課外学習の行先き決め
作戦か……
通知を一度切って机に伏せた。
これまでの経験から最も最善とされる手段を考える。
ガラガラと教室のドアが開く。
それでも伏せたままでいると頭に衝撃が走った。
痛くはない。
顔を上げるとそこにはショートヘアの活発そうな男子生徒が立っていた。
「天谷葵で合ってるよな?」
「あぁ。合ってる。久良望編笠…だよな?」
こくりと頷く。
よかった。合ってたみたいだ。
「作戦、決まってないんだって?」
言葉に詰まる。
「あ…うん…」
うん。としか言えない。
「協力するよ」
「は?」
すっとんきょうな声が出てくる。
出てきた声が可笑しかったのか少し笑いながら言った。
「俺もあんまそういうの得意じゃないんだけどさ。入学してそんなに経ってねーのに仲間が欠けるのは悲しいじゃん?」
「……助かる」
少しびっくりした。
左横に視線を送るとあかねが少し涙ぐんでいた。
「うぅぅ…ありがど~~」
「うえ!?」
今度は久良望がすっとんきょうな声を上げた。
「な、なんで泣くんだ……?」
「だって、まさかこんなに積極的に協力してくれるとは思はないじゃん……しかも
まだみんなとそんなに話したことないし……たかが1人だし……」
開けっ放しのドアから何人もの気配がする。
「つーか、完全に出るタイミング失ったな。お前ら…」
久良望が廊下に向かって声を出す。
「いや〜意外と入りづらくてな〜。どこのタイミングで入れば良いんかわからんかったんよ」
ひょっこりとリオが顔を出す。
続いて夏野もひょっこりと出てきた。
やっぱり。
でもあと2人の気配がする。
あとは誰だ…?
「誘われたから、一応顔だしとくね…」
と遠慮がちに顔を出したのは藍風玉梓だ。あかねの親の手紙を届けに来た。
「僕は兄さんがやるっていったからついてきただけです。」
そうキッパリ言ったのは、藍風玉梓と同じ姿の……
「どうも。藍風伊織です」
姿が似すぎてどっちがどっちだかまるでわからない。
「めっちゃそっくり…」
あかねが感嘆の声を漏らす。
計7人が俺の席の周りに集合する。
言っておくが、俺の机は普通の学校にある机と変わらない。
だから7人も集まるとぎゅうぎゅうになり、左隣の机と併用して集まっている。
「えー、ではもうみんなも知ってると思うけど、藍沢あかねの退学問題の作戦会議を始めまーす」
久良望が宣言する。
「っていうか、勢いで来ちゃいましたけど、そもそも僕はあなたたちのことをそこまで知りません。一度自己紹介した方がいいのでは?」
「いいね」
すかさず久良望が賛成する。
「じゃー俺からな!名前は久良望編笠。武器商人の家系だ。久良望でも、編笠でも好きに呼んでくれ!」
ペコリとお辞儀をして隣にいたあかねにバトンを渡した。
「藍沢あかねです。よろしく!えっと…殺し屋の一族で、今回の事件の本人です…。これからよろしくね…?」
自分のためにわざわざ集まってもらったという責任感があるのかこの話に触れるときは少し
小声になる。最後の方は顔色を伺っているような疑問形になっていた。
「黒咲リオや。みなさんご存じ黒咲家の人間やで~。これからよろしゅう」
リオの挨拶は入学式のときにも言っていた。
「夏野彩芽や。リオとは幼馴染なんよ。よろしゅうね」
リオと夏野は関西出身で、語尾や訛りが非常に似ているが、よくよく聞いてみると少しだけ違うところがある。県が違うのだろうか。
「えっと……藍風玉梓です。伊織とは双子で……兄です。見分け方は、目元のほくろかな?
よろしくね…」
「藍風伊織です。弟です。兄さんの目元のほくろは右目のほうにあって、僕は左目のほうにあります。よろしくです」
声も見た目もそっくりだが、たしかにほくろの位置が違う。
「でも、案外、化粧でなんとかなりそうやな~」
「あ、それは言った後思った…。ファンデーションで隠してマッキーとかで描けば…バレなさそう」
「やっぱり指紋が一番ですよね」
「たしかに、寮のロックが指紋認証なのはそういう理由があるからか~。顔認証だったら、私とあかねちゃんみたいに全くの別人だったら引っかかるかもしれんけど、2人なら絶対引っかからんしな」
夏野が独特なイントネーションで言った後、こちらに視線を向けた。
それにつられて一斉に視線が向く。
「あ、えっと天谷葵だ。よろしく」
「これからよろしくね。葵」
あかねが言う。
「いや、お前とはもう昔から知り合ってるだろ」
テンポが良かったのかみんなが吹き出しそうになっている。
張りつめていた空気が和らいだ。
「じゃー早速作戦会議始めるぞー!」
久良望の威勢のいい声でスイッチが切り替わり、みんなが持っている情報をもとに作戦会議が始まった───と思われたが、狙いすましたかのように教室のドアが開いた。
ドアの方に一斉に振り向く。
見ると、そこには鳥羽先生、篝火先生、犬灯先生の姿があった。
一瞬、放課後の見回りか?と思ったが、放課後の見回りだけなら3人も必要ない。
「おー、お前ら課外学習の行き先は勝手に決めちゃダメだろ」
おもむろに鳥羽先生が口を開いて言った。
「一回先生に提案書作ってからじゃないとね~」
犬灯先生がにこやかに言う。
「もしかして、先生たちは気づいてたんですか?」
「当たり前だろ。大人舐めんな」
と、篝火先生。
この学校の先生に隠し事は無理なようだ。
今度からはもっと上手く隠しておこう。
「ちなみにいつ頃…?」
あかねが恐る恐る聞くと、
「俺は今回の授業のときだな。あんな異様な雰囲気、気づかない方がヤバいだろ」
と返ってきた。
そんなに異様な雰囲気だったのか…
「俺は帰りのホームルームだな」
「へ~二人とも気づくの早いね~。僕は1時間目でしかこのクラスに顔出してないし分からなかったな〜。放課後に職員室で聞いたんだよね。2人が『どうやら課外学習の行き先を勝手に決めようとしてる奴がいるみたいだな』って言ってたから、最初はなんのことかと思ったよ」
犬灯先生の声真似はうまい。
一瞬本人が言ってるのかと思った。
「さっきの話し方からすると、まだ作戦は決まってないっぽいかな?じゃーこれから補習を始めよー」
教卓に向かっていきチョークを掴む。
そして、犬灯先生による、補習授業ならぬ作戦会議が始まった。




