第2話 スキンヘッドは対話する
「……悪かったな。飯が食えねえ状態なのは察してやるべきだった」
少年は返事もせずに、ただ俯いていた。
スキンヘッドの男は頭を掻きながら、困った表情を浮かべている。
少年の目の前には、スキンヘッドが注文した料理がある。
ここはとある酒場。ギルの行きつけの店である。
「まあいい。自分の名前は言えるか? 俺はギルって言うんだけどよ」
「……ユウヤです」
少年は--ユウヤは自分の名前を答える。その声は小さく、今にも消えそうだった。
「ユウヤ、ね。東のアスラ人か? 目の色からして、違うんだろうが」
ユウヤはふるふると首を振る。そんな彼に対して、スキンヘッドの男--ギルは大げさにため息をついた。
そこには、自分を責めると言うか、面倒そうなニュアンスは感じなかった。
ただ、『どうしたもんかなぁ』と、目が語っていた。
「……ギルさんは、その」
「ん、どうしたよ」
やっとユウヤが自分から喋ったからだろう。
スキンヘッドは小さな仕草だけで、『お前の話に興味がある』と示してみせる。
ほんの少しだけ、身を乗り出して、ユウヤの目をまっすぐに見た。
「ボクが、別の世界の人だって言ったら、信じますか?」
恐る恐ると言ったら様子で、ユウヤは言った。
「……信じねえよ。世界が二つあるなんて、聞いたこともねえからな。けど、嘘だって決めつけもしねえ。俺が信じるのは、この目で見たことだけだ。だからこそ、嘘を嘘だって信じるのにも、根拠はいるだろう?」
……話してくれや。まずそれからさ。
ギルは最後に、そう付け加えた。
ユウヤは、ポツリポツリと話し始めた。
自分が、元の世界で普通の高校生だったこと。
家族を殺人鬼に皆殺しにされたこと。
犯人であるワープ男に飛ばされて、この異世界に来たこと。
途中で涙を流し、嗚咽で途切れ途切れになりながらも。
ユウヤは、話し続けた。
「わりぃな。嫌なことを聞いちまったみたいだ。お前の様子を見りゃ、そのくらいあったんだって想像できたハズなのにな」
「すみません……本当にすみません」
「まあ、なんだ。お前の話は、正直なところ信じるに値する内容じゃない。突拍子が無さすぎるからな」
ユウヤは、その言葉に少し落胆する。けれど、ギルの言葉の続きは、ユウヤにとって胸を打たれるものだった。
「けどな、お前は信じられる人間だ。俺がこの目で見て、そう判断した。だから話の内容じゃなく、それを話したお前を信じる」
「……なんで、ですか。初対面なのに……」
「そうだな。まあ、お前の服がこの世界のモノと少し違うのはあるけどよ。何より……目の暗さで分かるよ。本当に辛かったんだな」
なぜだろうか。分からないけど、ギルの言葉に、ユウヤはひどく安心した。
けれど、そのせいか、余計に涙が溢れてくる。
悲しみと恐怖に、生き別れの母と再会したかのような、嬉しさと安心が上乗せされた感覚。
自分でもよくわからない感情のまま、彼は泣いた。
「……おうおう、泣きたきゃいくらでも泣きな。大事なことだぜ。涙でしか洗い流せない気持ちが、山のようにある世の中じゃあよ」
ギルの声色は、ひたすらに優しかった。
泣きじゃくるユウヤを、ギルはただ見守っていた。