ようこそ!リシオンへ!
しかしまあ……俺の人生は突発的なことばかり起こるな。
前世では突然死。
今世では地方貴族の家の三男に生まれ、幼少期に前世の記憶を思い出し必死で学業と武芸に精を出したが、十五で成人したらさっさと家を追い出された。
それからは王都の奨学生制度を利用し、国立学院のアーティファクト科に入学してからは勉学に勤しみ、休日はトレジャーハンターの探索についていきダンジョン化した旧都に潜る日々を過ごした。
ダンジョンとなった旧都はモンスターが出現し、あらゆるところを徘徊しているが、モンスターを倒すと魔石が採取できこれは今の魔法工学のエネルギーとなる。
それに加え、王城であった場所には絵画や芸術品が多く並んでおり、どういう仕組みか?取ってもまた次の絵画や芸術品が飾られていることもある。
俺にとっては命の危険がある博物館のような場所だった。
俺は自身の生を省みつつ、馬車を乗り継いで行った。
そうして一週間が過ぎた頃、俺はアリシオルの国境をまたいだ。
なんだかすっきりとした気分だ。
これで金の無心をする両親や無能な上司ともおさらばできる。
……先生にはお世話になった分寂しい思いもあるけどな。
さて、首都のリシオンに向かうのは確定している。
(芸術品が多く集まる場所だし博物館もある上にダンジョンも近くにあるからな)
そこで紹介状を渡すのもいいが、もう宮仕えはしたくない。
とすると……この国のハンターギルドに登録して自分自身でお宝を発見するか?
教師というのもしてみたいが、宮仕えになっちゃうか?
うーん……迷うなぁ……
「おーい、兄ちゃん」
「は、はい!?」
「リシオンに着いたぜ?さっさと降りてくれよ」
「い、いつの間に!ありがとうございました!」
気づけば多くの乗客がいた馬車も俺だけになっていた。
俺は急いで馬車から降りた。
城壁の外の馬車乗り場から正門がある場所に流されるままに移動していく。
そして長蛇の列の入場審査で待たされることになった。
ひぇぇぇ……さすが大国のアリシオルだな……
オルドス王国もそれなりの国だったけどここまでじゃなかった。
「それでは次」
あっ、俺の番だ。
「よろしくお願いいたします」
受付所の衛兵に俺は頭を下げつつ、近寄った。
四十代ほどでベテラン衛兵といった感じの人だ。
「名前と歳は」
「リソール・クレイン、二十一歳です」
「うん?氏を持っているのか?」
「一応持っていますが、大したものではありません」
「そうか。ならば入場の目的は?」
「鑑定士ですのでそれに見合った職に就きたいと参りました」
「ふむ……鑑定士か。ならばこの万年筆の価値はわかるか?」
そう言って手渡されたのは黒い樫の木で作られた万年筆だった。
「これは……いいものですねぇ……材質はブラックオークス。ペン先は希少金属のミスリル。それにこのアリシオル王家の盾と天秤の金印。王家からの贈り物ですか?」
「見事。私が勤続二十年の祝儀としていただいたものだ」
「それでは合格でしょうか?」
「ああ、鑑定士は必要な人材だからな。あと一応持ち物を見せてもらおうか」
俺は着替えの入った旅行鞄の中を見せる。
「危険物はこの剣くらいか」
「一応護身用でして」
「持ち歩きは許可された者だけなので定住先が決まったら部屋に置いておくのだぞ?」
「はい、わかりました」
「それでは入門を許可する」
衛兵さんは書類にポンっと判子を押すと俺に渡してくれる。
俺の名前が入った滞在許可証だ。
「でしたらどこかオススメの職場はありますか?」
「ふむ……ハンターギルド所属の鑑定士も足りていないし、試験はあるが国立の博物館も収入はいいぞ?」
「できましたら民間で働きたいなと思うんですが……」
「それなら……質屋なんてどうだ?」
「質屋ですか?」
「ああ、鑑定は必要なスキルだし民間の組織だ」
「いいですね。探してみます」
「それなら入門して左側にある職人街に行くといい。そこに質屋が何店舗かあるからな」
「ありがとうございます」
「ようこそ。アリシオルが首都リシオンへ」
こうして審査を終えた俺はリシオンへと入っていった。
そして衛兵さんに言われたように職人街へと歩みを進めると、鍛冶屋、布地屋、木工屋など多くの店舗が並ぶ場所へとやってきた。
さすが活気のある場所だな。
そんな感想を漏らしつつ、俺は質屋を探した。
すると『ガメツーク質店』という立派な建物の質屋を発見し、俺は早速中に入って見ることにする。
「いらっしゃいま……はぁ……」
小太りの店員が俺を見た瞬間にため息をついた。
二十代くらいで俺よりも少し歳上だろうか?
