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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第二章

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73.冒険者クロ、アナタラッタで少女と出会う


 海底の迷宮で珍しい海の幸をゲットする毎日を送る俺とジュリア。


 氷結鮫(アイスシャーク)双首鮪(ダブルヘッドツナ)電撃鰻(エレキイール)など、ドロップは各種可食部のみという美味しい迷宮であった。

 無限収納(インベントリ)に大量に収納してある。


 宿に卸して調理してもらい毎日旨い飯を食っている。

 そんな中、街ブラ中に露店で10歳前後だろう少女が、肉巻き野菜という拳大の料理を販売していた。


 旨そうな匂いにつられ購入する。


「お兄ちゃんありがとう!」

「ああ。とても美味しかったよ。他のお客さんに迷惑がかからない程度に売ってもらえるかな?」

「えっ!いいの?」

「ああ。お兄さん収納持ちだから、いくらでも入るからさ」

「じゃ、じゃあ、作り置きを全部仕上げるから、全部買ってくれる?」

 少女は必死な表情でそう言うが、全部買ってもいいのだろうか?


「全部?それは嬉しいけど、他のお客さんの分は大丈夫かい?」

 少女は俺の質問に顔を曇らせる。


「だって、ほかに買ってくれる人なんていないもん……」

 泣きそうになりながらそう言う少女。


「なあ、クロ……」

 ジュリアに声をかけられ周りを見ると、こちらをジロジロと見てはヒソヒソ話をしている街の人がチラホラと伺えた。


「ご、ごめんなさい……やっぱり私なんかがこんなもの……」

 悔しそうに拳を握る少女をこっそりと分析(アナライズ)する。


「少し、話せるかな?」

「え、はい……」

 俺は少女にそう声をかけ屋台ごと無限収納(インベントリ)に収めると、驚く少女と共に宿の部屋まで移動した。


 もちろんジュリアが手を繋いで連れてきたので通報されたりはしなかったが、宿の受付では不審な目で見られてしまった。


「少し、事情を聞いてもいいかな?」

 俺は目の前の"食材の女神の加護"持ちの少女に話しかけた。


 少女の名前はカノンと名乗っていた。


 カノンは早くに母を亡くし、料理人だった父と共にあの露店近くの食堂を経営していたようだ。

 だが1年ほど前、王都にもお店を持つ貴族の男が訪ねてきて傘下に加えてやると言ってきたそうだ。


 当然それを断ったのだが、翌日からは迷惑な客が出入りするようになり、ついには経営できないぐらいになってしまい最後には他の食堂の仕込みなどを手伝うなどで資金繰りをしていた父親は体を壊し、2か月ほど前には亡くなったそうだ。


 それから、店は貴族に僅かな金貨で買い取られた上、その貴族に雇ってやると言われたようだが、それを断り露店を借り今日まで生きてきたと言う。

 だが最初は売れた商品も、父親と同じように迷惑な客が邪魔をするようになり、自然とお客も離れてしまい、俺の様に事情の知らない者がたまに買ってくれるだけになってしまった。


 幸いなことに手元に父親の残した保存用魔法のクーラーボックスがあったので、今日までなんとかやってきたそうだ。


「なあ、俺達と一緒に来ないか?」

 俺は思わずそう口にしてしまう。


「え、でも私、何もできないし、お兄さんに迷惑かけちゃう」

「大丈夫。カノンは女神に愛されてるよ。だからカノンの作る物はとっても美味しいんだ。できれば俺達と一緒に旅をして、美味しい料理を作ってくれないか?」

 カノンはびっくりしたような顔を見せた後、顔を伏せ肩を震わせていた。


「ジュリアごめん。勝手に決めちゃった」

「いいよ。クロが決めたことだろ?それに、あの肉巻きは旨かった!」

「そうなんだよ。カノンには"食材の女神の加護"を持ってる。多分だがもっと美味しい料理が作れると思う」

「本当か!俺、楽しみになってきた!」

 俺は、いつも宿や食堂の料理を大量にストックしているが、狩った魔物からドロップした食材を調理して旅をすることにあこがれていた。


 始めは俺も旅をしながら料理にチャレンジしたが、俺に才能は無かったからすぐにあきらめたんだよな。

 そんなことを考えながら、目の前で顔を上げたカノンの返事を聞いた。


「そうと決まれば……カノン、そのバカ貴族の店まで案内してくれるか?」

「えっ? ―――」




 俺は、元カノンの父親の店の前に立ち店内を覗く。


 改装されてすっかり中身は変わってしまったという豪華な店内が、外からもガラス張りの大きな窓からも見ることができた。

 それなりに入っているようだが、客の身なりは良い様でそれなりの高級食堂なのだと思われた。


 俺達は店内に入るとすぐに店員がやってきて席へと案内してくれた。


「適当におすすめを三人前で、スープのあるやつでな」

「かしこまりました」

 席で適当に注文すると、きょろきょろしていたカノンが軽く席を立ち、俺に顔を寄せてきた。


「おにーちゃん、あそこ、その貴族様がいる」

 小声でそう言いカノンが指差した先を見ると、見るからに貴族だというゴテゴテした服を着た男達のテーブルがあった。


 それは丁度いいな。

 そう思いながら暫く待つと、本日のおすすめだという旬の野菜とローストビーフのスペシャルソース添え、というこじゃれた名前のセットがテーブルに並べられた。

 店員が下がった後にメニューを確認すると、アナタラッタの牧場で育った黒毛牛の希少部位を使ったローストビーフと地元の新鮮な野菜、そして野菜などを長時間煮込んだ黄金のスープに、厳選小麦のパケットなど長ったらしい説明が書いてあった。


「<分析(アナライズ)>」

 俺は目の前の料理を詳細に分析した後、スープから口に運ぶ。


「まあ味は悪くはないけどな」

「うん、旨いぞ?」

 俺とジュリアの顔を見ながら一口スープを口にしてそのままスプーンを置くカノン。


「お父さんのレシピだと思う……でも違う」

「そうか」

 カノンの言葉に俺も納得した。


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