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勿忘草  作者: 悠羽
7/11

第七話 同じ花を見ていた

その花を、

 私は探していたわけじゃなかった。


 昼休み、

 コンビニに行く途中で、

 たまたま目に入っただけだ。


 駅前の、小さな花屋。


 季節の花が、

 整いすぎない距離で並んでいる。



 足が止まったのは、

 色のせいかもしれない。


 派手じゃない。

 でも、目を逸らしにくい。


 そこにあることを、

 無理に主張しない色。



 値札の横に、

 小さなカードが立っていた。


 花の名前と、

 短い言葉。


 忘れないで。


 胸の奥が、

 静かに揺れた。



 買う理由は、

 特になかった。


 飾る場所も、

 すぐには思いつかない。


 それでも、

 気づけばレジに並んでいた。



 部屋に戻り、

 花瓶を探す。


 母が使っていた、

 少し欠けたガラスの花瓶。


 水を入れて、

 花を挿す。


 それだけのことなのに、

 妙に、手つきが慎重になる。



 部屋に、

 静けさが増えた気がした。


 悪い意味じゃない。


 むしろ、

 落ち着く。



 その夜、

 久しぶりに、

 夢をはっきり覚えていた。


 内容は、

 相変わらず曖昧だ。


 ただ、

 誰かと並んで歩いていた感覚だけが、

 残っている。



――彼女


 その花を、

 私は昔から、

 好きだった。


 理由は、

 はっきりしている。


 静かだから。



 目立たない。

 でも、

 ないと困る。


 そういう存在が、

 私は好きだった。



 あの頃、

 私たちは、

 よく駅前を歩いた。


 夕暮れの時間。


 特別な話は、

 していない。


 今日あったこと。

 どうでもいい愚痴。

 少し先の予定。



 それでも、

 花屋の前だけは、

 必ず立ち止まった。


 彼は、

 いつも黙って、

 花を見ていた。



「好きなの?」


 そう聞くと、

 少し困った顔をして、

 首を振った。


「嫌いじゃない」


 それだけ。



 その答えが、

 なぜか、

 とても彼らしいと思った。



 今。


 私は、

 その時間を、

 ほとんど思い出せない。


 映像も、

 声も、

 途切れ途切れだ。



 それでも、

 同じ花を見ると、

 胸の奥が、

 確かに反応する。



 忘れないで。


 花言葉を読んだとき、

 それが誰に向けられた言葉なのか、

 分からなくなった。



 彼だったのか。

 私だったのか。


 それとも、

 あの時間そのものだったのか。



 夕暮れの匂いがする。


 私は、

 ふと立ち止まる。


 前を歩く人の背中が、

 一瞬だけ、

 重なった気がした。



 振り返る。


 誰も、いない。



 でも。


 確かに、

 同じ場所にいた。


 同じ花を、

 同じように、

 見ていた。



 名前がなくても、

 それだけは、

 分かってしまった。


第八話:言葉を交わしても、名乗らない

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