62.冒険者クロ、村人を迷宮へとご招待
「村長ー!騙されちゃなんねーぞ!」
こちらにスタスタと歩いてくる年配の男性。
「ウロゾ、何を騙されると言うんだ、実際にこうやって魔石が採れると言って差し出して下さっておるじゃろう?」
「それだって、予め用意してたかもしれねーじゃないか?」
「そんな馬鹿な。クロさんがそれをやって、一体なんの得があるというのじゃ!」
「それは……他の村からの嫌がらせで御神木を枯らしに……」
言い淀むウロゾと呼ばれた年配の男性。
なんだその嫌がらせって、田舎ではあるあるなのか?
俺はこのまま放置しても良いのだが、いや、やっぱりそれが元で何かあれば後悔しちゃうんだよな……
仕方なしに村人達に向かって声をかける。
「なんなら、誰か中に入って確認してみますか?俺達が一緒なら魔物からは絶対に守りますので」
「クロさん……よろしいのですか?」
「ええ。実際見てもらった方が早いでしょ?」
「感謝いたします」
俺に深く頭を下げたガドは村人達の方を向く。
「お主達の中で疑わしいと思っている者もおるかもしれん!中に入って確かめようと思うとる者がおれば名乗り出ろ。今ならクロさんが守ってくださるようじゃ!」
ガドの言葉に周りと相談しだす村人達。
文句を言っていた3人も相談を始めた。
「おい!お前行けよ!」
「え、やだよ!魔物がいるんだろ?」
「いるわきゃないだろ!嘘ついてるんだよ!」
「じゃあウロゾさんが行けばいいだろ!」
さっき文句を言っていた年配の男性の1人が、近くにいた青年に絡んでいる。
残りの2人も他の者にも声をかけたそうにしているが、村人達はそれを避けるようにして一歩後ろへ下がったりして目をそらしている。
「あの……本当に安全なんですよね?」
輪の中からチョコンと小さく手を挙げ出てきたのは、恰幅の良い壮年の男性だった。
「ええ。それは保証しますよ?俺にとってあんなの魔物のうちに入りませんから」
「だば、俺が代表して中に入ります!連れてってもらえますか!」
男はデロッスと言うらしい。
狩人をしているらしく多少の荒事は経験してるので、と自己紹介してくれた。
近くの森の小動物を狩って村人に分け与えているらしい。
弓と罠を使って狩猟するようで、そっちの経験はない俺はちょっと興味が沸いたので、機会があれば教えてほしいとお願いしておいた、
デロッスは、俺が先に入った洞から身を小さく屈めて入ってきた。
「入口が狭いから体格の良い冒険者はキツイな。中に入ってから装備を着こまないと無理だぞ」
目の前で"はあはあ"と息を荒くする男を見てそう思った。
「じゃあ、少し歩きますので付いてきてくださいね。後ろにはジュリアも居ますので安心して下さい」
「は、はい。よろしくお願いします。クロさん、ジュリアさん」
デロッスは中々礼儀正しいようだ。
ついさっき殲滅した為、暫くはほとんど魔物が見られない通路を歩く。
デロッスは腰が引いた体制で、キョロキョロと周りを見渡しながら歩いている。
「そこ、きてますね。もう少ししたらそれなりに来ますから、一応心の準備をしておいて下さいね」
「はい!ひぃ!」
チロチロと舌を出す2メートルくらいの蛇に、拳大の蜂が数匹すでに飛んできている。
それらは俺が断裂、でジュリアが冷静に水の刃で冷静に狩ってゆく。
さっきは取り乱したジュリアも数が減り冷静になれたようだ。
そして十字路になった道まであと一歩のところで足を止め、それに従うようにデロッスも背後で身を固くする。
「うぎゃぉ!」
目の前にわらわらと集まってきた魔物達にデロッスが悲鳴を上げ俺にしがみつく。
「あ、ちょっと!」
とっさのことに戸惑うが、デロッスの声につられてヒーと叫んだジュリアが、オーバーキルな氷針乱武を乱射していた。
「うーん。一回この階層全部を廻って殲滅してしまわないと、大量沸きは精神的にきついな……」
「あ、あんなんがうじゃうじゃどぉ……」
「ああ、そうなんだよね。最初入った時には入り口からすぐあんな感じで。さすがに俺も声出たよ」
「うう」
俺の裾を掴んで腰を低くしているデロッスは、もう無理だと震えていた。
「一旦帰りましょう」
俺の言葉に何度も頷くデロッスをなんとか歩かせ、洞から外へと出ていった。
途端に地面に手をつき肩で息をするデロッスに、村人達は群がっていた。
「どうだったんだよ!」
そう聞かれても首をフルフルと横に振るだけだった。
デロッスが落ち着いて中の様子を話せる様になったのは、村長宅に招かれて夕食を食べ終わった後であった。
やっと落ち着き奥さんの用意した晩飯をちょっとだけつまんだと言うデロッスが、村長宅へと説明に来てくれたのだ。
「中はもうすげーありさまで。あれはやばい!森なんかの比じゃねーど?村長、早く何とかしないと……俺は、嫁と一緒にこの村を出るど!」
「デロッス……」
村長も真剣なデロッスの言葉に落ち込んだ様子を見せていた。
「村長、王国に報告しても良いですよね?少なくとも数日あれば国から何らかの対処をしてくれるでしょう。当然俺らもしばらく潜りますし……」
「だがクロさん、王国に報告ってどうやって……」
村長が不安そうにこちらを見るので、俺は懐のカードを取り出した。
「あー今大丈夫ですか?」
『はい、喜んで!』
こうして、さらに頭を抱えて戸惑うガドを他所に、陛下に新たな迷宮の誕生を報告する俺だった。
ひとしきり驚いたガドは、俺達が暫く滞在する為の宿として、空いた民家を借してくれた。
心なしが俺へ頭を下げまくるガドに、俺は貴族でもなんでもないからと普通にしてもらうように伝えるが、どうやら元の対応は難しいようだ。
用意してくれた民家は、旅人の為にと普段から準備はしてある家なので、掃除は行き届いており俺達2人なら問題なく利用可能だった。
こうして、新たな迷宮の感動と、大量沸きした虫に恐怖した一日が終わった。
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