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勿忘草  作者: 悠羽
10/11

最終話 勿忘草

夕暮れは、

 相変わらず、同じ色をしていた。


 特別な日でも、

 記念日でもない。


 ただ、

 一日が終わろうとしているだけの時間。



 彼女と、並んで歩く。


 距離は、

 近すぎず、遠すぎず。


 肩が触れることはないけれど、

 人混みでは、

 自然と歩幅が揃う。



 名前は、

 もう知っている。


 音として。

 意味として。

 そして、

 花として。


 でも、

 呼ばない。



 呼んでしまえば、

 何かを決めなければならなくなる。


 過去だったのか。

 恋だったのか。

 失われた時間だったのか。


 あるいは、

 これから始まる何かだったのか。



 私は、

 もう前に進んでいる。


 彼女も、

 きっと同じだ。


 だから、

 確かめ合わない。



「この時間帯、

 やっぱり静かですね」


 彼女が言う。


 あの日と、

 同じ言葉。



「……そうですね」


 私は、

 少し遅れて答える。


 その“少し”が、

 なぜか、

 心地よかった。



 信号が変わる。


 ここで、

 別れる。


 分かっている。



 彼女は、

 一歩だけ、

 歩調を緩めた。


 私も、

 同じように。


 でも、

 振り返らない。



 夕暮れの匂いが、

 確かにあった。


 それはもう、

 痛みじゃない。


 懐かしさとも、

 少し違う。



 本物だったのは、

 匂いだけじゃなかった。


 でも、

 それが何だったのかを、

 今、言葉にする必要はない。



 名前は、

 心の中に、

 静かに置いておく。


 花が、

 咲き続ける限り。



 前に進むことと、

 失ったものを認めることは、

 矛盾しない。


 私は、

 それを知った。



 夕暮れは、

 今日も、

 ただそこにあった。


 それで、

 十分だった。


後書き

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― 新着の感想 ―
海は近くにないけらど 夕暮れは味噌汁の匂いと子ども達の声 Hallelujahとトランペットの音が聞こえる 街に住んでいます とても心にしみました ありがとうございました
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