3人の天使
ユウキとミナが付き合っているという噂が広がったその日、
学校はまるで超高性能のゴシップマシンになった。
「ミナ、見る目落ちた?」
「ユウキって実はチート持ちなんじゃね?」
「ミナ様〜〜!なぜあんな凡人を〜〜!?」
……みんな好き勝手言っていた。
当のユウキはと言うと、
ただ空を見上げながら「消えたい」と願っていた。
彼の人生の目標はたったひとつ。
失恋同盟に入ること。
学校中の話題になることではない。
その朝も、ミナはいつものようにチャイム前までユウキを送り届けた。
「じゃ、行くね。誰かに絡まれたら言いなよ?」
「大丈夫。」
「いいから言いなって。あんたホント無防備なんだから。」
ミナが去り、ユウキが教室へ入ると……地獄パート1が始まった。
クラスの奥では、三大人気女子の一人、ユリが完璧な笑顔で待ち構えていた。
「ユウキ、今日の髪型かわいいじゃん。」
「普通。」
「朝ごはん食べた?」
「食べた。」
「最近ハマってる曲ある?」
「別に。」
ユリは“普通の男子なら落ちるはず”と信じていた。
だがユウキは、壊れかけの返答マシンのように短く返すだけ。
それでもユリは諦めない。
プライドが許さなかった。
休み時間、マコが巨大な弁当を抱えてユウキの前に現れた。
「ユウキ、一緒に食べよ!」
教室は一瞬でざわついた。
“マコに誘われる”というのは、学校男子の中ではもはや伝説級。
負けじと、ユリもゆっくり入ってくる。
「食堂行こうよ。あたし奢るから。」
ユウキは本当は断りたかったが、ミナの“警告”が脳内に蘇る。
「お昼は一緒に食べるからね。逃げないで。」
だからユウキは正直に言うしかなかった。
「今日はミナと食べる約束してる。」
マコ、固まる。
ユリ、固まる。
二人のプライドは粉々だった。
その後、二人は階段のベンチで並んで座り、イライラしつつ負けを認められない様子。
「無視された…屈辱なんだけど。」
「私もよ。あんな態度、信じられない。」
「つまり、目的は同じ?」
「うん。絶対あの子に認めさせる。」
その日から、ユウキは受けてもいないサブクエストに追われる生活になった。
翌日の昼休み、マコとユリがミナに声をかける。
「ミナ〜、今日一緒に食べていい?」
「いいよ。私たち友達でしょ?」
ユウキは悟った。
“今日も平和はこない”。
昼ごはん中、ユリが作戦を開始する。
「あっ…手首痛い…。お箸持てないかも…。」
(さぁ、餌付けして…!という目)
ユウキは冷静に、
「じゃあ食べなくていいよ。俺らで食べるし。」
空気が凍りつく。
ユリの作戦、連載一話目で打ち切り。
次はマコ。
口元にわざとソースをつけて近づく。
「ユウキ、ほら…汚れちゃった…。」
ユウキの返答は変わらない。
「じゃあ食べなくていいよ。」
マコのメンタルゲージがゴリッと削れる。
ミナは小さくニヤリとしていた。
その後、ミナがユウキに無理やり食べさせ、ユウキはむせてマコにもたれかかり、ユリがティッシュで口元を拭くという大混乱。
午後の授業中もユリは話しかけ続けた。
ユウキがとうとう聞く。
「なんでそんな喋りかけてくるの。目的あるだろ。」
「べ、別に!あんた友達欲しいって言ってたじゃん。だから友達になってあげるの!」
ユウキは少し嬉しかった。
気付けば自然に会話していた。
放課後、ミナは急いで帰り、ユウキはやっと静けさを取り戻せると思った。
……が、校門の前にはユリがまだ座っていた。
「まだ帰らないの?」
「お迎え遅れてて…一人は無理…。」
ユウキはため息。
「じゃ、ちょっと歩いて電車乗れば?」
「ひ、一人は怖いもん…。」
「じゃ俺が送る。」
ユリは目を丸くした。
静かなユウキの優しさに不意打ちされたらしい。
電車の中、ユリは何度も横目で見ては髪を整えていた。
「ユウキって意外と優しいよね。」
「そう思うなら勝手に。」
「またそれ…台無し。」
降りた後、ユリは「ちょっとだけご飯行こ」と誘い、ユウキは何度か拒否したが…
ユリの“子犬みたいな目”に敗北した。
食事は意外にも楽しく、ユリの素の姿は学校でのそれよりずっと穏やかだった。
ユウキが家の前まで送ると、彼は驚く。
「家…でかすぎ。」
「普通だよ。ほら、早く帰りな。」
翌日、ユリは攻めの姿勢ではなく、柔らかく優しい雰囲気になっていた。
そして今度はマコが動く。
「ユウキ…勉強教えてほしい。私、全然できなくて…。」
またしても“お願い光線”により断れず、二人は図書室で勉強。
「ユウキ、すごいね。めっちゃ分かりやすい。」
「そう?」
「お礼にごはん奢るね。」
その日も結局、食事して帰ることに。
こうして、ユウキは気付かぬうちにユリとマコとの距離を縮めていった。
一方でミナは最近忙しく、なかなか側にいない。
平穏な日々を求めるだけのユウキの生活は、
もう二度と元には戻らなかった。




