少し嬉しい
入学式、そして今日。二日連続で早帰りできるのは嬉しい。
まぁ、明日からみっちり授業はあるだろうけど。
鳥羽先生が解散と言った後は、各自、好きなように過ごしていた。
一緒に帰ろうと、リオとあかねに誘われて、今こうして一緒に帰っている。
「あ、そうだ」
あかねが何か思い出したように言う。
「せっかくだから、連絡先交換しない?」
「ええで~」
「俺もリオの連絡先欲しい」
スマホをリオのスマホにかざし、3人で連絡先を交換し合う。
今までこういうのはやったことがなかったから少し嬉しい。
寮までは結構早くついてしまう。
「じゃ、また明日な」
「ほな、またな~」
「明日は寝坊しないようにね~」
「それはお前もだ」
それぞれ自分の部屋に戻っていく。
玄関には、段ボール箱が置かれていた。
ドスンと、シングルベットに座りスマホを開く。
アプリには、一番下には親のアイコン。その1つ上にあかねのアイコン。そのもう1つ上にはリオのアイコンが新しく追加されていた。
合計で4つのアイコンが並ぶ。
少し微笑みながらスマホを閉じると、狙いすましたかのようにピコンと通知が入った。
確認してみると、リオの連絡先のもう1つ上に真っ白なアイコンが追加されていた。
名前は3人組。開くと、「やっほー」というメッセージが送られてきていた。
トーク画面の1番上の通知には、あかねが『3人組』のグループを作りました。
と、表示されている。なるほど。たしかにやりそうだ。
続けてリオも、「これからよろしゅう」と送っていた。
これは…多分俺のメッセージを期待されてるな。
「よろしく」
とだけ送った。すぐに既読が2つつく。
そこでやり取りは一旦途切れたので、玄関に置かれていた段ボールを取りに行く。
制服の胸ポケットからナイフを取り出すと、塞いでいたガムテープを切った。
中から出てきたのは6冊の教科書だった。
上から順番に、『高校国語 ①』『高校数学 ①』『高校社会(歴史)①』『高校社会(地理)①』『高校英語①』『高校体育①』。
1番分厚いのは数学だ。
まぁ、まともじゃないんだろうなと思いながら開くと、ご名答。
数学は名だけで、内容は爆弾解体及び処理だ。
俺がつけたんじゃない。教科書の1ページ目に書いてあった。
他の教科書もすべて同じ出版社からのもののようで、非常に統一感があった。
忘れないように、リュックの中に入れておく。
リュックは、大量の弾倉となかなかの大きさの教科書を入れても大丈夫だった。
なかなか丈夫だ。
あ。
忘れていた。制服の申請をしなければ。
一度部屋を出て、北側の1階に行く。そこの一区間は事務室で、来客対応などもやっているらしい。
透明な窓がありそこが受付だ。
コンコンと軽くノックする。窓が開き、優しそうな男性が顔を覗かせた。
「はい。どうしましたか?」
「あ、えっと…新しい制服の申請をしたいんですが…」
「わかりました。でしたらこちらの紙に必要事項を記入してください」
えらく事務的な対応だ。別にそれで困ることはなにもないけれど。
必要事項は意外と少なく、早めに終わった。
「ありがとうございます。多分明日の放課後あたりに届くと思います」
「ありがとうございました」
これで完了か。
それ以外で北側に特に用はないので来た道を戻る。
案外早かった。
部屋に帰ったら何をしよう。
家には、ゲームや漫画といった娯楽がなかったが、仕事だけはあったので別に暇ということは
なかったが、今は仕事がないので暇という時間が生まれる。
その、暇という時間に何をしたらいいのかがよく分からない。
……
……
なんとなくスマホを見て時間を潰そうと思ったが、そうすると恐ろしく時間が過ぎるのが遅く感じる。
あの現象はいったい何なのだろうか。
ぼーっとスマホを眺めていると、ピコンと通知がやってきた。
あかねがグループチャットにこんな質問を送った。
あかね:「体育祭っていつだっけ?」
リオ: 「6月やなかった?」
葵: 「そういえば体育祭ってあったな。全く意識してなかったけど」
リオ: 「なにするんやろね」
あかね:「大玉転がしとか?」
リオ: 「どうなんやろ。俺も、何回か転校したことあるけど、全部欠席してたしな~」
あかね:「え?そうなの?」
リオ: 「そうなんよ。っていうか体育とか体動かす系は全部欠席しとったで」
あかね:「へぇ~」
葵: 「調べたけど、一般の学校と変わらないみたいだ」
葵: 「借り物競争とか、騎馬戦とか」
リオ: 「騎馬戦か~ええな~」
あかね:「私、中学の頃、何回か騎馬戦出たけど、楽しかったよ」
葵: 「あかねが出た種目、全部勝ってて、バレないかひやひやした」
リオ: 「その分、東雲は全力でやっても問題ないから、気楽で良さそうやな」
あかね:「だよね~!」
やっぱり、こっちの方が、時間が経つのが早いし楽しい。
なんだか……少し嬉しかった。