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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第二章

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75.冒険者クロ、カノンに料理をおねだりする


「さて、次はどこの街に行こうかな?」

 店を出た俺はそうつぶやく。


「カノン、どこ行きたい?」

 ジュリアも胸に抱くカノンに聞いている。


「私、美味しいお肉があるところに行きたい!」

「それはいいな!じゃあ、またババァに聞くか?」

「ババァ?」

 俺が通信カードを取り出し通話ボタンを押した。


「なあクロ、また怒られるんじゃないか?」

 ジュリアが心配そうに聞いてくる。


「まあ、大丈夫だろ?あっ、アレッサ?」

『煩い馬鹿者が!』

「まあまあ。それでさ、旨い肉があるところを紹介して ―――」

 残念ながら通話は切れていた。


「なんだよ、冷たい奴だな」

「今のはクロも悪いと思うぞ?」

 苦笑いしながらのジュリアに俺は首を傾げてみる。


「そうだ、カノンは何か具体的に食べたい物はないか?」

「うーん、さっきの闘牛のお肉は美味しかったかな?」

 熱血闘牛(ヒートブル)の肉は確かに旨い。


 そして、俺の無限収納(インベントリ)にも昔、王都で狩った大量のブロック肉が未だに収納されている。


「よしカノン、肉はある。宿の厨房を借りよう!」

「ホントにいいの?私に料理させてくれるの?」

「ああ、言っただろ?カノンの旨い料理が食べたいんだって」

 嬉しそうに笑顔を向けるカノンの頭を撫でる。


「じゃあ、調理器具!鍋とか色々確認したい!そして旅をするなら外でやってみたい!私、外での調理は初めてだから!」

「なるほど、じゃあ一旦宿まで戻って器具の確認だ。明日は足りない物があれば買い出しして、街はずれで試してみないか?」

「うん!」

 カノンの嬉しそうな返事を聞き、俺もジュリアも笑顔を返す。


 急ぎ宿まで戻った俺達は、部屋にシートを敷くと肉や果物、調味料と一緒に昔自分で調理する為にと用意してほとんど使わなかった調理器具を出す。

 どれも王都で買った高級な部類の調理器具だ。


 食材を手早く確認したカノンに「もう収納して大丈夫」と言われ、無限収納(インベントリ)に収納する。

 無限収納(インベントリ)に入れておけば時間は停止しているとは言え、数百年越しのお肉だ。

 不安ではあったがカノンの厳しい目にも合格できたようだ。


 その後、カノンは目を輝かせながら残った器具を手に取り、ひとつひとつ具合を確認をしているようだ。


「おにーちゃん、これは?」

「これは、これとこれをセットして、竈になる」

 土台の耐熱煉瓦に複数の網をセットすると竈になるという野営グッズであった。


 組み立てた後、いろいろな器具を乗せたりして確認をする。

 まるでおもちゃを与えられた子供のように数時間それらをいじり倒したカノンは、俺にすがるような視線を送る。


「おにーちゃん、包丁がもう少し種類が欲しいです。あと、寸胴鍋も。お願いできますか?」

「なんだ、それだけでいいのか?」

「うん。これだけあれば十分だよ。あの男に色々奪われちゃって、私、万能包丁とフライパンしか残ってないけど、これだけあれば美味しい料理、作れるよ」

 そう言いながら自分のバッグから使い込まれた包丁とフライパンを出したカノンは少し泣いていた。


 ジュリアが優しく抱きしめると、肩を震わせているカノンを見て、あの男にもっと痛い目に合わせてやれば良かったと後悔した。


 その後、夕食として無限収納(インベントリ)に眠る各所で収納してあった料理を複数取り出し腹を満たす。

 カノンは俺達の物も彼是と味見して何やら考えている様子だった。


「色々な料理を食べるのは楽しい!」

 そう言われた俺は調子に乗って無限収納(インベントリ)にストックしてある料理を出し続けると、「おにーちゃん?さすがにもう無理だよ?」と可哀想な子を見るように見つめられた。


 これからはストックを消費しながらカノンの料理を堪能すべく、なるべく外では買わないようにしようと思った。




 翌日、無限収納(インベントリ)から出した朝食を食べ終えた俺達は、街の金物屋に行くと包丁と寸胴鍋を購入する。

 王都には負けるがそれなりの品揃えではあった。


 街外れに行こうと移動中、衛兵達の詰め所の前を通ると昨日立ち会ってくれた衛兵の1人が立ち番をしていたので軽く挨拶を交わす。

 昨日の今日だが、あの男の店が競売に掛けられるのだと教えてくれた。


 なんでもあの男は男爵位だったようで、あの男の王都の本店に足繁く通っていた伯爵位の男が今回の話を聞き大激怒。

 伯爵から連絡がきた男は「あれは手違いがあっただけで、本店ではちゃんとしたお肉を使っています!」と言い張ったようだが、すぐに分析持ちの部下が本店の調理場に急行、熱血闘牛(ヒートブル)の魔物肉を発見したことで縁を切られることになったそうだ。

 当然その伯爵と懇意にしている貴族達にもそれらが知られることになるので、大急ぎで金を工面して備えて置きたいと全店舗閉めることにしたようだ。


 明日にも競売は始まり、その日の内に買い手が決まるらしい。


「カノン、なんなら買い戻すこともできるが、どうする?なんなら王都の店舗でもいいぞ?」

「うーん、もう店内がほとんど変わっちゃったみたいだし、私は要らないかな?おにーちゃんが欲しいなら買ってもいいけど」

「そうか。親父さんとの思い出の場所じゃないのか?」

 俺の言葉に首を横にふるカノン。


「お父さんとの思い出はここにあるから」

 そう言って胸に手を当てるカノンを、ジュリアが抱き上げ愛おしそうに頬擦りしていた。


 まるで親子みたいだな。

 そう思った。


 俺とジュリアでは子供ができないから、本当に親子の様に接するのも良いかもと、勝手にだがそう思ってしまう。

 この世界に来て数百年、初めて感じる心の暖かさにふいに涙が出そうになり天を仰いだ。




 その後、街外れの広場で竈とテーブルを出す。

 カノンに言われるがままに食材と調理器具を取り出すと、「後は任せて!」と言われぼんやりと椅子に座りジュリアと一緒に眺めていた。

 手際よく調理を進めるカノンに、時折「火を」「水を」と言われてジュリアと一緒にあたふたしながら手伝った。


 カノンの調理を始めて2時間後、魔物肉と野菜と果物をふんだんに使った品々が完成する。


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