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入学式

いよいよ始まった入学式。ざっと見ただけで、在校生は200人。新入生は300人。合わせて500人。

さすがというべきか、進学校というだけあって校舎は全体的にきれいだ。

主に、白を基調とした体育館は、もし殺し合いになったら血が目立ちそうだな…と、

普通の高校生らしからぬことを考えながら長い長い学園長の話を聞き飛ばしていく。

学校あるあるの一つに、集会時の校長の話が長いことがあげられるが、あれはいったい何なのだろう。なぜ、そこまで長く話す必要があるのか。そこはどの学校に行っても同じことなのだ。

約40分が経ったあたりで、学園長が口を閉じた。今までに比べれば、話は短い方だ。

現在で一番話した時間が長いのは、1時間10分だ。よくもまぁそんなに話す内容があるなと、

感心してしまう。さて、学園長のあいさつが終わった後は、先生の挨拶だ。これはどこの学校でも恒例行事である。当たり前か。なんとなくあたりを見回していると、ある人物が目に入った。

あれは──鳥羽萩(とばしゅう)か?

鳥羽萩とは、史上最悪の殺人鬼と言われている人物だ。どこの組織にも属することもなく、

ただただ人を殺すことで有名な人物である。平たく言えばフリーランスだ。

だが、殺しの腕は良く、よく個人で依頼を取っていたらしい。

いたらしい。というのは、彼がすでに死刑囚であるからだ。

何年か前に、捕まってそのまま裁判で有罪判決。そして留置所送りにされたはずだ。

あの事件は表社会には大いな安堵を。裏社会には大いな混乱を招いていた。

もう死んでいるのかと思っていたが。まだ生きていたらしい。

彼が登壇する。裏社会の人間にとっては鳥羽萩は有名人である。

少しあたりがざわついた。しかしそれは数秒のことだ。すぐさま、先ほどの静寂が訪れる。

鳥羽萩がゆっくりと話し始める。

「こんにちは。鳥羽萩です。これからみなさんと一緒にがんばっていきたいと思います。以上です。」

しゃべり始めてからしゃべり終わるまで、約4秒。あまりに素っ気ない挨拶だ。

それでも誰も、なにも言わない。

次の教員の挨拶を待っている。

誰かしらの教員が壇上に上がった。

と、同時に今朝聞いたあの無機質な機械音が鳴った。


またか…

ため息をつきながら、背もたれにかけてあった

カバンを手に取る。ファスナーを開け、中から

銃を取り出す。先ほどの戦闘で少なくなった分の銃弾

を補充する。準備完了。

どこから来るか分からないので、感覚を研ぎ澄ませ、相手の位置を探る。

……

上からだ。


そう思った数秒後に全身黒ずくめの男が窓を突き破って入ってきた。

位置はちょうど俺の真上。

焦らず冷静に銃を向ける。迷うことなくピストルグリップに指をかけ、それを引く。

この間約、3秒。

俺の頭の上で相手は破裂し、残ったのは動かぬ人体と血痕だけだ。

「あ……」

思わず声が出た。

髪から血がポタポタと垂れる。

「最悪だ…」

真新しい制服が肩から順番に血で染まる。しかも、この学校の制服は白が基調の制服だから、いつも以上に血が目立つ。

いつの間にか他の人間も同じく窓を突き破って侵入してきた。

「これ、結構気に入ってたのに…」

そんな虚しい声は辺りの銃声によってかき消された。







数分で敵は全員倒されたというのに、俺の気分は全く晴れなかった。

そもそも人を殺して気分が晴れたことなんて一度もないけど。

血なまぐさい臭がする。

早く制服を洗うなり新しいのに買い替えるなりしたいのに、入学式は終わらない。

割れた窓ガラスの破片が散乱する中、平然と進められていく。

「これで入学式を終わります。各自、自分のクラスへ向かってください。わからなくなった人は

最初に支給されたスマホで確認してください。学園のマップもインストールされておりますので、迷った人はそれを確認してください。以上です。あ、あと誰か先生方は事務室にいる用務員

にも声をかけておいてください。流石に今ここにいる人達だけでは足りませんので。では」

そういって颯爽と去っていく学園長。窓ガラスを片付けるために集められた用務員。

さっきまで壁際の方にいた教員は全員もういなくなっている。職員室にでも行ったのだろうか。

(先にあかねと合流していくか。あいつ、絶対迷子になるし)

