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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第二章

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80.冒険者クロ、ムスペルヘイムの迷宮探索


 ムスペルヘイムの迷宮前に立つ。


 街の外壁に隣接する朽ちた遺跡の様な建物に大きな入り口がぽっかり空いている。

 その入り口を抜けると、いつもの様に岩壁の広い空間へと到着する。


 この迷宮には多数の動くサボテン型の魔物や、大型のサソリ、砂を飛ばすトカゲ、火を吐く大蛙に大蛇と種類も豊富だ。

 サボテン系は薬の材料であったり、一部可食部もあるようだ。


 カノンがうまく調理してみたが、栄養面でのメリットしかないなと感じた。

 ぶっちゃけ不味い。


 サソリや蛇などは毒は強力だが、俺やジュリアは精霊の力により毒は効かないから問題は無かった。

 サボテン種は大小様々で、普通に壁の隅に自生しているのだと小さなサボテンに近づくと爆発したりするので心臓に悪かった。


 当然ではあるが魔物の強さという面では、最下層の40階層付近の最上位種で軽く運動になる程度だった。

 40階層の迷宮のボスは九頭火竜(ヒュドラ)であったが、40階層の魔物との強さのバランスが悪すぎる。


 40階層の延長でボス部屋に入ったら瞬殺されるのではないかと思った。

 相性が良すぎてジュリアが氷槍(アイスアロー)を連射して倒していたが……


 九頭火竜(ヒュドラ)からは大きな魔石と精霊石、火竜の心臓という素材がドロップした。

 毎日通ってみると3日程度でリポップするようなので暫く周回する予定だ。


 火竜の心臓を持ち込んだ時は騒動となった。

 迷宮のボスが九頭火竜(ヒュドラ)だという事は皆分かっていたようだ。

 出会い頭のブレスをなんとか躱し逃げかえることができた者達がいたようだ。

 ここらで活動する冒険者達はボス部屋には入るなというのがこの迷宮の暗黙の了解だったようだ。


 2度目の九頭火竜(ヒュドラ)討伐時に火竜の心臓を1つ提出し、受付のヴィルジニャが驚きの鳴き声を発して倒れた。

 それで冒険者が集まってしまい、見たことのない素材に騒然となり、最終的に俺がメローニを呼んできてその場は治まった。


 次の日から女性冒険者達から多数のアプローチを頂いた。

 その中にはロレンツォ達の仲間である2人も居たが、当然の様に背後に冷気を感じながらきっぱりと断っていた。

 なぜかお尻が痛い。


 ロレンツォ達の仲間は魔術師がマルティナ、呪術師がセレナと言うらしい。特にセレナは全体的に良く育っていた。

 最近ジュリアは氷鋭剣(アイスソード)という魔法を開発した様だ。

 しかもスイが何かを入れ知恵したようで無詠唱だ。お尻すっごく痛い。


 迷宮の周回の合間に街の周辺も探索する。

 広範囲で索敵(サーチ)していたがそれなりの数のワームを発見し見るのも嫌なぐらい素材が集まった。

 半分以上をギルドに納品すると、ヴィルジニャに「嫌がらせか!」と怒られた。

 それでもそれなりの金額で買い取ってくれたので需要はあるようだ。


 そんなある日、また別の場所を索敵(サーチ)すると、大量にレッドマークが固まっているところを発見したので、嫌な予感を感じつつジュリアと2人で向かった。

 広範囲に蟻地獄の様にくぼんだ砂地を発見し、風の壁(ウィンドウォール)で大量の砂を吹き飛ばすと、予想通りワームの巣だったようで、中では大量のワームが団子を作って絡み合っていて胃から昇ってくる物をなんとか堪えた。


 業火(ヘルファイア)で砂地を焼けばよかったなと後悔しつつ、業火(ヘルファイア)でそのすべてを念入りに焼き尽くす。

 焼け残った魔石を拾い集めギルドに報告したが、ヴィルジニャは巣が消滅したことよりも、ワームの素材が無いことの方にホッとしていたようだ。


 2週間程そんな生活をしていると、ヴィルジニャからジュリアに階級を上げないかと提案があった。

 そもそも、王都でジュリアが俺の代わりに竜素材を大量に提出しているので、依頼はほぼ受けていないにも関わらず金級にも成れるほどの貢献度が貯まっているらしい。


 だが、青級から銀級に上がるには護衛任務などの指定された依頼を受ける必要があった。


「面倒だからやだ」

「そういわずに、ほら、ジュリアさんだって箔がついて絡まれることもなくなりますよ?」

「別に、俺に絡んできたらぶちのめすだけだからな」

「そんなぁー」

 どうやら、自分で受け持った冒険者が昇級すると査定が良くなる様で、ヴィルジニャは熱いムスペルヘイムから快適な王都へと転勤したいらしい。


「これやるから、少しは査定上がるだろ?」

 背後に見えるしっぽの見ながら少し可哀そうに思った俺は、王都の竜種素材をいくつか放出すると、「キュ」っと鳴いて毛を逆立てながら後ろにひっくり返っていた。


 ジュリアが頬を叩いて復活させた。

 復活したヴィルジニャは喜びのあまり俺に抱きついてきた。

 そのヴィルジニャの耳が頬を撫でるくすぐったさと、しっぽが俺の腰にギュっと絡みつく心地よさに思わず頬が緩むが、再び俺の尻に何かが突き刺さりその痛みに悶絶していた。


 それから暫くして、素材を納品する際にギルドマスターのメローニから呼び出される。

 なんでも聖教国からの使者が来ており、俺に会いたいと言われているようだ。


「いや、面倒なんで遠慮するよ」

「待ってくれ!俺の立場では逆らえんのだ!頼むっ!」

 受付前でカウンターに頭を打ち付ける程にお願いされたので、仕方なしにその使いが待つという部屋まで案内された。


「お初にお目にかかります、クロ殿。(わたくし)、聖教国の教王陛下より命を受け、教王陛下のお言葉をお伝えにまいりました、ゴレッティ公爵家が娘、カルメラと申します」

「これは丁寧に、で?何用ですか?」

 俺の適当な返しにムッとするカルメラ嬢。


「こ、この度は父の名代として教王陛下のお言葉をお伝えします。


『冒険者クロ殿、貴方様の類い稀なるお力を知り、ぜひ臣下に迎え入れたく思う。条件などあるかと思うが、決して後悔はさせない。ぜひ一度、聖都アアルへお越し願いたい』


……とのことです。大変名誉なこと、もちろん(わたくし)が聖都までご案内いたしますわ!ふふふ。とても良い旅になると思いますわよ!」

 そう言って教王からの手紙と思われる物を胸にしまい込んだカルメラは、俺にそっと近づき胸に手を置いた。


 部屋の温度が何度か下がったのは気のせいではないだろう。


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