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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第二章

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66.冒険者クロ、閉鎖坑道で私欲を満たす


 好奇心からマッドの身の上話を聞いてしまった俺。


 実はつい1年程前まではこの炭鉱で普通に働いていたマッド。

 それまで10年程、真面目にコツコツと働き続けたマッドは、その長年の功績により街の領主であるジャンニーニ男爵に、この鉱山にある炭鉱を仕切る炭鉱長という任を与えられたそうだ。


 その立場上ある程度の権力を持つことになったマッド。

 荒くれどもに担がれると、あっという間に今の様な愚連隊の頭のようなポジションになってしまった様だ。


 自慢の魔道兵器は鉱員達が勝手に上納してきたお金で、備えになればと裏ルートで入手したものだという。

 炭鉱から出てくる屑魔石をいくつか入れるだけで、一般人からしたら度肝を抜かれるような威力が出る物だった為、又も持て囃されさらに調子に乗ってしまったのだと……


「今日だって絡むつもりは無かったんですよぉ!周りから『あの男、生意気っすよね、やっちまいましょう!』なんて言われて仕方なくなんですよぉ」

 そんな感じで必死に頭を下げるマッドを見て、少し可哀想になってきた……が、結果俺に迷惑をかけたことに変わりはない。


「言い分は分かったが、俺の貴重な時間を浪費したのは事実だ。どう責任をとるのかな?」

「う、責任たって、俺には何も……金目の物なんて炭鉱から出てくる素材ぐらいで、でもよぉ最近奥の方には変な犬っぽい魔物がワラワラ湧いて出るようになって閉鎖してるし、はっきり言って採算がとれるか微妙なところで……」

 涙目で俺を見るマッドは子犬の様にプルプル震えながら祈るように両手を胸の前で合わせている。


 可愛くもなんともないと微妙な雰囲気にはなっている俺だが、しっかりと大事なワードが出ていることには気が付いた。


「なあ、その犬っぽい魔物って、コボルトじゃねーか?」

 俺の問いかけに首を捻るマッドだが、暫く唸った後、何かを思い出したようだ。


「冒険者経験のある炭鉱員が、コボルトっぽいけど強すぎで無理って言ってました!」

 嬉しそうにそう答えるマッドを見て、一度確認しておきたいなと思った。


「お前は炭鉱の責任者なんだろ?」

「あ、はい一応……でも俺今回のことで自分の器じゃないって実感して……辞めようかなって思ってます!」

「いや辞めんなよ。いったん俺をその魔物といる場所に連れてってくれ」

「えっ?まあ、それは良いですけど……」

 俺は小さくガッツポーズする。


「クロ、コボルトってあれだろ?精霊石?」

「ああ。もしコボルトでさらに上位種だったら良い精霊石が落ちるかもしれない。行ってみる価値はあるな」

「やった!じゃあ行こうぜ!」

「ああ」

 喜ぶジュリアを微笑ましく眺めた後、俺はマッドに丁寧にお願いした。


「おいお前!俺が何とかしてやれるかもしれない!その犬っころの出る場所に案内してくれ!」

「は、はい!」

 快く引き受けてくれたマッドは、やっと落ち着いてきた黒光鎧男の冷たい視線を受けつつも炭鉱の中へと俺を案内してくれた。




 マッドの案内により炭鉱の中を歩く。

 あの黒光鎧男、デラウスとさらにアジトに戻ってきた男達の中で3人ほどが付いてきている。


 10分程でその現場と思われる突き当りまで到着した。


「クロさんこちらです!」

 すっかりと打ち解けわだかまりも無くなったマッドが、頭をペコペコ下げながら指差した先を確認する。


 鉄くずで作成したであろう粗悪な鉄骨の様な物が幾重にも並べられている。

 マッドの声に反応したのかその鉄骨越しにグルルと何かの鳴き声も聞こえる。


「じゃああれ、撤去するから。ジュリアが結界で守ってるからそれより後ろに下がってろよ……分かってると思うが背後は3メートル以上は開けろよ?そしてジュリアを見るな。視界に入れるな!ったく、なんで付いてきたんだか……」

 ジュリアのすぐ後ろに下がった男達を見て、シッシと追い払うように手をヒラヒラさせた俺。


 マッドを先頭に良い返事をしながらさらに後ろまで移動した男達を見て、ちゃっちゃと終わらせてしまおうと視線を戻す。


「よし!行くぞ?<無限収納(インベントリ)>」

 鉄の棒に手をかざし一気に収納する。


 急に明かりを感じたからか一斉に鳴き出したのは、やはりコボルト種の魔物達であった。

 こちらを睨みつけながら黒光する犬歯をむき出しにするコボルト。

 全体的に黒毛で通常のコボルトよりかなり大きく、ムキムキな筋肉ボディを晒すそのコボルトを分析(アナライズ)すると、黒曜の狂犬コボルトオブシディアンと出ている。


「殲滅せよ、<断罪の棘(ジャッジメントローズ)>」

 見たことのない魔物に興奮する俺は、こちらに飛び掛かってくるそれらを、下から突き出る巨大な棘により纏めて串刺しにしてゆく。


 奥まで伸びてゆく棘の道が消え、その後にはドロップ品である魔石と黒曜石の犬歯と爪、そして中サイズまではいかないが精霊石もいくつか落ちていた。


「おい!これで終わりじゃないよな!行くぞ!もっと奥まで続いてるんだろう?」

 ちょろちょろと奥から近づいてくる黒曜の狂犬コボルトオブシディアン断裂(リッパー)で屠りながらマッドに確認する。


「いやー、それがよく分からないんです。ドカンと破裂したように岩が弾けたと思ったら中からそれが出てきて、居合わせた面子で必死に採掘済みだった鉄鋼石なんかを投げつけて、ツルハシを振り回しなんとか撃退したんですが……

 それから応援を呼んで資材置き場から使ってない鉄骨なんかを持って来て、炭鉱員総出で塞いだってことで、こっから先には一歩たりとも入ってないんですよ」

 汗を掻きながら説明するマッド。


「じゃあ後は俺達でやるから、お前達は帰っていいぞ。アジトにいるんだろ?何かあったら行くから」

「はい!何かあればなんなりと!」

 マッドが今日一番の笑顔を見せ、他の者達を引き連れ逃げるようにこの場を去っていった。


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