使い古された短剣
チリンチリン。
「おおい、やっとるかい」
休み明けの午前中、お客さんがやってきた。
五十代くらいのおじさんで陽気な感じだ。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件で?」
「いやあ買い取りしてもらえるって聞いてな。お宝を持ってきたんだ」
お宝と聞いて身体も心も湧き上がる。
「それでは見せてもらってもいいですか?」
「おおよ」
おじさんは革袋から剣を取り出すとカウンターの上に置いてきた。
ふむ……特段装飾に特徴があるわけではなく普通の短剣のように見えるな。
「これはどういったもので?」
「ふふふ……聖騎士アダルシアが使ったという逸話がある剣だ」
「聖騎士アダルシアって絵本にもなっているドラゴン退治の英雄じゃないですか!」
「おおっ!わかってるねお嬢ちゃん!」
フェリシーちゃんが興奮した様子で短剣を見つめている。
聖騎士アダルシア、当然俺も知っているが……なんとも胡散臭い。
「ははは、二百年も前の短剣には見えませんね」
ギクッ。
「そ、そんなことないだろう?」
「いえいえ、今では貴重となりましたがアダルシアの時代はミスリルが使われるのが一般的だったんですよ。ですがこれはただの鉄剣。まったくもって時代考証と合わないものですよ」
「いやぁ……難しいことはわからないなぁ……」
「そうですか。まあそれなりに鍛えられた短剣ではあるので銀貨五枚ってところですかね」
「まあそんなとこだよなぁ」
「知ってて持って来ましたね?」
「なははは、さすがに騙されることはなかったか。それは以前俺がハンター時代に金貨二枚で買ったものでよ。それでもちゃんと磨いて大事に使ってたんだ。もうちょっとどうにかならないか?銀貨七枚とか!」
「想いはわかりますが、特段珍しいものではありませんし頑張って銅貨五枚をプラスするくらいですね」
「銀貨六枚は!?」
「いいえ、銀貨五枚と銅貨五枚が最終価格です」
「……ええい!売った!」
「はい、お取引ありがとうございます」
最終価格は日本円で5500円でフィニッシュ。
おじさんは売買契約書にサインをすると、俺は手元にある手さげ金庫から銀貨五枚と銅貨五枚を取り出すと、おじさんに渡した。
「価値は大したものじゃないかもしれないが、俺を守ってくれたものだ。大事に扱ってやってくれ」
「ええ、次代に繋がる方にお譲りしたいと思います」
「ありがとうよ。じゃあな」
おじさんはそう言うと店から出て行った。
「もう!驚いて損しちゃいました!」
「あはは、そんなに簡単にお宝が出てくるわけじゃないよ」
「それはわかってますけど……」
「でもまあこの短剣もいい仕事をしているよ。金貨一枚ってところかな」
俺は値札を書くとフェリシーちゃんに渡した。
「武器類はこちらですね。早く持ち主さんが見つかるといいね」
こうしてリュネット質店に新しい商品が入荷したのだった。
チリン……チリン……
おっ、この大人しい扉の開け方は。
「こんにちは……」
アイリスさんがやってきた。
「こんにちは、アイリスさん」
「いらっしゃいませ!」
俺とフェリシーちゃんが笑顔で出迎えると、アイリスさんもぎこちなくもあるけど笑顔を見せてくれた。
「この間はありがとうございました……お父さんもお母さんも喜んでくれました……」
「それはよかったです。あの猫ちゃんですが、公爵家の娘さんがとても気に入ってくれましてね?追加注文が来ていたところなんですよ」
「公爵家の……お嬢様……!?」
アイリスさんは驚きの表情を浮かべた。
「とても可愛がってくれたそうですよ?ねぇフェリシーちゃん」
「はい、お名前までつけていましたよ。シュリーちゃんです」
「そ、そんな畏れ多いです……」
「公爵令嬢も普通女の子と変わりないんですよ。可愛いものが大好きなんです」
「……そうなんですね」
「今日はまた持ってきてくれたんですか?」
「はい……以前に作ったものですが、ワンちゃんとクマさんです」
アイリスさんは鞄から二つの編みぐるみを取り出すと、カウンターの上に置いた。
「きゃぁ!可愛いですね!」
フェリシーちゃんははしゃぎながら二つの編みぐるみを見つめる。
「ありがとうございます。それでは一つ金貨三枚で購入させていただきますね」
「えっ?金貨二枚だったはずでは?」
「上手く商談がまとまりましてね。買い取り金額をアップさせていただきます」
「あ、ありがとうございます!」
「またいつでも持ってきてくださいね。大歓迎です」
「はい……!」
俺の言葉にアイリスさんは嬉しそうに笑った。
最初に来た時の自信のない表情とはまったく違う笑顔を見て、この仕事に就いてよかったと思う。
「うーん……ワンちゃんとクマさん、どっちも可愛いなぁ……」
アイリスさんが帰った後、フェリシーちゃんは二つの編みぐるみを見比べながら頬を緩ませていた。
そうだな。
これくらいのプレゼントはいいだろう。
「一つプレゼントするよ。どっちがいい?」
「えっ!?いいんですか!?……ってそういうわけにもいきません」
「いいのいいの。こうして二人で働けるようになったのもフェリシーちゃんのおかげなんだから」
「……本当にいいんですか?」
「もちろん」
「それじゃぁ……ワンちゃんの方が欲しいです……」
俺はフェリシーちゃんが指差した方を手に取ると、彼女に差し出した。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます!大事にしますね!」
「そうしてくれると嬉しいな」
「はい!」
フェリシーちゃんはギュッと犬の編みぐるみを抱きしめると、にっこりと微笑んだ。
その笑顔を見させてもらってこちらこそありがとうと言いたい。
そんな気分だった。




