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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第二章

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72.冒険者クロ、新たな目的地は海の中


 子爵家に部屋を借り、今日もまったりとした朝食を頂いた朝。


「クロ様、本日はどうされるのですか?」

 令嬢らしい所作で口元を拭かれながら言うソフィア。


「そうだなー、祭りも終わったしそろそろ他の街に行こうかとは思ってるけど、目的地がなー、どこかおすすめはないか?」

「クロ様、ずっとこちらにいて頂いても良いのですよ?」

「そうでございますクロ様!」

 ソフィアが顔をグイっと俺の方へ向け呑気な提案をし、執事バジリオもそれを肯定する。


 子爵様はその様子をやや苦虫を噛み締めたような表情で見ている。

 ジュリアはソフィアについては特に目くじらを立てたりはしなくなった。


 そんな中、右耳のピアスが反応する。

 無限収納(インベントリ)に入れてあった通信カードを取り出すと、すでに頭から忘れさっていたダークエルフからの連絡であった。


「ナディア、どうした?」

『おはようございますクロ様!今よろしいでしょうか?』

「ああ。大丈夫だが、何かあったか?」

『クロ様は今、ポースタラッタの子爵邸ですよね?』

 どうやら俺は相変わらず組織の者にストーキングされているようだ。


「そうだが、なんだ?喧嘩を売ってるのか?」

『なんでそのようなことをおっしゃるかわかりかねますが、ようやく組織の整理と過去の諸々も処置がおわりまして、そろそろクロ様と戯れたいなと思いまして』

「ああそうか。ご苦労さんだな。戯れはまた今度頼むわ」

『そんなぁ!まだお子様な子爵令嬢と戯れるぐらいなら合法ロリな(わたくし)とぜひ!』

「ソフィアと戯れたりしとらんわ!切るぞ!」

『ま、待って下さいませ!クロ様がお暇ならぜひ私のアジトに招待しますので、目くるめく甘いひと時を……』

 俺は通信カードの終話ボタンを押した。


「クロ、あの黒エルフは殺っておいた方が良いかもしれない!」

「ジュリア?一応あいつは殺して良い殺人クソ野郎ではないからな?」

「だけどクロに迷惑かけるなら一度ぐらい良いと思う」

「言っとくが、ダークエルフも命は一つだからな?」

 俺はジュリアを撫で落ち着かせる。


 俺は、再びカードを操作して通話ボタンを押した。


「ああ、ばーちゃん?今いいか?」

『誰がばーちゃんだ!(ピー)すぞ!』

「そう怒るなって。アレッサに聞きたいことがあったんだよ」

『あ"?なら早く言え。私は忙しいんだ!』

「あのさー、今ポースタラッタにいるんだけど、近場にどっか面白いところない?」

 俺の質問には、フヴェルゲルミルのギルマスでハイエルフのアレッサンドラから返事がすぐには返ってこなかった。


 カードは繋がっているようだが、故障か?


『おい……私は観光観光案内じゃねーんだぞ?』

「アレッサ、口汚いぞ?」

『お・ま・えー!』

「いや、やっぱアレッサが一番頼りになるんだよ。どっか良い街ないか?」

『くっ……アナタラッタ……』

 アレッサンドラがスーハーと深呼吸した後に絞り出した様な声で教えてくれた。


「アナタラッタ?」

『ああ。ポースタラッタからだと北だ。そこの海岸近く、海の中に新たな迷宮ができたらしい。お前なら呼吸せずとも死にはせんだろ?』

「いや死ぬって」

『何とかなるだろ?』

「ああまあ、そうだな」

『じゃあそこを探索して、ギルマスに私がお前を手配してやったと、精々恩を売っておけ。こんなの私の管轄ではないんだ!私が、お前を、態々、手配して手助けしてやったと、あっちのギルマスに言うんだぞ!いいな!じゃあ切るぞ!』

 ヒートアップしたアレッサンドラが通話を切り、俺はため息をついた。


 長く生きていると余裕が無くなるもんなんだろうか?

 そう思いながらも、次なる目的地をアナタラッタに決め、子爵達にも明日の朝には出発することを決めた。


 ソフィアとバジリオはがっかりし、子爵様は「そうかそうか」と嬉しそうだった。




 翌日の昼前、ぐずるソフィアとバジリオに別れを告げ、冒険者ギルドまでやってきた。

 ソフィアはともかく、「行かないでくださいませー」と腰をくねくねする老年の執事は誰に需要があるのかさっぱりであった。


 冒険者ギルドでさくっと街を出ることを告げると、今回は風の壁(ウィンドウォール)で一気に飛ぶことを選択した。

 俺も、ジュリアも、海底にあるという新たな迷宮に期待が高まってしまい、昨日は眠れぬ夜を過ごしたぐらいだ。


 2時間程度で到着し、さっそく冒険者ギルドに報告と情報収集をする。

 カウンターには年下と思われる若い女の子がいる列に並ぶと、周りの冒険者からはジロジロとよそ者扱いの視線で品定めさらている感じがした。


 幸い絡んでくる輩は出現しないまま、俺達の番が回ってきたので白いのカードカウンターの上に出し、魔力を籠める。

 女の子は黒くなってゆくカードを見てビクっとした後、少し考えるしぐさをした後、カードを受け取ると裏へと走っていった。

 今回も何とかなりそうだ。


 暫くすると40代ぐらいの少し化粧の濃いお姉さんがペコペコ頭を下げながらやってきた。


「あなた様が……」

 俺は肯定の意味で頷いた。


 そして裏へと案内されるが、その光景に他の冒険者達がざわついていた。

 今回は後から色々ありそうな予感を感じた。


 この街のギルドマスターであるお姉さんは、海底にできた迷宮以外は特に問題はなしということで、アレッサンドラから頼まれたと一応伝えると、ものすごく喜び感謝された。

 これでアレッサンドラの株も上がって機嫌を直してくれるだろう。

 迷宮は街の冒険者達に空気の出る魔道具を背負わせて探索をさせていたが、海中での魔物との戦いが困難であまり進んでいないとのこと。


 過去に水を空気に変換する小型の魔道具は作ったことがあるので、今回はもう一つ作ってジュリアと潜ろうと思っていた。


 中には獰猛な牙を持つ魔物も多く、危険ではあるが調査をせずに王国に報告もできないということで、可能な限り協力すると約束した。


 ギルドマスター特権でこの街の一番良い宿を調査中は使って良いとの手紙を書てもらい、まずはその宿を確保した。

 時間も遅いのでその日はその宿の食堂でお腹を満たし、明日に備えて早めに寝ることになった。


 新しい街に来たという事で少し興奮して頑張ってしまった。


 翌朝、眠い目を擦りながら準備を終わらせ、ついに新たな迷宮探索を楽しむ2人だった。


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