背の低い金髪の男だ。
「なに?買い取り?」
ずいぶんと刺々しい接客である。
恐らく旅支度の俺の格好を見て金がないものだと思われたのだろう。
「あっ、えっと……この剣、いくらになります?」
俺は旅行鞄から剣を取り出すと、店員に渡した。
「はぁ?こんなみすぼらしい剣、銅貨の価値もないよ。さっさと帰んな」
「そうですか……ありがとうございます」
ここは無理だな。
飾ってある品々も金や銀、宝石といったものばかりで俺にとっては悪趣味としか言いようがない。
「ははは!そんなの買い取ってくれるのは変わり者のじいさんがやってる質屋くらいだ!」
「そこってどこにありますか?」
「街外れにあるリュネットって店だよ!わかったらさっさと出ていけ貧乏人!」
嘲るような笑い声を背中に受けつつ、俺は店を出た。
リュネット質屋か。
探してみるとしよう。
俺は大きな通路から外れた道を歩き、裏通りを探してみる。
すると少しして見つけることができた。
『リュネット質屋』
さきほどの立派な店とは違い、こじんまりとした店構えでなんとも古臭い。
だが、なんとも味のある雰囲気が俺には刺さった。
入ってみようか。
俺は木製の扉を開くと、チリンチリン……と鐘の音が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ」
あれ?変わり者のおじいさんと聞いていたが、店員さんは可愛い女の子だった。
十代後半くらいで銀髪のロングヘアーに白いカチューシャを着けている。
水色の瞳に白い肌。
まるでアンティークの人形のような女の子だ。
「お客様?どうしました?」
「い、いや……失礼しました……」
ジッと見つめていたのを恥ずかしく思い、俺は店内を見渡した。
すると、金銀宝石といった類はない。
古ぼけた人形や剣、絵画や食器類などがあった。
おぉ……!これは天才と言われたアロンドラの人形!?二百年前の作品だぞ!?それにこれはチェルシードの食器か!?描かれたトレードマークの猫が愛らしい!あっちもこっちも!十年や二十年といった類の美術品じゃない!百年単位の芸術品ばかりだ!
「ここは宝の山だぁぁぁ!」
「お、お客様?」
「し、失礼いたしました……これらの品々に興奮しまして……」
「お客様は価値がわかるのですか?」
「ええ、素晴らしいものばかりですよ?」
「そうですか……私にはわからなくて……なんとなくいいなとは思うんですが……」
女の子はそう言うと少し悲しそうな表情を浮かべた。
「そういえばここはおじいさんがやっているお店と聞きましたが?」
「祖父は入院してしまったので、残念ながら買い取りはもうやっておりません。それにあと少しでお店も閉めるつもりです」
「そ、そうなんですか?」
「はい……」
ここのお店を無くしたくない。
そう思った俺はお願いすることにした。
「ここで俺を雇ってくださいませんか!?」
「えっ……?」
俺の提案に女の子は目を丸くして驚くのだった。




