77.冒険者クロ、酒の宅配を願い出る
野外で食事を取るようになって数日。
少しづつだが無限収納にストックしてあった各店の料理は減っていたが、徐々に減るペースが少なくなってきた。
カノンの料理がうますぎるのだ。
できれば三食食べたいが、我慢してお昼は無限収納に眠るものを平らげている。
ジュリアはカノンを神様の様に崇め、スープの仕込みなど手が止まっている時はカノンの椅子の様になって抱きしめて愛でていた。
もう無限収納にある物はあきらめでどこかに少しづつでも提供して回ろうと思っている。
そんな日々を暮らす中、カノン作の料理のストックもそれなりに増えてきたので、いよいよ他の街へと行こうと思ったが、ジュリアの父、エドモンドから連絡があった。
子爵邸の倉庫にかなりの数の酒と醤油、味噌が貯蔵されているのでそろそろ取りに来ては?と言われてしまった。
すっかりその事を忘れてた俺は、宅急便を頼むことにした。
『はい!あなたの愛しのダークなエルフ、ナディアです!』
ワンコールで出た黒エルフの甲高い声に、少しだけイラっとしつつ優しく返事する。
「久しぶりだな元気か?」
『はい!今元気がフル充電されました!いつでもおそばに行けます!今どこですか?アナタラッタにいるのは分かっておりますが!』
「ああ。アナタラッタの街外れだな。少し西の原っぱだ」
『かしこましましたー!』
通話は切れ、すぐに上空から声が聞こえた。
「クロ様ぁー!」
アナタラッタの西門から少し離れた位置に転移してきたであろうナディアが、こちらにすごい勢いで飛んでくるのが見えた。
「うおっ!<結界>!」
思わず結界を生成してしまい、ナディアは「ぎゃふん」といって顔を打ち付けていた。
「ごめんごめん、つい……<治癒>」
顔を両手で覆って地面をバタバタ転がるナディアに治癒を施した。
「ほぁぅー!酷いですがクロ様!でもクロ様の愛の癒しが心地よいー!」
悶え始めたので治癒を止める。
「クロ様ぁ、もっと癒してくださぃー!」
起き上がって俺に飛びつこうとしていたナディアは、ジュリアのアイアンクローによってプラーンとなっていた。
「ジュリア、離してやってくれ」
「えー、分かった」
ジュリアが手を離すと地面に落ちたナディアは、自分で治癒をしてから涙目で立ち上がった。
「色々すまん。少し頼まれてほしいんだが、以前ジュリアの実家には行ったよな?そこで酒とかが味噌とかあるから、取って来てくれないか?エドモンドさんには代わりにこの白金貨10枚を渡してほしい。頼めるか?」
そう言って白金貨を手渡した。
「はい!もちろんいいですよ?でも……」
「お礼はするから」
「分かりました!クロ様の為ならすぐに行きますので!」
その言葉と共に転移で消えたナディア。
俺はすぐにエドモンドに連絡を取り、ナディアが取りに行くことを伝えておいた。
「ただいま戻りましたぁ!」
「おお。すまんな。そこに出したらこれでも飲んでくれ」
準備済みのシートを敷いてある場所を右手で指し示し、左手に持っていた黄金スープを差し出した。
魔法のバッグから大量の酒と味噌、醤油を取り出したナディアはスープを受け取ると、フーフーしながら飲み始めた。
一口飲むとピクっと長い耳が動く。
その後、フーフーハフハフと熱いのを我慢するように必死に飲み干していた。
「クロ様!なんですかこの激うまなスープは!」
「新しい仲間。料理人のカノンだ」
「初めましてナディアさん、美味しく飲んでもらえて嬉しいよ!」
ナディアは笑顔で挨拶をするカノンを見て固まっていた。
「クロ様……なぜ私ではなく人族の子供を……」
「カノンは料理人だ。分析したなら分かるだろ?」
「はっ!確かに加護持ち!ぐぬぬぬぬ、そう言う方法もあったのか!」
ナディアが悔しそうに歯噛みしている。
「方法もくそもあるか」
「だってぇー、それなら私だって今日みたいに便利な女ですのよ?御一緒しても良いではないですか?」
「いや、ナディアは呼んだら来てくれるだろ?今でも十分に助かってるよ。それに組織も運営あるだろ?これからも頼みごとがあったらちゃんと呼ぶから、お前は頼りになるからな。後、これ持って帰ってくれ。俺からのせめてものお礼だ」
俺はナディアを適当にあやしながらシートの上の酒などを無限収納に収め、代わりに余っていた料理を取り出した。
「どれも俺のおすすめのお店の物だ」
「クロ様のおすすめ!ありがとうございます、クロ様!」
ナディアは嬉しそうにそれらをバッグに収めると笑顔を見せていた。
俺も処分できて嬉しいし、ナディアもとても嬉しそうだし、ウィンウィンだな。
「じゃあ、今日はおつかれ。ありがとな。また頼まれてくれるか?」
「はい!クロ様の為ならいつでも体も心も開けておきます!いつでも愛でてください!」
「はいはい。じゃあ、またな」
ナディアは名残惜しそうにするものの、俺が手を振るので仕方なくといった感じで手を振り返し転移で消えた。
「おにーさん、ちょっとあの子、可哀想だったけど」
「うーん、まああれでも数百年生きたババァだからな。この世の厳しさを知っている奴だ。大丈夫だろう」
それに対するカノンの視線は少し冷たかった。
何にせよ、旨い酒などが手に入った。
俺は話題を変える為、先ほど収納した酒など、それぞれ1つずつ取り出してカノンに確認してもらった。
「これは、凄い良い奴ですね。使っても良いのですか?」
「ああ、もちろんだ」
「ありがとうございます」
嬉しそうに俺にそれらを返すと、「使う時は言いますね」と満面の笑みを向けてくれた。
「さてと、肉はまだあるし、次は珍味でも狙ってみるか?」
「珍味?」
ジュリアが首を傾げている。
「ここから結構離れるが、ムスペルヘイムには砂漠の迷宮があってサボテンの肉なんかがあるようだぞ?俺も一度だけ行った事がある」
「それは、気になります!」
カノンの目が輝いた。
俺は2人の合意も得たので冒険者ギルドに立ち寄り、街を出ることを告げた。
目指すは砂漠の街ムスペルヘイム。
ゆっくりのんびり徒歩の旅をすることになった。
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