探検
自分の部屋の二個隣は、あかねの寮部屋だ。
ピーンポーン
…寮って一応インターホンあるんだな。
しかも最新の防犯用のやつだし…
「はーい」
応答したのはあかねだ。
一応誘っておこうかと思ったのだ。
「あかね、これから学校探検行くんだけど着いてくるか?」
「あ、ごめーん。今からいろいろ荷ほどきしなきゃだから無理かもー!」
「りょーかい」
踵を返して寮の階段を下りる。
いちいち一段ずつ階段下りるのめんどくさいな…
俺は階段の手すりに足をかけた。ここはちょうど三階だ。
そこからヒラリと一階までジャンプする。
「やっぱり、こっちの方が移動楽でいいな…」
さて、まずはどこへ行こう。
ここは東側で、別名寮棟。あとは教室がある北側と体育館がある西側がある。
そして、各棟に囲まれるようになっているのが広い、広い、グラウンドだ。
あ、あと、コンビニや服屋が入っている購買棟ぐらいだろうか。
この学校は校外に出なくても授業で使うものは大体揃うし、どっかの殺し屋から狙われる危険性もないから大助かりだ。噂によれば、ここの生徒が校外に出るのは年に一度行われる修学旅行のみなのだとか。
「あれー?奇遇やなー」
声をした方を見るとそこにはリオが立っていた。
「あ、リオ。もう学校探検終わったのか?」
「ちゃうでー。さっきまで北側をちょっと散歩してたんやけどな。これから購買棟覗いていこうと思っとって。財布取りに来たんや。そっちは?どないしたん」
「俺も暇だから学校探検しようと思って。どこに行こうか考えてたところだ」
「そうなん。じゃぁ一緒に行こうや。あれ?そういやあかねクンはどうしたん?」
「一応誘ったんだけど、荷ほどきがあるから来ないってさ」
「そっか。あ、じゃぁちょっとここで待っといてくれへん?すぐ戻るわ~」
「わかった。あ、リオって部屋番号何番なんだ?」
「えーっと、ちょっと待ってな。408号室や。葵は?」
「俺は409号室だ。隣人だな。ちなみに407号室はあかねだぞ」
「そうなんや~、寮も二人とも近いなんて嬉しいな。これもなんかの縁かもな~」
リオが嬉しそうに話す。
「改めて、これからよろしゅう」
「あぁ。よろしく」
じゃぁ、ちょっと待っとって。と言い残しリオは階段──ではなく階段の手すりの上に乗って、四階まで一気にジャンプした。
やっぱりみんなそこだよな。だって、階段一段ずつ昇り降りするのめんどくさいし。
上を見るとリオが財布を取って玄関から出たところだった。
玄関から数歩でた先に小さな塀のようなものがある。リオはそこに足をかけ、一気にこちらまでやってきた。
「それ、便利でいいな」
「そうなんよね~ぶっちゃけ階段まで行くのも手間やろ?とくに遅刻しそうな時とか。ここからがいっちゃん楽やねん」
リオが何か言おうとして口を開いたが、それはタイミング悪く鳴り響いた警報ことチャイムによってかき消された。
「え~また来たん?もう”お客さん”来すぎやて…」
合計で三回か…多いのか少ないのかの基準は分からないが、音がめちゃくちゃうるさい。
これ、寝てる時とかにきたら最悪だな…
「お金盗られんようにせんと」
「ちなみにいくら持ってきたんだ?」
「えーと、たしか、五百万ちょっとだった気ぃするわ」
「たしかに盗られると、ちょっと痛いな。その金額は」
「せやろ?でもカードで良かったわぁ。現金だと重いしなぁ」
「仕事の報酬とかいまだに現金のところ多いもんな。あれ、電子で済ませてほしい」
「せやな~」
キーンコーンカーンコーン
先ほどの警報とは違う、普通に学校で流れてくるチャイムが聞こえた。
『え~こんにちはー。聞こえてますかー?』
間延びした話し方が特徴的なこの声は、朝、入学式の時に聞いたのと同じ声だった。
『あーあー。うん、多分聞こえてるね!まー最悪聞こえてなくても2年生と3年生は無線があるからそれ使ってねー。』
こほん。と、一旦一拍間を空けて話し出した。
『はーい!みなさんチューモク!1年生のみなさん、ごめんねー。ホントは無線マイク配るつもりだったんだけど、届く予定が遅れちゃってさー。1年生には明日、マイク配りまーす。
ホントごめんねー。では!本題に入りまーす。』
『敵は合計30人。全員武器を所持。3カ所から攻められており、10人は東側、表口。
別の10人は北側裏口。あとのもう10人は購買棟付近。それぞれ近くに居る人が倒してください。』
プツンとそこで放送が切れた。
さっきまではのほほんとした話し方だったのに、急に口調がガラリと変わった。
「10人か~。えらい少ないなぁ」
「だな。なんで行けると思ったんだろう」
「不思議やなぁ」
なんとなく敵が横から来る気がして見ると、やはり敵がこちらに向けて走ってきていた。
全部で10人。持っているのは、グロック17。装弾数25発の自動拳銃だ。
俺もお気に入りの銃である、SIGP226を手に取る。
標準を合わせ、引き金を引くと、敵はあっけなく死んでいった。
10人倒すのにかかる時間は約12秒。
今の実力ではそれぐらいが限界だ。
風で、血の匂いがこちらまで届く。
この匂いにも、もう慣れた。
リオがカバンに突っ込んでいた手を出した。
「なんや、えらい早いなぁ」
「そうか?そんなことないと思うけど…」
「やっぱり、葵は鈍感やなぁ」
