79.冒険者ジュリア、砂漠の街で再開する
砂漠の街、ムスペルヘイムに到着した俺達。
まずはと冒険者ギルドを訪ねると、猫獣人のお姉さんが出迎えてくれた。
蒸し暑いギルド内だった為かだらっとした動きではあったが、俺がカードを見せるとビクっとした後、「少しお待ちを!」と頭を下げ奥へと走っていった。
俺はそのお姉さんのピクピク揺れるしっぽを見送った。
冷気を感じ、慌てて背後を確認するとジュリアとカノンの周りにはムサい男達が輪を作っていた。
その男達に冷たい視線を向けるジュリア。
カノンはジュリアの腰にしがみつき隠れている。
「おい!待て待て!そいつらに絡むと死ぬぞ!」
「そうだ!離れろバカ野郎ども!」
輪を掻き分ける様にして入ってきた男達。
その言葉に納得いかない様子の冒険者達だが、その男達の仲間も集まってきたので周りは引いていった。
声を掛けてきた男達には見覚えが有るような無いような……
「ロレンツォ?それにエンリコも!」
ジュリアの言葉に思い出す。
ジュリアの元パーティの大きいのと小さいのだ。
「久しぶりだな。元気そうでなによりだ」
「ああ。お前達もここに来ていたのか?」
「この街に来たのは1週間程前だ。真面目に活動してるからな……おかげで俺達も青級となった。こっちが新しい仲間だ」
そう言って2人の女性が頭を下げている。
ロレンツォとエリンコは俺をちらりと見ると、気まずそうに顔を歪め軽く頭を下げるので気にするなと軽く手を上げた。
話し始めたジュリア達を眺めている俺は、横からツンツンと指差され振り向くと、受付のお姉さんがギルドマスターの部屋まで案内してくれるようで、ジュリアに一声かけておく。
カノンはジュリアと一緒にいるようだ。
ここのギルドマスターは元金級のメローニという長身の男性だった。
右目に残る傷は地竜にやられたらしく、その傷が原因で冒険者を引退したそうだ。
「特に問題はねーが、強いて言うなら最近街の外のワームが増えたってことぐらいだろうか……」
「確かに以前はそれほどいなかった気がするな」
「……ちなみにそれは何年前のことで?」
「多分100年程前?よく覚えてないな」
ギルマスのメローニは戸惑い頬を掻いている。
「メインは迷宮探索になるが、ワームについても気にかけておくよ」
「それはありがてー」
メローニと軽く握手をした後、宿などについて確認して別れる。
受付のところに戻ると、先ほどの獣人のお姉さんの傍にはカノンが、少し離れてロレンツォ達のパーティが呆然として立っている。
広いロビーの中央では、ジュリアが2人の男の腕を掴みそのまま投げ飛ばしていた。
ギルドの壁際には同じように投げつけられたと思われる男達が転がっていた。
大体の予想はつくが、そろそろ宿を決め一度シャワーでも浴びてさっぱりしたいのだが……
「あっ、クロ!」
ジュリアが俺に気付いたようで走って戻ってきた。
「大体は想像つくが、もう終わったか?」
俺の言葉に周囲をぐるりと見まわすジュリア。
まだ立っている冒険者達はふるふると首を横に振っている。
「終わった!」
「よし、じゃあ帰ろう」
俺の腕に巻き付く様に抱きつくジュリアと、お姉さんに手を振ってお別れしたカノンが反対の手を握りギルドから出る。
宿の途中で食品を扱う店があったので軽く足りない野菜や果物類を買い込み、紹介された宿へと向かう。
道中では、ロレンツォ達はあれから海岸線通りを北上し最近この街に来たこと、途中で仲間を増やし地道に迷宮巡りをして青級になったこと、仲間は魔術師と呪術師であることを話してくれた。
宿に到着すると、にぎわった食堂側から10歳ぐらいの女の子が走り寄り、俺達を笑顔で出迎えてくれた。
「3名様ですね!お食事ですか?お泊りですか?」
「泊まりで、暫くお世話になろうと思っているが開いている中で一番良い部屋をお願いしたい」
「かしこまりました!お食事についてはすべて別料金になってますので、ご利用の際は直接食堂へお越しくださいませ」
「分かった」
俺の返事に奥の方へ走り出し、「おかーさーん」と叫んでいるのが分かった。
少し待つと、エプロンを外した女の子が戻ってきた。
カウンターで受付し、ジュリアが冒険者カードを提示し、3名で10泊分の前払いとして金貨2枚銀貨5枚を支払い、3階へと案内してもらった。
中は広々としおり、涼しい風を送る魔道具も設置されていた。
お風呂もあるし問題はないだろう。
女の子を見送ると、早速身綺麗にしてソファに座り寛いだ。
カノンがバッグから取り出してくれていた焼き菓子を摘まみながら茶をすする。
シャワーから戻った2人も座り、先ほどの話を聞いた。
俺がいなくなると、ロレンツォ達の静止も聞かずちょっかいを掛けてきた男達がいたので、手を伸ばしてきた一人を捻り上げ蹴りを入れて転がしたそうだ。
そこからはその仲間と思われる男達が飛び掛かってきたので、それらを壁まで蹴飛ばしギルド内は大盛り上がりとなったと楽しそうに話してくれた。
さらに何人かが剣を抜いたが、そいつらには本気で殺気を飛ばし腰の剣に手を伸ばすとそれにビビった全員が剣を収め壁際まで退避した。
最後には腕試しだと言いながら、何人かが殴り掛かってきたところでその手を掴みぶん投げてを繰り返したところで俺が戻ってきたと。
ここの冒険者達は暑さで脳がやられてるのではないかと思った。
カノンはジュリアが男達を投げ飛ばしているのを見て面白かったと笑顔を見せてくれた。
お姉さんとも仲良くなったようで、名前はヴィルジニャと言うそうだ。
教はゆっくりしようとダラダラ過ごし、夕食はカノンの作り置きしておいた料理を部屋で食べ、いつもの様に結界のベールを設置して眠った。
中々に激しい夜だった。
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