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残業者の厄日

現在の時刻は、22:39。もう、外は真っ暗だ。

「あ〜〜〜ねみ〜〜」

まだ、4階にある職員室の電気は煌々と光っている。

ついでにタバコにも火がついている。

ラフな黒服で、赤髪。オーバルタイプの赤いサングラスをかけた人物は、

現在、絶賛残業中だ。

「ん」

と呟いたのと、夜中にも関わらず、バカでかい音がなったのは、ほぼ同時だった。

カーテンを開けると、わかりやすそうにため息をついた。

「あ〜クッソ。仕事増やしやがってよ。だから残業は嫌いなんだよ。」

ブツブツ言いながら窓を開け、ヒラリと下へ降りる。

「あ〜…50か…ッチ、めんどくせぇな。まぁでも残業代が出るのが唯一の救いだわ〜」

校門をくぐった敵が、こっちに気がついた瞬間に、首が飛んだ。

前方にいた、仲間らしき人間の首が飛んだとも分からずに、その一つ後ろの人間の首も飛ぶ。結局、一番うしろの列の人間だけが仲間の首が飛んだとわかり、恐怖に顔を歪めたが、声を発する間もなく、首がはねた。

『どうした!?なにがあった!?』

敵のコートのポケットの中から声がする。

無線のスイッチをそのまま切ると、何か異変を察知したらしい。

ぞろぞろと、また、増援が来た。

ボス格の人間が、仲間の死体を一瞥したあと、こちらに銃を向けた。

「誰だ?お前。」

フーー。と息を吐き。めんどくさそうに言った。

「篝火スグリ。本職、殺し屋。それ以外の情報で何を望む?」

敵が一瞬ギョッとした。

だが、すぐに体制を取り戻す。

なにか合図をし、一斉に飛びかかってきた。

軽々とそれをかわすと、間髪を容れずに、相手を切った。

それを見て、怯み、逃げ出しそうになったものもいたが、なんとか踏みとどまっていた。

「怖けりゃ逃げればいーのに」

ガチン!

と音がした。

見ると、手からナイフが落ちていた。手が切断されていたわけではない。

ナイフが敵の攻撃によって落ちただけだ。

「やべー。完全に油断したー」

ナイフを拾っている時間はない。

飛びかかってきた敵の首を狙って、手刀で叩き落とした。

それでも、充分だ。

ピクピクと痙攣し、やがて動かなくなった。

「…ッ!」

怯みきったのか、最後に残ったボス格の人間が逃げようとする。

「はは。ダッセー」

「な!?」

追いかけたときの勢いをそのまま利用して、一瞬の隙に拾っていたナイフで切りつけた。

警報は鳴りやみ、あたりは静寂と血の匂いだけが残る。

「あーやべー返り血、めっちゃ付いた。もう仕事は明日の自分に任せるかー」

半ば投げやりなセリフをはいたあと、あ。と声をあげた。

「あーもう…掃除もあるじゃねえか。しゃーねー事務員よぶかぁ。来るか分かんねぇけど。だから居残りは嫌なんだよなぁ…」

スマホに血がつかないように、少し慎重になりながら電話を掛けると、3コール鳴り終わるぐらいのタイミングで、用務員が出た。

『はい…』

「あ、悪りぃ。今からこっち来れる?」

『はぁ……?無茶言わないでくださいよ…』

若干呆れたような声がスピーカーから聞こえる。

「だよなー。しゃーねー自分で取ってくるかー」

『もう、ホントにそうしてください』

プツンと返事を待たずに電話が切れた。

「はー…めんどくせぇな」

ノロノロと歩き出す。

薬品は学園内の一番奥の倉庫にある。

ほとんどの生徒が、場所を知っているが、

倉庫の中に行くための鍵は教員が所持している。

ポケットから、たくさんの偽物の鍵がついた物を取り出し、本物を鍵穴に差し込む。

中は、明かりがなくて、少し埃っぽかった。

いつもなら、日光が差し込んでいて少しは明るいのだが、今はもう外は暗いので

倉庫の中に一切の光はない。だが、殺し屋にとっては日常なので、なんら支障はない。

むしろ、そっちのほうが動きやすい──なんてこともある。

「あー、あったあった」

倉庫の中には、無数のスチールラックがあり、どのラックも手前が安全な薬品(主に、普通の学校の理科の授業でも使われるもの)で、真ん中が、特殊な免許や資格を持った

業者でしか使えないもの。一番奥の方が、後処理専用の薬品や、毒殺専攻の者たちが作った毒薬などが収納されている。しかし、奥の方と言ってもここのラックの大半が毒薬や後処理に使う薬品なので、真ん中から奥の方まですべてがそういった危ない薬品で埋め尽くされているもののほうが多い。

黄色のラックの隣りにあった黒色のラックの真ん中から、瓶を取り出した。

念の為、黒いゴム手袋も付けている。

瓶の中に入っていたのは、無色透明の液体だった。

決して落とさないように用心しながら扉を閉め、確実に鍵を掛ける。

先ほどの校庭へ戻り、瓶の蓋を開き、かける。

しかし、多少の血の匂いは残ってしまう。

とりあえずそのことは気にしないでおく。

「ま、残ったものは時間か用務員が解決してくれるでしょ」

すべて使い切った薬品は、補充申請の紙に記入するのが決まりだ。

しかし、幸か不幸かその申請書は現在4階の職員室にある。

「はぁーー」

しかし、グダグダは言ってられない。少しでもそれをサボった場合は問答無用で減給される。

グラウンドから4階の窓枠まではせいぜい10メートル程度だ。

この高さは、リードクライミングの高さよりも低い。

一息で窓枠まで着地する。使用済みのゴム手袋をゴミ箱に丸めてぶん投げ、空の瓶は厳重保管庫においておく。申請書のデータを更新し、ガクンと背もたれにもたれた。

「あーーーーー」

自分が今、タバコを吸っていないことに気付いた。

倉庫に入る前に、一度灰皿ですり潰したんだった。

引き出しの中から、新しいものを取り出す。

火をつけようと、ライターを取り出すも、火がつかない。オイル切れだ。

「あーーー!厄日だ…火はつかねぇし、タバコは吸えねぇし、残業するし…」

そう。彼は大変なヤニカスであった。

そんなスグリにとっては今日が大変な厄日であろう。

絶望に満ちた表情で、彼は職員室を後にし、寮棟へと向かっていったのであった。

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