後書き
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
この物語は、
はっきりした答えを用意しないまま、
最後まで進んできました。
彼女が誰だったのか。
二人がどんな関係だったのか。
本当に恋だったのか。
それらを明確にしなかったのは、
隠したかったからではありません。
私自身が、
記憶や感情というものを、
いつもそんなふうに扱ってきたからです。
思い出せない時間があること。
名前のない感情が残っていること。
それでも、
人は前に進めてしまうこと。
そして、
前に進んだからといって、
失われたものが無意味になるわけではないこと。
この物語は、
「何があったのか」を描く話ではなく、
「何が残ったのか」を描く話でした。
タイトルにもなっている「勿忘草」は、
英語では Forget-me-not、
学名では Myosotis と呼ばれる花です。
ギリシャ語で、
「小さな鼠の耳」という意味を持つ名前だそうです。
目立たず、
踏みつけてしまいそうなほど小さくて、
それでも、
確かにそこに咲いている花。
この物語で描きたかったのも、
そんな存在でした。
もし読み終えたあと、
ご自身の夕暮れや、
思い出せない誰かのことを
少しだけ考えたなら。
あるいは、
思い出さなくてもいい過去が、
確かにあったことを
受け入れられたなら。
それだけで、
この物語は、
役目を果たしたのだと思います。
静かな時間を、
ここまで共有してくれて、
本当にありがとうございました。




