78.冒険者クロ、ムスペルヘイムまでの旅路
次なる目的地は砂漠の街ムスペルヘイム。
冒険者ギルドを出た後は、調味料や野菜などの食料を大量に調達した。
肉類は途中で狩りをするので不要だが、作成の為にいくつか鉱石なども仕入れてきた。
道中の野営には結界のベールをさらに改良しなくてはならないだろう。
しばらく作成もしていないし、他にも時間が空けば少しぐらい作成しても良いだろうと思っている。
ムスペルヘイムまでは徒歩ならおよそ1週間はかかるが、カノンがいるので倍はかかるかもしれない。
急ぐ旅ではないのでのんびりと行こうと思っている。
「まずは道なりに、進めるところまで進もう」
俺の掛け声に元気いっぱいの2人と2大精霊。
最近はちょくちょく出現してはカノンの料理もつまみ食いしているようだ。
今まで魔力玉だけで満足していたのになんてこった。
さらにはカノンを分析したらいつの間にか2人の加護も追加されていた。
その時は焦ってリズとスイに確認すると、ジュリアからしっかりと寿命が長くなってしまうという点を確認してから付与されていたようだ。
「私だっておにーちゃん達といつまでも一緒にいたいんだよ?」
カノンがそう言って首を傾げたので思わず頭を撫でまわしていた。
多少の魔力は上がったようで、自分で水と火の用意ができるようになった。
これで大抵のことはできるし、料理人として重宝されるだろう。
カノンも独りで生きていける様になったが、どうやら俺達から離れる気はないらしい。いや、俺も手放す気はない。もし離れたいと言い出したらあの手この手で引き止めちゃうし。
初日はお昼にカノン作のサンドイッチを食べながら歩いていた。
たかがサンドイッチなのに旨くて困る。
夕方には早々に野営の準備。カノンは夕食の準備を始めた。
ジュリアは相変わらず胡坐をかいてカノンの休憩用の椅子となっている。
俺は早速作成で結界のベールを改良し、夕食前にはカノン用の部屋も隣接させた物が完成した。
互いの部屋はお互いの合意がないと行き来できないようにしてある。
当然の様に完全防音完備だ。
夜は早々に結解のベールに引っ込むと、俺は久々の作成を堪能する。
カノンの為に結界のベルトを作った。
腰にはカノンの冷蔵バッグをつけれるようにして、さらには魔石の収納口を作り、ボタンを押すとその魔石からの魔力で結界を張ることができる。
結界の強度はまずまずで小さな魔石で30秒程度しか持たないが、緊急的な使い方なら十分な効果と言えるだろう。
精霊の加護で増えたとは言え、カノンのあまり多くはない魔力だが、それでもその魔力を流し込めばもう時間は伸びるし、今後はカノンも成長すれば魔力が増えてゆくだろう。
さらにはペリースタイプの水色のマントを作成した。
身体に軽い耐刃、耐火、耐冷の付与をしてくれる物である。
翌朝、カノンにマントを渡すと、俺の名付けた流水之外装は却下され、守護之外装で良いと言われる。
どうやらカノンとは感性が少し合わないようだ。
ジュリアにも確認すると、少し戸惑った後、「守護之外装でいいんじゃないか?」と返された。
「ベルトは結界之帯で良いよね?」
「うん。それが良い!」
ベルトについては俺の考えた名を聞く前に2人で決めてしまった。
最近ジュリアとカノンが仲良すぎて少し寂しい。
旅を続けて3日目、お昼頃に丁度良い森が広がる場所に差し掛かる。
「少し狩りに行ってくるな」
そう言って森へと入る。
すでに脳内に展開しているマップには、レッドマークが屯している地点へ向かう。
能力強化により強化した脚力で一気に近づき、超重力により即座に叩き潰した。
すでに息のあるレッドマークが消失した事を確認し、軽くため息をつく。
そして少し離れた位置から覗いている2人の男に近づき声を掛ける。
「ナディアのとこのだよな?」
「へい!」
「その通りです!」
緊張からか直立不動になり汗を流す男達。
「ごくろーさん。鍋とか器とか、何かあるか?」
「へ、へい」
戸惑いながらも鍋を出す男。
「これでも食ってくれ。<無限収納>」
俺は男の持っている鍋に無限収納から取り出したスープを寸胴から入れ、さらにサンドイッチを大皿と一緒に山にして提供した。
「「ありがとうございます!」」
手に持つ料理を落とさぬようにぐっと前に出し、頭を深く下げる男達に軽く手を上げその場を離れ、本題の狩りを始めた。
ナディアには世話になってるし、とたまたま気が乗っただけの行動だったが、男達からその報告を受けたナディアは、悔しそうに地団太を踏んでいたというのはまた別の話だ。
1時間程で猪を3頭程仕留めた俺はカノンの元に戻ると、俺がカノンの指示により綺麗に解体して肉はカノンのバッグに収納された。
骨や牙、毛皮などは俺が収納して作成の材料にしようと思っている。
そんな旅路も1週間を過ぎると中々の悪路になってきた。
砂地まではいかないのだが、整備された道に埋め込まれた石畳がぐらぐらして歩きにくい。
たまに道から少し離れた場所にはレッドマークが出るが、姿は見えずワームなどが生息してると思われた。
何体かちょっかいを掛けて出てきたところを縦にぶった切り、素材として収納しておいた。
「カノン、これって食えそうか?」
「食べれなくはないよ?私は食べないけど」
「じゃあ食うのはやめた方が良いな」
ワームを見たカノンの感想であった。
10日目の朝、珍しくスコールの様な大雨が降っていた。
この世界はあまり雨が降らないので、久しぶりの雨に外に出るのが面倒になる。
結界のベールにより雨は弾かれているが、暫く止みそうにないしカノンを部屋に呼んで相談する。
カノンは一日だらだらと過ごしても良いと言ったので、ジュリアが外まで氷結界を広げてカノンの仕込みを見守るようだ。
俺も外に出てワームや動物の骨などを適当に出して作成を楽しんだ。
最終的に完成した品々を見たリズは、『がらくた』と言って消え、スイは『フフ』と笑って見えなくなった。
猪の毛皮をベースにしたタテガミのハットは中々かっこよいと思ったが、ジュリアとカノンにも不評だった。
そんなのんびりとした旅を終え、遂にムスペルヘイムの街を取り囲む塀が目視で見える位置までたどり着いた。
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