えーっと、赤髪の身長163cm…

流石にこの人数の中から1人を見つけるのは難しそうだ。

ポン

肩に手を置かれた。

ギョッとして振り返るとそこには黒咲リオがいた。

「あ、黒咲…」

「さっきぶりなぁ、天谷クン。どうせ同じ新入生なんやし、1年棟まで一緒に行かん?」

「あぁ。っていうか、肩…血が付いてるけどなんでわざわざ叩いてきてんだ?」

「ん?人を呼び止める時は肩を叩くのが普通やろ?それと同じや。まぁ、昔っから肩叩くついでに殺すこととかもよくあったし、そのクセが出てしまったんかもな〜」

そう言ってニッコリと笑う。

おかしいことではない。実際俺も肩を叩くついでに一突き──ということはやったことがある。

正直言ってあれはかなり楽だ。口を塞げば声が外に漏れることもないし、銃声に気を使うこともない。

「あー…あかねどこに行ったか知らないか?」

「藍沢クンのことか?さあ〜?見とらんなぁ」

「だよな…」

「ま、一応スマホ支給されとるし、なんだかんだで大丈夫なんちゃう?」

「だといいけど」

横並びになって1年棟へ行く。

「そういえば、スマホで思い出したんやけど、うちの学校、自分のスマホと学校支給のスマホで

2代持ちできるんやって。学校支給の方は学校のマップと校則とクラス名簿ぐらいしかないから

ありがたいなぁ」

「あー、なんかあったなそんな話」

「そういや、教員挨拶のときに鳥羽萩おったやん?あの人まだ生きとったんやんぁ」

「そうだな。あれは俺もびっくりした」

黒咲はなかなかおしゃべりな人らしい。話が尽きない。

話をうんうん聞いていたりときどき相づちをうっていたら1年棟にたどり着いた。やはり校舎も白が基調らしい。なんでわざわざこんな掃除がめんどくさく、汚れが目立ちやすい設計にしたのか。

創設者の気持ちがわからない。

「あ、俺と天谷クン同じクラスやねぇ。これからよろしくな」

黒咲が学校支給のスマホを見ながら言った。

「あぁ。よろしく」

上半分がガラスの横開きのドアを開く。

みんな真っ白な制服を着て、談笑をしていた。

そうだ。俺、いま肩が血まみれなんだった…

とたんに思い出して嫌になる。

早く洗いたい…

表情が出てしまったのか黒咲が少し笑いながら言った。

「ムッとした顔してどうしたん?」

「肩の血、早く落としたい…」

「あ~、血ってなかなか落ちにくいし放っとくと固まって余計落としにくくなるもんなぁ~」

ずっと教室のドアのところにとどまっていてもあれなので、スマホを見ながら指定された座席に着いた。

名簿はあいうえお順になっている。俺と黒咲の席は少し離れている。

俺の周りの席の人は席を立って他の人と話していた。

話す相手がいないので机の上にカバンを置いて、そこに突っ伏す。

別に寝たいわけでもないがただ黙々と座って待っているだけでもつまらない。これは一種の暇つぶしだ。チャイムが鳴るまでに俺は今朝、確認したこの学校のことを頭に思い浮かべていた。

この学校の年別受験者合格率は30パーセント。1000人の受験生のうち、300人が合格する確率だ。そして、その300人はすべて裏社会の人間が独占している。

1学年につき、6クラスある。

教師、生徒ともども裏社会の人間。それが、現時点で集まっている情報だ。

ガラガラと音を立てながらドアが開く。

顔を上げ、ドアの方を向く。そこには息を切らしたあかねが一人立っていた。

予想的中。やはり迷子になっていた。

あかねは俺を見つけるとこちらへ向かってきた。

「はー!つっかれた!この校舎、思ったより広いんだねー!」

「だから最初に言っただろ。」

「まさか、こんなに広いとは思わないじゃん!」

「まー、最初は誰でもそうよなー。藍沢クン、ちゃんとマップ見たん?」

いつの間にか黒咲が俺の机の横に来ていた。

「え?マップ?何それ?」

「聞いてなかったのか。学校支給のスマホには、学校のマップが乗ってるんだよ」

「ちなみに、学校支給のスマホと自分のスマホ、2台持ちしていいらしいで~」

「え、そうなの?どっちも知らなかった!」

ガラガラ

またもやドアが開く音がする。

今度は誰だろうと入口の方を見る。

するとそこには生徒ではない大人が立っていた。

「お前らー、とっとと席着けー」

先ほどまで談笑に花を咲かせていた人たちは一斉に自分の席に戻っていく。

俺の一つ前にあかねが座った。あかねの前にも2つ、席がある。

全員が座ったことを確認して軽くうなずいた。

その大人──もとい担任は落ち着いた足取りで教卓に行く。

「集会でも挨拶したとおりだ。俺の名前は鳥羽萩(とばしゅう)。異名は()()()()()()。お前たち、1年1組の担任だ。よろしく。」

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