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一緒に

翌日、勇希が学校に着き、教室へ入ろうとしたその時だった。


「勇希」


廊下で突然、隣に現れた影に足を止める。


「……何だ?」


マコは少し言い淀んだあと、小さく息を吸った。


「私……成績が悪い教科がいくつかあって」


意外な言葉に、勇希は眉をひそめる。


「まだ新学期だろ」


「だからよ!」

マコは少し不機嫌そうに言った。

「今のうちに何とかしないと、後がもっと大変になるでしょ」


勇希は小さくため息をつく。


「断る」


「えっ!?」


「俺は家庭教師じゃないし、お前を助ける義務もない」


マコは一瞬、言葉を失った。

そして、さっきより少しだけ小さな声で言う。


「……じゃあ、友達になってあげる」


勇希の動きが止まった。


「……は?」


「勇希、いつも一人でしょ」

マコは目を逸らしながら続ける。

「一緒に勉強するなら、それって友達ってことじゃない?」


勇希は顔を背けた。


「……面倒くさい」


沈黙が数秒続いたあと、彼はもう一度ため息をついた。


「分かった。ただし、勉強だけだ。変なことはするな」


マコの顔が一気に明るくなる。


「決まりね!」


昼休みになると、いつものように美奈が勇希の教室にやってきた。


「勇希、一緒にお昼食べよ」


立ち上がった勇希だったが、美奈は近くに座っている由里に気づいて足を止める。


「あ、由里ちゃん。よかったら一緒にどう?」


「え……わ、私?」


「うん。大人数の方が楽しいでしょ」


少し迷ったあと、由里は小さく頷いた。


三人で席につくが、空気はどこか微妙だった。


勇希は黙々と食べ、

美奈は他愛もない話を続け、

由里はほとんど聞き役で、時々無意識に勇希を見ていた。


放課後、勇希は図書館へ向かった。

だが、そこにはすでに見慣れた二人の姿があった。


「……マコ?」

「……由里?」


「ちょうどいいわ」

マコが笑顔で言う。

「みんなで勉強しましょ」


こうして、四人は並んで机に向かうことになった。


翌朝、勇希は遅刻した。


渋滞でも、雨でもない。


ただの寝坊だ。


校門へ走る途中、前方に見覚えのある後ろ姿を見つける。


由里だった。


勇希の気配に気づいた瞬間、由里はピタッと止まる。


「ち、違うの! 誤解しないで!」

「私が遅刻したのは、大事な理由があって……!」


勇希はじっと彼女を見る。


少し乱れた髪。

慌てて着たような制服。


「……枕と大事な用事でもあったか?」


「ち、違うもん!!」


結局、二人そろって怒られ、学校のプール掃除を命じられた。


昼休み、美奈はまた勇希を誘う。


「勇希、今日も一緒に食べよ?」


「今日はパスだ」

勇希は即答した。

「静かに過ごしたい」


だが逃げる間もなく、左右から声がかかる。


「勇希」

「来なさい」


その瞬間、勇希は悟った。


もう昼飯を選ぶ権利はない。


次の勉強会で、勇希の我慢は限界に近づいていた。


マコが距離を詰め、髪を指で弄ぶ。


「ねえ、髪切ったんだけど。どう?」


「似合ってる」

勇希は一瞥して言う。

「髪と頭の中が同レベルでな」


「はぁ!?」


今度は由里が、お菓子を取り出す。


「お、おやつ持ってきたの……はい、食べる?」


勇希は目を細めた。


「毒入ってないだろうな」


「なんで私を悪役にするの!?」


二人の作戦は、見事に失敗した。


美奈はそれを見て、ただ笑っている。

彼女には、仲のいい友達同士のやり取りにしか見えなかった。


しばらくして、美奈が教科書を見つめて眉をひそめる。


「勇希……ここ、よく分からない」


勇希は真剣な表情で近づき、説明を始める。

距離はかなり近い。


由里とマコは目を合わせた。


勇希が距離感に無自覚なのを見て、二人はチャンスだと感じる。


「勇希……私も、ここ分からない……」


由里の横に移動し、淡々と説明する勇希。


至近距離から見る彼の顔に、由里の頬が熱くなる。


「……え?」


次はマコだった。


勇希は机に手をつき、ノートを指さす。

気づかないうちに、その手がマコの肩に触れていた。


「どうだ? 分かったか?」


軽く微笑み、目を閉じた一瞬。


マコは完全に固まった。

その後の説明は、耳に入らなかった。


再び美奈が助けを求め、勇希はついに眉をひそめる。


「この調子だと、俺が勉強する時間なくないか?

数学の問題、俺自身が分からないんだが」


「……私、数学ならできる」


由里がすぐに言う。


「本当か?」


「うん」


「私は歴史得意よ」

マコが続ける。


「私は国語なら満点ばっかり!」

美奈が胸を張った。


偶然にも、それらはすべて勇希の苦手科目だった。


三人が交代で教え、少しずつ理解できていく。


「由里、マコ、美奈」

勇希は素直に言った。

「ありがとう。やっと分かった。意外と役に立つな」


三人が固まる。


「ど、どういたしまして……」

「役に立つって言い方やめなさい!」


美奈とマコは、それしか得意科目がないと認めた。


勇希は小さく呟く。


「じゃあ、他は役立たずか」


「え?」

「今なんて?」


「……何でもない。忘れろ」


勇希は由里を見る。


「数学だけ得意なのか?」


「うん。他は普通……でも赤点はないよ」


「いいな」

勇希は頷いた。

「やっと普通の人間がいた」


帰り道、由里とマコは別々に歩いていた。


だが、考えていることは同じだった。


近すぎた距離。

勇希の笑顔。


マコは胸に手を当てる。


「……何なのよ。ちょっと笑っただけなのに……」


由里は両手で顔を覆う。


「ち、違う……私が翻弄するはずだったのに……」


顔が熱い。


「完全に逆。絶対おかしい」


否定しても、ひとつの事実だけははっきりしていた。


彼女たちの“ゲーム”は、すでに台本通りではなくなっていた。


そして勇希は――


まだ、何も気づいていなかった。

静かに、確実に、周囲が変わり始めていることに。

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