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エピソード その12
「おい! 秋山 陸! そんなところで寝てると風邪引くぞ!」
ぼくは目を開ける。
目の前には石谷くんがいた。
石谷くんは目をしょぼつかせて、ちょうどまた叫ぼうとする寸前だった。
「あ……ここは? 天使のような輝く光が……消えちゃったの?」
「……」
そこは、殊更に冷たい微風が注ぐような真夜中で。
ぼくと石谷くんしかいない屋上だった。
それもぼくが飛び降りる前のようで、少し高いフェンスが後ろにある。
石谷くんは、「へへっ」と笑って踵を返した。
「風邪引くから早く病室に戻ろうぜ」
「あ、ああ。……え?」
ぼくの体内から自分のものじゃない温もりと鼓動がした。
じわじわとくる暖かさと共に、自然と涙がぼくの頬を伝っていた。
水面ちゃんだ。
死んでしまった彼女は、今、いや、これからもぼくの中で生きていくんだ。