96.冒険者クロ、この異世界を満喫する
最終話となります。
カノンの包丁作りで続けて3日程。
今回はカノンにばれないようにじっくりと時間をかけて作成していた。
カノンの喜ぶ顔を思い浮かべながら、丁寧に包丁を作りこむという非常に楽しい日々となった。
そして、ようやくそれは完成した。
今日も酒屋で話し合いをしていたカノンは、すでに帰宅しいつもの様に食堂にいると思うので会いに行く。
カノンは子爵邸の料理長と何かを話し合っていた様だ。
「カノン、少しいいか?」
「ん、もう仕込みは全部終わったから大丈夫かな?」
そう言ったカノンは料理長に一声かけて俺の後について部屋へと戻ってきた。
「カノン、これ」
そう言って無限収納から取り出した3本の包丁。
包丁の種類は色々あるとは思うが、細身で長めの物、使いやすいサイズの物、重みのある物である。
それぞれが専用のケースに収まるようになっている。
形としては刺身包丁、牛刀、出刃包丁といったところだろうか?
だが、それに沿って使うかはカノンに任せようと思っている。
正直俺やジュリアには正しい使い方が分からないから。
それに、俺の作ったものは基本的に硬度を限界まで上げてある。
さらに今回は鋭さもかなり上げることができた。
あまりに切れ味が良いので普通のまな板がスッと切れてしまった為、高い弾力性と耐久性、魔力を流すと浄化魔法が発生するまな板を3枚作成した。
料理をしない俺とジュリアの2人だったが、これなら良いんじゃないか?いや、こうした方が?と話し合いながら作成したのも楽しかった。
そんなことを説明するとカノンがまた泣き出してしまった。
「やっぱり寂しいから先送りにしようかな?どうしたら良いんだろう?」
そう迷いだしてしまったカノン。
「俺が転移を使えるんだから何もなければ週7くらいで通うんじゃないか?」
その言葉で冷静になって泣き止んだ。
「そうか……そうだよね!おねーちゃんも、おにーちゃんも、お店に来たら絶対に満足させる料理作るから!期待しててね!」
「ああ。楽しみにしてる」
そう言って俺が頭を撫で様とするが、それを巧みに躱しジュリアに体を預けるカノン。
久々に甘えたい心境なのだろう。
役目をこなすことのできなかった右手が少し寂しい。
結局その日は遅い夕食になったが、カノンは食後に包丁を試すと言って調理場に行ってしまった。
俺とジュリアが目覚めた頃にはすでに隣の部屋で寝ていたようなので、流石に徹夜ということではなかったようだ。
その翌日には、すでにできている店舗の下見や教育内容の資料作成の為、カノンを連れて王都へ向かう日になってしまった。
それに合わせて俺とジュリアも再び旅に出るので、今朝は全員に見送られながらの出発だ。
見送りもあるので転移では味気ない。
そう思って飛んで行くことにした。
「よっこらせっと」
年寄り臭い掛け声となったが、俺の背中には黒い羽根が生えた。
「ジュリア、カノン、行こうか」
見送りの皆に挨拶をした後、黒いゆりかごのような物を作成すると2人がそれに乗り込んだ。
俺はそれを掴むとその周囲に結界で保護をする。
そして、背中の黒い羽根が軽く羽ばたく様に動き、ふわふわと宙へと浮かび上がった。
ちなみにこれは単なる飾りだが、これにより安定して飛べるようになった。
やはり魔法はイメージである。
「「「行ってきまーす」」」
再度声を掛け、俺達は王都へ向かってのんびりと空の旅を楽しんだ。
「おにーちゃん!これいいね!」
「そうだろ!」
「たまには迷宮連れてってくれる?欲しい食材があったら狩りに行きたいし!」
「ああ、いいぞ」
少し興奮気味にそう言って空からの風景を眺めているカノン。
隣に座るジュリアにしっかりと抱きつき甘えてもいる。
結局、あっちにフラフラこっちにフラフラと時間をかけて飛び回り、到着したのは夕方だった。
当然だろうが店舗の支配人にも事前に連絡が行っていたようで、すぐに支配人と他3名に店内を案内された。
十分に広くちゃんとした店構えだったのでホッとする。
エドモンドも一枚噛んでるし詐欺ではなかったと安堵したのだが、さすがに詐欺では?というのは考えすぎだったようだ。
「じゃあ、俺達は行くから何かあったら連絡するんだぞ?オープンの日は知らせてくれ!祝いの花をドドンと飾る様に手配するから」
「おにーちゃん、さすがにそれはちょっと……でも気持ちは嬉しい」
「そうか」
名残惜しくなりジュリアと一緒にカノンを抱きしめる。
その後、俺とジュリアはカノン達に見送られて空へと飛んだ。
「じゃあ、まずはどこに向かう?」
「そうだなー、転移なら一瞬だし、俺はクロが行ってない場所に行きたい!」
「うーん、俺が行ってない場所となると帝国の北西にあるエーリュシオン公国は、中央都市のラ・シオンしか行ったことないから、そこより北の方でも廻ってみるか?」
「うん!」
こうしてまた2人になった俺とジュリアは、公国をくまなく廻り次々と迷宮を攻略していった。
ジュリアは素材を提供しすぎて冒険者ギルド本部からの命により、昇級試験なしで金級の冒険者となっていた。
帝都の店にはオープン初日から転移を使って毎日に様に通っているので、いつの間にか俺とジュリアの専用の個室が用意してあった。
完全予約制になっており、毎日満席なのだとか。
帝国の火山地帯に生息する火喰い鳥の亜種が大量発生したという話を聞いたカノンのお願いにより、狩りに行ったこともあった。
それなりに数を狩れたので、その場で簡単な調理してもらったが死ぬほど旨かった。
王国の王太子の婚礼の儀に提供する料理のメインになるらしいが、その際に色々とトラブルもあったようだが、それはまた別の話。。
カノンは今や王国を代表する料理人となり、何度も王宮へ来ないかと誘われている様だ。
そんなカノンに火の精霊アカがちょくちょく手助けに行っている様だ。
食事を必要しない精霊でも、カノンの料理は最高の趣向品らしい。
他の精霊達も何とかお手伝いできないかと彼是思案しているようだ。
また、旅の途中ではナディアが週一ペースで押しかけてきては「私を妾に!」と言い寄ってくる。
毎回ジュリアに頭をゴリゴリとされ投げ捨てられていた。
さらにはかなりの頻度で俺の様子を覗きに来ている女神もいた。
俺に気付かれていると分かっているのかいないのか、頬を赤らめ鼻息荒くこちらに熱い視線を向けている月の女神セレネ。
たまにジュリアに気取られて氷槍を向けられていた。
俺達はまだまだこの世界は回り切れていない。
黒羽根を得た俺は長距離も負担なく飛べるようになったので、いずれはこの大陸以外の場所にも行ってみたい。
これからも、俺とジュリアでこの世界を満喫していこう。
俺の周りで今日も楽しそうに飛び回っている精霊達と共に、この異世界で―――
~ おしまい ~
これで本作は終了となります。
お読みになって下さったすべての方々に感謝を申し上げます。
※96話で終わったのは狙ったわけではありませぬ。
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