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魔界コンビニ、営業開始します

作者: 宿木ミル

「異世界の文化に、『コンビニ』というのがあるらしいな」

「はぁ」


 魔王城、玉座。

 魔王様に急に呼び出されたと思ったら急によくわからない話が投げ出された。

 こういう時の魔王様は大抵ろくでもない提案をしてくる。


「なんてすか、その『コンビニ』って」


 嫌な予感を察しながらもそれとなく尋ねてみる。

 すると、威厳のある雰囲気を保ちながらも、魔王様は楽しそうに答えた。


「噂ではなんでもある空間らしい」

「なんでも?」

「あぁ、金を引き出す機械、うまい飯、おやつに道具。色んなものがあって便利なんだとか」

「にわかに信じられませんね、それ」


 夢を語るような魔王様の態度に少々呆れる私。

 魔界には『コンビニ』というものはない。

 まぁ、つい最近『スーパー』という名前の小売店舗は魔王様によってできたけれども、便利空間的なのはなかなかないものだ。


「まぁ、実際に作ってみないことにはわからんだろ?」

「まさか……」

「そう、作ったのだよ。魔界初の『コンビニ』を、な」

「やっぱりそういう流れなんですね……」


 楽しそうに言葉にする魔王様に思わず呆れてしまう。

 『スーパー』を作ったのだって最近の話なのに、今度は新しいものを作り出そうとしている。

 なんていうか、興味の尽きることの知らない魔王様だ。


「というわけでだ、暗黒騎士」

「また、私に最初の店員やってくれとか言わないですよね? これで五回目ですよ、店員になるの」


 そう、この流れになると、大抵私が最初の店番のような存在にさせられる。

 魔界ラーメン店の時も、魔界ファミレスの時も、魔界カラオケの時も、魔界スーパーの時も私はずっとこの役目だ。


「ぐむむ……そこをなんとか……!」


 こういう時の魔王様はやたら威厳というものがなくなる。

 というか、私以外にやらせるとめんどくさいことになるのがわかってるからこそ、こういう態度なのかもしれない。


「……はぁ、私が不在してる最中の騎士団の面倒を見てくれるならいいですよ」

「あぁ、わかった、約束しよう!」

「了解しましたよ、では今回も店番やってきますっと」


 『コンビニ』は室内。ほどほどに軽装にした方がいいだろう。

 それとなく準備を行い、私は『コンビニ』に向かうことにした。







「なるほど、凝ってる感じですね」


 『コンビニ』の名前は『マカイファイブ』というらしい。

 なんとなくわかりやすい名前な気がする。魔界が名前に入ってるのは安直な気はするが。

 魔王様が予め品は用意してくれていたので、基本的なお店の準備は問題なさそうだ。

 念のため内容を確認しておこう。


 まず、本棚を確認する。

 悪魔のギャンブラー本よし、サキュバスのアレな感じの本よし、魔界漫画よし。

 ドリアードの農園本もあるし、色々準備されてるみたいだ。


「なるほど、雑多」


 次は道具か。

 魔界樹の鉛筆、魔術用の筆、目覚め用のマンドラゴラアラートまである。


「マンドラゴラアラートは危ないような気がしますが……」


 まぁ、魔界の住人のタフさを考えたら大丈夫か。

 気にしないでおこう。


 食料品も確認する。

 プチドラゴンの尻尾弁当。

 ミノタウロス丼。

 インプの黒魔術パスタ。

 有名どころは用意されている感じか。


「これ、温めたりするんですよね。やや面倒です」


 こういう店員を繰り返していく間に炎魔法の技術が上がってしまっていた。

 一応騎士なのに複雑な気持ちだ。


 これで一通りの確認はできただろうか。

 アイスや飲み物については、買ってきた時に確認でもしておこう。


 カウンターに戻り、ふと、会計の隣にあるケースに目が行く。


「……デビチキ?」


 知らない単語だ。

 しかも律儀に値段も付けられている。

 つまり、これは……


「用意しろ、ということですね」


 カウンター後ろの準備室の冷凍空間を探す。

 そこには様々な揚げ物が冷たいまま用意されていた。


「はぁ、めんどくさいです」


 とはいえ、用意するべきではあるだろう。

 そう思い、私は油鍋に火を放ち揚げ物を作ることにした。

 デビチキ、マカポテ、ビックソーセージ。

 色々なものを用意して、これで準備完了だ。

 ちょうど私が揚げ終わったものをケースに入れたタイミングでお客さんがやってきた。


「やっほー、暗黒期士ちゃん! 元気してる?」


 羽根を広げてやってきたのはハーピーだ。爽やかな笑顔が印象強い。


「それなりです。まぁ、ここは『スーパー亜種』みたいなものな気がするので適当に買ってみてください」

「わかった! えっと……これと、これと……」


 ばさばさ動きながら色んなものを見て回る。

 多種多様の魔物の種類に対応できるように買い物かごは様々な形に調整されているので、ハーピーでも買い物しやすい新設設計だ。

 少しの時間が立ったのち、ハーピィがカウンターまでやってくる。


「これ、お願いっ!」

「マンドラゴラアラートひとつ、シャキドリひとつ、ウィスプガムひとつ」


 それらを見て、なんとなくどういう状態か察する。


「……朝眠いんですか?」

「うん、最近はどうもうとうとしちゃってねぇ……こんなんじゃ駄目って思って、気合入れたいなって思ったの! ぱちってするウィスプガムが買えたらよかったなぁって思ってたんだけど、マンドラゴラアラートまで売ってたから助かっちゃった!」

