エピソード その6
ビニール袋片手に202号室へ行く途中。待合室の前を通ると、さっきの受付の人に呼び止められた。息が少し上がっていたので、何かなとぼくは思った。
「どう、同室の方とは仲良くできそう?」
「は、はあ。まだ会って間もないので……なんとも。……水面ちゃんのことですよね」
「そう……。あ、そうそう水面ちゃんよ。あの子とは、できるだけ仲良くしてやってね」
「え? あ、はい」
ぼくは受付の人から別れて、陽光がまだ射しているガラス窓の通りを歩いた。白い階段を上がっている間。バンダナを巻いた青年が松葉杖で階段の右側を降りたり上がったりしていたので、少し身体を避けた。
「へへっ! すまないね。今、身体鍛えてるんだ」
「あ、ああ。危ないよ」
バンダナを巻いた青年は、精悍な顔をしていて、背はぼくよりも高く。どこから見ても、不良グループのリーダーのように見える。
「へへっ、大丈夫さ。いつもの学校帰りで喧嘩してたら、相手の下段蹴りを喰らっちまったんだよ。身体が鈍るといけなくてね」
「右足?」
「ああ。凄いだろ。そいつは県大会優勝者の空手使いだった」
「へえー。痛くなかったの?」
「へへっ。そりゃ痛いさ」
「確かに骨が折れたんならね」
「いや、折れてないさ。へへっ、捻挫さ。俺の名前は石谷 健二」
「あ、ぼくは秋山 陸」