鈍感……。
あんまり気にしたことなかったけど、実はそうなのかもしれない。
何年か前に、同じ組織の幹部にも同じことを言われた。
まぁいいか。
それよりも。
「後処理、面倒くさいな……」
「それな〜。葵は後処理、したことあるん?」
「一応、何回か。でもそっちは専門じゃないから、そんなに得意じゃない」
「こんにちは〜」
穏やかそうな声が聞こえる。
声のする方を振り向くと、そこには、灰色のツナギを着た、数人の人間がいた。
「ども〜用務員です。あとの掃除は、お任せくださ〜い」
少し驚きながら、返事をする。
「ありがとうございます。助かります」
「いえいえ〜。私達用務員は、これが仕事ですので」
「じゃ、あとは任せますわ」
「は〜い」
あとのことは用務員に任せて、俺たちはその場を離れた。
「用務員が来てくれて助かったわ〜。俺ら2人じゃどうにもできへんかったし…」
「だな。でも一応、授業で掃除のことについての実技はちょっとやるみたいだ」
「げ〜〜!俺、掃除、そんな得意じゃないんよ。薬品とか使うし」
「リオ、薬品苦手なのか?」
質問すると、リオは渋い顔をしながら答えてくれた。
「別にそんな重い話やないんやけどな。昔、初めて掃除した時に、薬品が少し指にかかったんよ。それで、酷い火傷をになってなぁ。それ以来、薬品がトラウマやねん」
最後にリオは、ま、今は治っとるけどな。と、付け加えた。
たしかに、それはトラウマになりそうだ。
「薬品で思い出したんやけど、葵って今日の朝に、血めっちゃ付いとったやろ?あれ、どないすんの?」
「あ~~」
すっかり忘れてた。部屋に荷物置きに行ったあと、すぐに着替えちゃったし。
「新しい制服の申請しようかな……」
「そんなんできるん?」
「いや、わからん。ただの願望。」
「なやそれ」
リオは笑いながら言った。
あれから、購買棟に向かいながら、スマホで東雲の制服について少し調べた。
やはり、制服が汚れたとき用に新しく制服が買えるらしい。
制服の買い替えについては、用務員が対応してくれるそうだ。ありがたい。
制服については明日公務員に聞くとして…
寮棟からやく15分歩いたところに購買棟は存在した。
入り口は、他の校舎とは違い、自動ドアだ。
たくさんの生徒がいる。
「広いな…」
購買棟に入ってすぐが、コンビニということになっている。
広さは、街中でよくみかける広さよりも、少し大きいぐらいだ。
でも、コンビニの階よりも上があり、階段かエスカレーターで行くことができる。
1個上の階は服屋らしい。
服屋はあとで行くとして。
ここのコンビニは、品ぞろえがかなり豊富だ。
普通の食料品や、文房具なんかも売っている。しかし、何より目を引くのが、
文房具コ-ナーに平然と並べられている弾倉たちだ。
色んなタイプがあるし、予備の銃も売っている。
あとは、毒や、ネジ、工具なんかもある。
多分これは、物作り科が主に使うんだろうな。
食品も、かなりの量がある。
街中のコンビニでもよくある、アイスやパン。カップ麺も売っている。しかし、どれも栄養が偏らないように配慮されている。あとは、エナジーバーなんかの種類も豊富だ。
俺がいつも食べてるものもある。
先ほどまでこの辺にも敵がいたはずなのに、血の匂いが全くしない。
なんという処理の速さ。
「おーい葵!こんなんあったで〜」
リオが手にしているものは、苦悩の梨だった。
主に、異端審問で使われていた拷問器具だ。
「なんでこれが、こんなところにあんだよ」
「え?これ、売り物じゃないん?」
「どう考えても違うだろ。それに、値札がない」
「あ、ほんとや。気づかんかった。誰かの落とし物なんかな?」
「拷問科ならありそうだな」
「あの〜」
「え?」
弱気な声がして振り向くと、そこには、ところどころ汚れている白衣を着た人物だった。多分、生徒ではない。
「そ、それ……」
その人物が指を指したのは、リオが持っている苦悩の梨だ。
「そ、それ、僕の…なんですけど…」
「これなん?すんません。自分の落とし物ですか?」
「えっと……そうです。拾っていただきありがとうございます……」
リオがそれを渡すと、その人物は消え入りそうな声でお礼を言い、去っていった。
「なんか、えらいオドオドした人だったなぁ」
「だな。あの人は、入学式でも見たことなかったけど…教員か?」
「分からへんけど、明日、入学式とは違った挨拶があんのやろ?もし1年の担任だったら、来るはずや」
「そうだな。一旦、教員という線で行こう」
ふと、時計を見るともう夕方近かった。
「そろそろ寮に戻るか…」
「あ、もうこんな時間か。ホントは服屋も見たかったけど…しゃーない。また来よか」
「だな」
来た道を戻り、また階段の手すりから自分の部屋の前まで飛ぶ。
もはや、これが日常だな。
「じゃ、またな」
自分のIDと指紋で部屋の中に入る。
なんか…短い1日だったな…
明日、制服の申請をしに行こう。
口から出てきそうになったあくびをなんとか噛み殺し、浴室の扉を開けようとした──が、予想以外に眠気がひどかったのか、はたまた、いつも以上に緊張したのか。
あるいは、どちらもなのかは分からないが、そのまま床に倒れて寝てしまった。
「あし、た、はやく、おき、て、風呂、はいろ…」