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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第二章

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74.冒険者クロ、貴族の店で分析結果を暴露する

体調が戻らず更新ができない日がありますが、長い目でブックマークを頂ければ幸いです。


 カノンの父親の営んでいた店でスープを味わった3人。


 この店は元々、こんなこじゃれた名前のセットは無かったが、黄金スープという、メニューがあったらしく、それがこの店の名物であったようだ。

 カノンの父親は店が終わってから大量のスープを仕込み、朝まで眠い目をこすりつつもじっくりと煮込んでいたようで、その濃厚な味わいを楽しもうと今でもこのスープを目的にお客さんが来ていると言っても良いのだとか。


 その事はここに来る前、冒険者ギルドなどで聞き込みで確認していた。


 カノンの「違う」という言葉に俺も納得した。


「そりゃー、メニューに書いた説明ともまったく違うからな。これ、スゲー種類の調味料入ってるから。これじゃ確かに原価は高くなっただろうが、味を真似たって物でもなさそうだな」

 俺の言葉に頷くカノン。


「ちなみに、親父さんのスープより旨くなった、ってことはないか?」

「全然!お父さんは調味料は塩といくつかのハーブしか使ってなかったけど、もっと美味しかった!」


 カノンの言う通り、カノンの父親は安価で提供していたとも言っていたので、やはり目の前に出されたそのスープは手間暇ではなく調味料を多く使った紛い物であったようだ。

 あまり肥えた舌ではない俺だったが、分析結果に多数の調味料の固有名詞まで出てしまったのだから疑いようもないだろう。


「カノンの親父さんのスープ、今度作ってくれるか?」

 俺の願いに笑顔を見せ頷くカノン。


 ジュリアも楽しみだと笑顔になっている。


 さて、そろそろ良いかな?

 俺は店員に向け軽く手をあげ呼び寄せた。


「すみません、この黄金スープってここの名物なんですよね?」

「はい。こちらのスールは長時間煮込むことにより、野菜の旨味が溶け込み、その濃厚な味わいが自慢でございます」

 丁寧に返答する店員に「そうなんですね」と適当に返しておく。


「ちなみにどのぐらい時間をかけてるんですか?」

「それは……私は調理の方はちょっと……」

「そうなんですね。カノン、これってどれぐらい煮込んでると思う?」

 急に質問されたカノンが戸惑っている。


 そして、もう一度ゆっくりとそれを味わった後、慎重に口を開く。


「このスープ、いくつかの調味料で味を調えたスープに、ゆでて下ごしらえした野菜を後から入れて……馴染んだらすぐに出したものだと思う」

 カノンの返答に困惑し言葉を詰まらせる店員。


 俺はカノンの舌はそんなことまで分かるのだなと感心する。


 そんな中、マークしていた御貴族様がこちらへと歩いてくるのが確認できた。

 その背後には一緒のテーブルにいた貴族っぽい男も2人、連れ立っている。


「何事ですか?」

 その男の声に反応し、顔色を悪くした店員が小声で経緯を説明しているようだ。


 男はこちらをジロジロと伺った後、小さく息を吐き出し笑う。


「これはこれは、前オーナーの娘さんではありませんか?お店を取り戻しにでも来ましたか?」

「違う!」

 口元をハンカチで押さえながらそう言う男に、カノンが反論する。


「分かりもしないのに可笑しな難癖をつけているではありませんか?」

「分かるもん!お父さんの作ったスープにはこんな調味料のピリピリした感じはしないし、野菜の旨味がいっぱい溶け込んでたもん!」

「おやおや、滅多なことを言うもんではありませんよ?難癖をつけるなら……然るべき対応をさせて頂きます!」

 カノンの言葉に顔を顰め高圧的に言い放つ男。


「なあ、それならそれで良いけど、食材を誤魔化すのはダメじゃないか?」

「お前が誰か知らないが、滅多なこと言ってんじゃねーぞ!」

 俺の忠告に、即切れする男。


 その横に店の護衛兵がこちらに身構えるように立ち、腰にある剣の柄に手を添えこちらを睨んでいる。


「今日のおすすめってローストビーフ?何を間違ったが知らんが熱血闘牛(ヒートブル)の肉になってるが?……まあ旨かったけどな」

「なっ、何を言ってる。そんなことあるわけがないだろ!」

 俺の言葉に男は反論するが、周りの客からはザワザワと話し声が聞こえている。


 熱血闘牛(ヒートブル)は王都の20階層付近にいる魔物で、ドロップ品のブロック肉は旨いがそれなりに安価で出回っている。

 王都の青級ぐらいまでなら良い稼ぎになるのだが、あまり詳しくはないが天然の牛と比べれば価格は歴然だろう。


 それなりに大きなブロック肉が銅貨4~5枚程度で取引されてるからな。

 この金貨が必要な一皿程度の肉なら、1匹のブロック肉で何皿できるだろうか?

 そんなことを考えながら狼狽える男を見ていた。


 背後にいたはずの貴族風の2人もそっと距離を取っている。


「ええい!そんな馬鹿なことあるわけないだろ!お前達、衛兵を呼べ!そしてこんな輩、とっとと追い出してしまえ!相手は平民だ、不敬罪で切り捨ててしまっても構わん!」

 唾を飛ばしながらそう言う男だったが、向かってきた護衛の剣先を素手で掴んで押さえつける。


 それに驚く男だったが、店内にドタドタと10名程度の衛兵がやってきた。


「こ、これは皆様、お越し頂きありがとうございます!この輩が我が店で難癖をつけておりまして」

「そうかそうか」

 そう言う男の前に衛兵の1人が立っている。


「この輩が、我が店のお肉をこともあろうに魔物肉を使ってるなどと……」

「話は、詰め所でじっくり聞こうか?」

 男の肩をガシっと掴む衛兵。

 

「な、何を……」

「良いから黙って歩け!」

 戸惑い叫ぶ男を引きずるようにして店外へ連行する衛兵。


 衛兵が俺の横を通り過ぎる時にはペコリと一礼するので俺も礼を返しておいた。

 詰め所には事前にこんなこともあるかもねーと伝えに行った。

 冒険者ギルドのギルドマスターと一緒に。


 まさか食品偽装までしているとは思わなかったけど、街の評判を聞けば絶対何かやってるというのは分かっていたし。

 とは言え御貴族様のやってる店だし、金持ちの商家を中心に人気だったようだが、これで客入りは減るだろう。

 大したダメージにはならないかもしれないが、カノンの気持ちを少しでも晴らす為のせめてもの嫌がらせであった。


「おにーちゃん、ありがとう。すっきりしたよ。ちょっとだけだけどね」

 そう言うカノンは笑顔だったが目元には涙が流れていた。


「おう。それは良かった」

 そう言って頭を撫でるカノンをジュリアが抱き上げ、俺達は店を後にした。


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