第1話 ワープ男は蹂躙する
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……ラーメン食いてえな。
『両親だったモノ』が地面に転がっていた。
それが死体だと気がついた時、彼は嘔吐した。
血まみれで、ズタボロそれは、およそ人間の形をとどめていなかった。
なぜこんなことになっているのだろう。学校から帰ってすぐに目撃した惨状を、少年は受け入れられずにいた。
「父さん……母さん……! なんでだよ!」
少年の悲鳴が家に響き渡る。だが、次の瞬間には、それどころではなくなっていた。
「いやァアアアアアアアア! やめて、お願い、何もしないで……!」
2階から、妹の悲鳴が聞こえる。
「……由貴!」
妹の名を呼びながら、少年は走る。恐怖で鈍った頭でも、何が起きてるか嫌でもわかる。
両親は殺された。そして今、両親を殺したヤツが、妹にも襲い掛かろうとしている。
彼の脳裏に、妹の笑顔が浮かぶ。どうか無事であって欲しいと願う。
少年は、自分は平凡だが、恵まれていると思いながら生きてきた。
家族と、身近な友人の幸福以上のものは願ってこなかった。いい意味でも、悪い意味でも。
それなのに、当たり前の日常は急に崩壊した。
「……離して、やめて! 許して!」
白い仮面の男が、妹を、由貴をクローゼットから引きずり出そうとしていた。
「やめろ!」
少年は飛びかかり、男に組みつこうとする。
だが--まるで、霧や霞にぶつかったかのように、なんの手応えも感じなかった。
自分がぶつかる寸前で、男が消えたのだ。
「え……」
呆然とする少年。その一瞬の戸惑いは、致命的な隙となった。
次の瞬間、少年の背中に焼けるような痛みが走る。体の奥まで、染みつく痛み。
うめき声を漏らしながら背後を振り向くと、白い仮面の男が立っていた。
「『ワープ男』……!?」
少年も噂では聞いていた。都市伝説に語られる、超能力者。
黒いコートに、白い仮面。そして刀の二刀流。そんな異様な風体をした猟奇殺人鬼。
何もない虚空から急に現れて、人を斬りつけて去っていく。
白昼堂々、コンビニやスーパーで犯行に及ぶこともあれば、生放送中の配信者を殺したケースもある。
証拠の映像や、実際に被害者が死んだニュースを見ても信じられなかった。
そんなオカルトめいた存在が、目の前にいる。
「……お前、こいつの兄貴か?」
ワープ男が、再び妹に触れる。
「やめろ!」
もう一度挑みかかった少年の前で、今度は妹が消えた。
「おい……お前、由貴に何をした!?」
少年の質問に、ワープ男は静かにこう答える。
「……見てみるかい?」
ワープ男はクローゼットを指差す。中を覗いてみろ、ということだろう。
恐る恐る覗き込む。不自然なことに、なぜか妹の衣服は一切なかった。
その代わりに--『妹だったモノ』が、散らばっていた。
「う、嘘だっ……! なんで、どうなって……!?」
少年の思考が停止する。声が激しく震え、頭を抱えてうづくまる。だが、そんな彼もワープ男は手を触れた。
「お前さぁ、異世界チートって、好きか?」
少年には、ワープ男の発言の意図が、全くわからなかった。
ワープ男の掠れた声には、愉悦の色が滲んでいる。
「な、何を言って……!?」
「お前にも体験させてやるよ。せいぜい、俺を殺しに来るんだな」
少年の目の前が真っ暗になる。まるで、まばたこでもしたかのように。
そして、視界を取り戻した時、少年の目の前にあったのは--異世界の街並みだった。
「嘘だろ……!? どこだよここは!」
木組みの家。石畳の道。チュニックを着た人々。
鎧を身につけ、腰の剣を刺した人もいれば、エキゾチックな踊り子もいる。
トカゲに似た頭部の人、猫のような耳のある人。
大人の膝くらいの小人たち。角の生えた人たち。
少年の目に映る全てが、彼に告げていた。ここは、日本ではない。いや、地球でもない。
中世ヨーロッパに少し似た、それでいて大きく違う、別の世界であると。
少年の頭の中で、ワープ男の言葉が反響する。
『お前さぁ、異世界チートは、好きか?』
『お前にも体験させてやるよ』
ワープ男は確かに、異世界を自分に体験させると言っていた。
「まさか……嘘だろ? 本当に異世界だっていうのか、ここは……」
少年は愕然としながら、地面に崩れ落ちた。
そんな時だった、一人の男が、彼に話しかけてきたのは。
「おい、にいちゃん! 何ぼーっとしてんだ。あんた、目立ってるぜ」
話しかけて来たのは、スキンヘッドのコワモテだった。
「えっと、ごめんなさい……?」
訳もわからないまま、なぜか謝罪してしまう。少年は今、混乱していた。
「いや、謝らなくていいけどよ。それより、ここに何しにきたんだ?
急にワープして来たと思ったら、ぶつくさ言い出してよ。ハッキリ言って不気味だぜ?
なんかあったなら話くらい聞いてやっから、とりあえず付いて来な」
言われるがまま、少年はスキンヘッドについていく。
少年はまだ知らなかった。スキンヘッドの彼と最初に出会えたことは、この異世界生活における最大の幸運だと言うことを。
「それにしてもよ、にいちゃん」
「なんでしょう……?」
「背中、破けてるし血まみれだけど、誰にやられたんだ? 怪我だけは治せてるみたいだけどよ」
その時、初めて少年は気がついた。ワープ男に斬られたハズの背中に、全く痛みがないことに。