「魔王様の準備がよかったってことですよ。会計お願いします」

「うん、わかった!」


 現金支払いでお金をもらい、しっかりと管理していく。


「じゃあ、頑張ってね! 暗黒騎士ちゃん!」


 会計が終わったハーピィは笑顔で去っていった。


「さて、次は……」

「結構なんでもあるって聞いたから来たよ。さてさて、わたしの目にかなうものはあるかなぁ?」


 錬金術師がやってきた。

 インドア派の彼女がやってくるのは珍しい。


「いらっしゃいませ」

「魔王様に頼まれたのかな?」

「そんなところですね。まぁ、品ぞろえは悪くないかと」

「どれどれ」


 彼女も少し悩んだのち、いくつかまばらな商品を買っていった。


「これを頼もうかな?」

「火山チップス、ブラックドラゴン、マテリアルエネルギー……こういうの置いてあるんですね」

「店員なのにわからないんだ」

「本日急に配属だから仕方ないかと」

「なるほど、それじゃあしょうがないかもね」


 我ながらいい加減だと思うけれども、魔王様が何とか言わなければセーフだろう。


「火山チップスは辛いポテト系なのはわかりますが、そのブラックドラゴンという飲み物は……」

「あぁ、俗に言うエナドリさ」

「エナドリ?」

「人間界で使われるっていう、自分の限界を超える為に飲まれる飲み物さ」

「誤解を生みそうですね、その表現」

「ま、眠気を取ったりする成分が入ってるってだけさ。そこまでヤバいものではないよ」

「なるほど、マテリアルエネルギーは何に使うつもりで?」

「ゴーレム作りさ。マテリアルエネルギーの魔力で動かすのが楽だからね。ふふっ、こうやって気軽に用意できるのはありがたいね」

「魔王様の采配も悪くはないのかもしれませんね」


 やってくる魔界の住人が多くなればなるほど大変そうだけれども、なかなか便利な概念かもしれない、『コンビニ』というのは。

 私以外の店員が増えるのであれば、今度は私が客としても行ってみたい。


「ではまた、今後も使っていく予定だよ」

「ありがとうございます、またどうぞ」


 その後も話題を聞きつけてきたであろう。魔界の住人をいくつか案内しながら、雑談も交えて営業をしていった。

 我ながらうまくできたと思う。




「おぉ、今日はお疲れ、暗黒騎士」

「売上は上々でしたよ、魔王様」

「そうかそうか」


 プレオープンということで、早めの終了時間を設けた魔王様が私のところにやってくる。

 手にはデビチキ、そしてアビス炭酸水が用意されていた。

 お店の外。魔王様と私がふたりで並ぶ。


「悪くないですね、『コンビニ』は」

「だろう?」

「なかなか色んな客がやってきて斬新でした」


 利便性もあるからか、多くの客がやってきていた。

 弁当をたくさん買っていたドラゴン。

 魔力ペンを買っていたデュラハン。

 なぜか応援しにきた騎士団。

 それぞれが別のものを買って、笑顔になっていた。


「侮れないよな、異世界も」

「そうですね、油断なりません」


 魔王様は異世界の文化を色々取り入れる。

 それは自身の文化以外にも興味を持っていることの現れだろう。


「俺はもっと異世界文化を取り入れたいと思っているが、暗黒騎士はどう思う?」

「……そうですね、魔界らしい文化と調和できるのであれば、悪くないかと」

「ははっ、そうか」

「大切なのは、魔界の住民が快適に暮らせることですからね」

「お前もその中に入ってるがな?」

「そうですね、ありがとうございます」


 魔王様に仕事を任されるのは面倒だとは思うこともある。

 それでも、こういう時間を感じられる瞬間は悪くないとも感じられる。

 次もこういう機会があったらなにかしてみるのもいいかもしれない。


「おっと、そろそろ食べないとデビチキが冷めてしまうぞ」

「そうですね、いただきます」


 売っていたものの、食べてはいなかったデビチキをひとくち味わう。

 さっくりした衣の味わい。油が滴る食感は背徳的な美味しさだ。

 それと同時に、口の中に少しずつ辛みが広がっていく。


「……辛いですね?」

「はっはっは、魔王城名物デビルチキンだからな!」

「なるほど、あれだったんですね、デビチキって」


 魔王城で暮らしている私には馴染みの深い料理だ。

 デビルチキン、魔界鶏のから揚げではあるものの、スパイスを強めに入れていて、辛みが強い料理だ。

 それをいい具合に調整したのがデビチキといったところか。


「魔王城以外の住人にも味わってもらいたくてな。色々考えていたのさ」

「なるほど、それはいい考えかと。人気になったら別メニューも考案してみては?」

「そうだな、考えよう! 目指せ、『マカイファイブ』二号店、そして三号店!」

「ほどほどに後続ができたら、私は本職に戻るので、よろしくお願いしますね?」

「そこはもう少し手伝ってほしいんだけどなぁ!」

「まぁ……軌道に乗るまでは付き合いますよ」


 きっと魔界におけるコンビニも人気になっていくだろう。

 今日見たお客さんの笑顔、そして魔王の前向きさを見つめていると、心からそう思えた。

 魔界コンビニは、これからも賑やかに営業が続いていくのだ。

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