初めての君の声を聞くためには
実家の母が、いつものように倒れた。
どうやら、また過労らしい。
ぼくは、東京から母の元である長崎県へ飛んできたんだ。飛んできたといっても、別に飛行機やヘリコプターは使っていない。新幹線で約8時間かけて、しめて25000円。その間。繁忙期に入ってしまった仕事は、ぼくの頭の中では、有給を全部使い果たしてしまうことで記憶からすっぽりと抜けてもらうことになった。
新幹線内は人が疎らだった。
時折、カートを押すアテンダントが声を掛けていたり、前の席の人のこっちまで眠くなる寝息が聞こえるくらいだ。だから、とても静かな空間だ。
「お弁当はいかがでしょうかー?」
「え? あ、はい。牛弁当」
「毎度ありがとうございます! 1500円になります!」
ぼくは、シートに埋まりながら牛弁当を食べた。車窓からの景色が徐々に懐かしくなっていく。ぼくは自然と涙が流れていた。
長崎県で生まれ、大学へ通って、東京の大手企業に就職。将来は老後までもまあまあ明るかった。そんな僕には、一つだけ重大な欠点。いや、コンプレックスがあった。
それはまともに女性の顔を見れない。
という人生で最悪なものだった。
諫早駅は、長野県諫早市にある。とても利用者の多い駅だ。
そこから、タクシーを探して実家のある諫早図書館の近くまで向かう。そこから、そう遠くない場所の水谷総合病院が目的地だ。母は当然病院に入院しているだろう。