
「お待たせいたしました。こちらアリシオル金貨百枚となります。ご確認を」
「ありがとうございます」
俺は十枚束である金貨を数えると、しっかりと百枚あった。
「ではガルドさん、受け取ってください」
「ああ!感謝する!」
ガルドさんは鞄から革袋を取り出すと、金貨をしっかりと中に納めた。
「それじゃ俺は病院に支払いに行ってくる。また利子の支払いのときに店に伺うよ」
「はい、待っています」
「本当に……ありがとう!」
ガルドさんは俺の手を両手で握ると、何度も頭を下げて去っていった。
「さてお時間を取らせて申し訳ありません。もう一つ要件がありまして」
俺は改めて受付さんに向かい合う。
「ええ、なんでしょうか?」
「預金をお願いしたいのですが」
「はい、おいくらほどですか?」
「先ほどの白金貨二百枚ほどですね」
「……はい?」
受付さんのにこやかな笑顔が凍りついた。
「二百枚とおっしゃいました?通常の金貨ではなく、白金貨で?」
「はい。多分そのくらいはあるはずです」
ジャラッ。
俺は革袋を取り出すとカウンターの上に乗っけた。
「し、失礼いたします……」
受付さんは一枚を手に取り、先ほどと同じようにじっくりと見ていく。
するとしっかりと確認できたようで次の金貨を取り出した。
それを五回ほど繰り返した後、にっこりと笑った。
「少々お待ちくださいませ」
そう言って再び席を立つと、奥へと消えていく。
やっぱり、多すぎたかな?不審に思われたかも……
でも白金貨は普段の取引には向かないし、手元に置いておくのも嫌だしな。
「お待たせいたしました。私、王都本店を管理しておりますもので、シュリーズ・アンバルドと申します。お見知りおきを」
氏持ちの人だ。
貴族やお金持ちの人が国に献金して購入するパターンが多いが、シュリーズさんはどちらのタイプだろう。
眼鏡に白くなってきた茶髪をしっかりとセットして、質の良いスーツを身に纏っていて、顔つきから温和な男性といった感じが見える。
「あっ、リソール・クレインです」
あんまり氏は名乗りたくないのだが、こういう場所では礼儀正しくしておかないとな。
「それではリソール様。奥の個室にどうぞ」
とんだVIP対応である。
小市民な俺には胃が痛くなるものだ。
とはいえ金額が金額なため、ここで対応するのも難しいのだろう。
「ありがとうございます」
俺はシュリーズさんの後についていき、個室へと案内された。
「それではオルドス製の白金貨、確認させていただきます」
「はい、よろしくお願いします」
黒い革張りのソファーに座らせてもらい、黒壇のテーブルに置いた革袋の中を確認していく。
さすが店長というべきか、先ほどの受付さんよりもあっという間に早く鑑定が終わった。
「確認しました。オルドス製の白金貨二十一枚ですね。こちら全額を預金させていただくということでよろしいでしょうか?」
「はい、そのかわりなんですが」
「伺いましょう」
「小切手帳を発行していただけませんか?」
「もちろんです。ですが今すぐにというわけには……」
「大丈夫です。そんなに急ぐわけではありませんし、営業時間ギリギリだっていうこともわかっていますので」
「ありがとうございます。リソール様は事情を汲んでくださるお方ですね」
「あっ、やっぱり無茶を言う方もいます?」
「それはもう……あんまり大きな口では言えませんけどね?」
ふふっと微笑むシュリーズさんに俺も笑った。
「ですがリソール様とは良いお付き合いができそうです。この都ではご商売を?」
「そうですね。質屋で雇ってもらおうかなって」
「……開業なさるのではなく、雇用ですか?」
「ええ、いいお店を見つけたのでそこで雇ってもらおうと思いまして」
「確かに質屋は開業するのに国からの認可が要りますからね。それを省く点では良いのでしょうが……どこのお店ですか?」
「リュネット質店という店です」
「ああ、リューおじいさんの店ですね?通な方が通うと言われている質店で鑑定眼もしっかりとした方です」
「やっぱりそうですか」
「ええ、ガメツーク質店とは違って丁寧でしっかりと価値を見いだしてくれると評判です」
「さっきの難しいお客様って……ガメツークの人だったりします?」
「こほん……それは守秘義務とさせていただきます」
そう言っているシュリーズさんだが、苦笑している。
やっぱりあの店員がいるような店だと難しいんだろうな。
「それでは通帳を記載させていただきますので、アリシオル製金貨、二万一千百枚という記帳でよろしいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いいたします」
「かしこまりました」
シュリーズさんは真新しい黒い通帳にサラサラと記帳し、判子を押した。
「それではこちらをお受け取りください」
「ありがとうございました」
ふぅ……これで肩の荷が下りた。
大金なんて持ち歩くものじゃないな。
俺は通帳を鞄に入れると立ち上がる。
「それでは入り口までお見送りします」
「そこまでされると恐縮しますよ」
「いいえ、そうはいきません」
にっこりと微笑むシュリーズさんだが、有無を言わせぬ態度だ。
「それじゃ、よろしくお願いします……」
「「「ご利用ありがとうございました!」」」
手の空いている行員さんが並んで頭を下げてくる。
当然何ごとかと他のお客さんに見られてしまい、なんともこそばゆい。
「それでは三日以降にお越しくださいませ。小切手帳を用意しておきますので」
「はい、よろしくお願いします」
ふぅ……さて結構時間が過ぎちゃったな。
急いで戻ろうか。
腕時計は午後三時四十五分を過ぎようとしていた。




