退学
「は!?」
みんなで息ぴったりに呟く。
思ったより声がデカかったのか雑談していた生徒も驚きこちらを振り向いてた。
それどころじゃない。
手が震えてひどく動揺している。
「退学って…」
あかねが震えた声で言う。
退学。学生、生徒が学校を途中でやめること。もしくは辞めさせられること。退校。
「いや、でも待ってよ!退学は、担任の領認印が必要でしょ!?」
「そのことなんやけど…私たち、入学する前に100枚ぐらいの紙もらったやん?そこに書いてあったんよ…退学の場合は、担任の領認印、無しでも退学できる場合があるって…」
夏野が言う。
ひゅっと息を呑む音がする。
キリが悪いところでチャイムが鳴る。
しかしそれは、頭をすり抜けていった。
次は数学だ。頭ではわかっている。
タバコの匂いがする。
先生が教室に入ってきた。
すぐさま異様な雰囲気に気づいたようだ。
無理やり体を動かして座った。
他のメンバーも自分の席に座った。
「お前ら、なんかあったか?」
誰も何も言わない。
多分、篝火先生を除いたこのクラスのメンバーはみんな気づいている。
篝火先生もこれ以上聞いても無駄だと思ったのか授業を進めた。
そういうことが3回続いた。
「で、ではこれで授業を終わります…!」
4時間目は社会で一井先生が担当だった。
授業終了のチャイムと同時に、逃げるようにして教室から去っていく。
4時間目の終了時刻は、12時ちょうどに設定されている。
しかし、まったくお腹がすかない。
食欲自体がない。
昼食は北側の1階にある学食で食べる。
俺たちは1番端の席で男女に分かれて座っていた。
気が気じゃない……
あれからお昼まで何時間も授業があったはずなのに、そのほとんどの授業を聞き逃してしまった。さっきコンビニでお昼を買ってきたが、まだ一向に手を付けられない。
右隣のリオも弁当の蓋を開けたまま呆然としている。
俺から見て右斜めの位置に座っている夏野も一応食べ物を胃に入れようとしているがロクに喉に通らない様子だ。そして目の前に座っている当の本人はもう半分諦めたような顔をしている。
「どないする……?あかねちゃん、このままじゃ退学になってまう」
「あのさ……多分大丈夫だよ!退学になるだけだし……またすぐに戻ってくるって!ね。だからもう食べよう?お腹になにか入れとかないと午後、もたないよ」
そういって無理に笑ってみせた。
おおげさに口を開けて弁当に入っていた唐揚げをほおばる。
「……」
「……」
重い空気のままだ。
「それは…違うんじゃないのか」
「え?」
「本当に退学になっていいと思うなら、なんでお前は泣いてるんだ」
「あっ」
どうやら気づいていなかったらしい。
手の甲で涙を拭う。
「そりゃ……イヤだよ。いきなり退学なんて。でも、藍沢家の当主なんだよ?それに……どれだけ性根が腐ってても、親なんだよ…?」
藍沢家当主、藍沢五十嵐。鳳凰が家紋の有名な殺し屋のボス。
黒いスーツの袖には鳳凰の刺繡が施されている。裏社会では知らない人間がいないほどだ。
「たしかに、1人1人では、権力に逆らうのは無理だろうな」
「だったら…」
「でも、俺たちは東雲学園の生徒だ。裏社会の人間だけが集まる学校、東雲学園の生徒だ。」
「なるほどな。面白そうやん」
リオは乗り気だ。
「え、待って…殺す気?」
「そんなわけあるか。目的はあかねの退学届けを取り消すことだ」
「私は賛成や。あかねちゃんともっと喋りたいんよ」
あかねの視線をまっすぐ見つめる。
あとは──お前次第だ。
「わかった。やろう」
あかねは、決意のこもった声で言った。




