57.冒険者クロ、領主の館にカチコミを
俺とジュリアは街の現状を詳しく聞いた。
「クロ、その領主ボコるのか?俺も一緒に行って良いんだろ?」
「ジュリア、アホなことを言ってるなー。そんなこと、するわけないだろー?」
「そっかーそうだよなー」
カタコトの様になっている俺とジュリアにギルドの2人が苦笑いしている。
「まあ、俺は何も聞かなかったことにしてくれ」
「ミャーは耳が悪くて、最近は物忘れも激しくて困ったにゃにゃ」
この2人とは仲良くやれそうな気がする。
そう思いながらギルド長の部屋を後にした。
後ろには「にゃっにゃっにゃ!」と何故かご機嫌のミャーデリカがスキップしながら付いてきた。
カウンター横を通過すると、さっき投げ飛ばされた男と共に高そうな服に身を包んだ男が俺を睨んでいる。
「おーい、お前が新入りか?」
俺は早くも楽しいイベントが発生したことに嬉しくなってしまう。
俺は基本目立ちたくはない。
目立ちたくはないが、こう言った輩が起こすトラブルは大歓迎だ。
取りあえず俺はそのまま気にせず男の横を通り過ぎる。
「無視すんなや!」
俺の肩をガシっと掴む男。
だが俺は気にしない。
「ちょ、おまっ!待てって、待て待て、うぉっ!とっとっと……うぉーい!いい加減にしろよ!」
俺に引っ張られるようにギルドの外まで同行した男は、やっと手を離した後で大声を張り上げた。
「なんだようるせーな。お前は耳が遠くなった老人か?」
俺の返しに呆気に取られたのか口を開け動きを止める目の前の男。
「ホントに耳が遠くて聞こえてなかったか?そりゃすまんな。御老体はもう家帰って寝た方が良いぞ?な?そうしろって」
「きょえぃー!何だお前は!俺様を誰だと思ってるんだ!」
「いや、さっき自分で俺のことを新入りって言ってただろ?自分でついさっき言った事、もう忘れてんのか?大丈夫か?一応言っとくが俺はお前なんか知らねーよ?だから家まで案内してやることもできないからな?
帰りは誰か知り合いに連れてってもらえよ?迷子になったら困るからな。知り合いを忘れたっていうなら……どうしたら良いかな?俺はそこまで面倒見切れないぞ?可愛そうだが現実は厳しいんだ」
俺の言葉に顔を真っ赤にして地団駄を踏む男。
ジュリアはすでに腹を抱え笑っている。
「俺様は!この街の領主、ダンゴ家を継ぐ男だぞ!」
「ふーん、そうなんだ。継げるといいな。そのダンゴケ?って奴」
「お前はさっきから何なんだ!俺をバカにしてるのか!」
男は怒りをあらわにして叫ぶ。
「なあ、相手の力量も分からんバカなお前は、このまま俺に殺されでもしたらどうするつもりだ?」
「ころ……バカはお前だ!そんなことしてみろ!すぐに掴まるぞ!」
「掴まってもいいかーって思ってたらどうする?」
「ひっ!何を言ってるんだ!掴まって、領主家に逆らった罪で死刑だ!死ぬんだぞ?」
「だから?」
「だからって……」
勢いが無くなってきた男をジッと見てみる。
それなりに鍛えてはいるようだ。
丸々と肥えているわけではないし、身なりもきちんと整えて……いたはずだ。
今はすっかり乱れてしまった無駄に高そうな衣服を見ながらそう思う。
「えーい、この嘘つき野郎が!お前が殺すというなら俺がお前を先に殺す!貴族を舐めるな!必ずお前を殺してやるからな!」
男の言葉に反応する様に俺は無言で一歩前に出る。
「ひっ!」
目の前の男は顔を引きつらせて後ずさる。
「で?お前の家ってどこにあんの?」
「お、俺の家か?聞いて驚け!あの一番目立つ丘の上の豪邸だ!ここからも良く見えるだろ!これが俺様の、ダンゴ家の力だ!どうだ恐れ入ったか!」
男は北にある丘の屋敷を指差し自慢気に語っていた。
「よしジュリア、領主邸へ行ってみよう!」
「うん!」
俺はジュリアを横抱きにすると、全力で風の壁を放ち、男達を吹き飛ばしつつ上昇していった。
「いやー、中々愉快な街だな」
「うん!面白すぎ!」
良い街に来たなと頬を緩ませながら、空を舞い領主の屋敷と思われる豪邸まであっと言う間にたどり着き、使用人たちがこちらを指差し警戒する中、その庭の真ん中に下り立った。
「な、何者です!」
箒を構えたメイドのおばちゃんがそう尋ねるが、鎧を着た兵士達は黙ってこちらを見守っている。
剣には手を添えているが、外敵と思われる俺達が来ても身構えないなんて弛んでいると思う。
「ちょっと御子息様について相談がありまして、領主様にお目通り頂きたいのですが?」
「わ、私が聞きましょう。まずは名乗って頂けますかな?」
屋敷の中から執事然とした白髪交じりの男性が近づいてきた。
「俺は冒険者のクロ。お宅の御子息がギルドで色々とやらかしてるって聞いてね。老婆心ながら苦言を呈しにきたってことで……」
「それはそれは……しかし老婆心とはまた珍妙な、クロ様はまだお若く見えますが……人族ではないと?」
少し怒気を込めた返答に、それなりに強そうな執事だと思った。
この世界の執事はある程度の戦闘訓練を受けてないと成れないらしい。
主人を守る為の力を保持しなくては役に立たないとか……物騒な世界だな。
「できれば穏便に領主様にお会いしたいんだけどね?」
「クロ様、まずはお約束を、と言うのが礼儀かと思いますが?」
執事は鋭い眼光でこちらを睨んでいるが、話が進まなそうで困っちゃうな。
「お前んとこのカギが先にチョッカイかけてきたんだが?」
少し強めに魔力を漏らし、殺気を籠めた目で睨む。
さすがにビクっとした執事だったが、すぐに表情を戻して取り繕っていた。
「なんだ騒がしい!」
その声に反応し、屋敷の中に視線を移すと太ましい男が立っていた。
その近くにさっきまで後ろにいたはずの侍女立っているので、あの侍女が連れてきたのだろう。
中々できる侍女だと思う。
少なくともまだ剣を抜かない兵士達より何倍もマシな動きだろう。
屋敷の中から俺を見ながら怒鳴りつけてきた男は、丸々と肥えている。
まるで樽?
「おい!聞いているのか!失礼な奴だ!おいお前達、さっさと説明せんか!」
そんな樽男がこちらを見て叫んでいる。
「旦那様、ここは私が何とか致します!ひとまず御隠れを!」
そう言って領主と思われる樽男を隠すような位置取りで、じりじりと近づいてくる執事。
その両手にはどこからか取り出した苦無の様なものを持っている。
庭にいる3人の兵士もやっと剣を抜いて身構えている。
「<超重力>」
右手を翳しながら纏めて上から押さえつける。
まずは牽制として軽めに圧を加えているので、皆が戸惑いを感じ身をこわばらせる程度だが、領主と思われる樽男だけは床に伏せ、「なんだ!これは!俺は死ぬのか?どういうことだ!」と喚いていた。
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