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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第二章

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56.冒険者クロ、ビジネス猫のしっぽを眺める


 鬼人族の村で酒を仕入れた翌々日。

 また旅に出る為に屋敷を出る。


 エドモンドはやはり忙しく公務に出てすでにいない。

 その他の面々が見送る中、俺はジュリアを横に抱き、風の壁(ウィンドウォール)を使って空へと飛び出した。


 目指すはここから遠く離れた東へ真っすぐの海岸沿いの街、フングラタラタへ向かった。

 フングラタラタは海岸沿いの街ではあるが、周りには森が豊かに生い茂り、果実なども豊富に育つ良い街……だった気がする。


 あまり覚えてはいないが良い街だった、気がする。


 そんなふんわりとした印象により決まった候補地だったが、3時間程飛び続け、ようやく森が見えてきた。


「凄く広いんだな」

「そうだな。上から見るとまた爽快だな。以前は確かあの森でモモとかナシを摘まみながら魔獣を狩ってた気がする」

「魔獣もいる森か……楽しみだな」

 魔獣と言うのは獣が魔物化した生き物だ。


 迷宮などの不思議空間とは違い、外の世界に出る魔物や魔獣は殺してもそっくりそのまま残ってしまう。


 特に魔獣は迷宮外にしかおらず、体中に魔石があったりなかったりする。

 魔物化する条件なんかもあまり詳しくは分かっていないようだ。


 聖域と化した山などにいる古代竜なんかも、実は魔獣化した何かなのでは?とすら言われているが、それについては違う事を俺は知っている。


 アレ等はこの世界の管理者だ。

 実際にイキっていた時の俺が、力試しにと王都の北西にある土竜聖山(つちがみがすまわすば)で古代土竜に挑み、ボロ負けした後に仲良くなってそう聞いた。


 我はこの世界を見守りし者、永遠の命を持つ者。


 そう聞いてから俺は、古代竜は倒すとか、打ち負かすとか、そう言った存在ではなく、別次元のなにかだと認識できた。


 そんな話をしながらも森の上空を抜けると、小さな街が見えてきた。

 このまま街の中心地まで飛びたいところだが、確実に目立ってしまうので街の入り口の少し手前の道の横に降りる。


 練習の成果もあり、華麗なる着地を決める俺。

 そのまま何食わぬ顔で道へと移動し、門へ向かって歩きだす。


 門に差し掛かると兵士が1人で警護しているようだが、どう見ても適当にやっているのか椅子に腰掛け欠伸をしている。


「観光か仕事か?」

「観光だよ」

 そう言ってジュリアが青く輝く冒険者カードを見せる。


 最近ランクアップしたジュリアの青いカードを見て、感心したように頷く兵士。


「いやー、青なんて久しぶりに見た。見かけによらず強えーんだなあんた。で?そっちの兄ちゃんは?」

「俺はもう付き添いみたいなもんだから」

 そう言って苦笑いして提示を拒否する。


「そうかい。じゃあ楽しんで。揉め事は面倒だから起こさないようにな」

「分かったよ」

 そう返して街の中へと入っていった。


 実際は道なりに門があるだけの粗末な仕組みだ。

 少し横に移動しただけで跨げる程度の柵しかないからな。


 一応やってます。

 魔物が来たら知らせます。


 そんなゆるい警備しかしていないのは、この世界の田舎町では良くある光景だ。

 なんなら兵士がいるだけでもまだマシであろう。


「まずはギルドかな?」

 そう言って冒険者ギルドを目指す。


 場所は全く記憶にないが、大抵は入り口の門から大きな通りを真っすぐ進めば見つかるというものだ。

 暫く街並みを眺めながら歩くと、冒険者ギルドの看板が見えてきた。


 ギルドの中に入ると、やけに体格の良い太めの男達が数人暇そうにたむろしている。

 こちらを見るや俺とジュリアを品定めしている様で、すぐに口元を緩ませていた。


 構わずカウンターまで足を進めると、前を塞ぐ男が2人。

 俺は手前の男の腕を掴んで捻るようにして床へ叩き付けた。

 ジュリアもそれを真似するように、いや、ほぼ見えない程の早業でもう一人の男を吹き飛ばしていた。


 ざわついていたギルド内が鎮まり返り、その間に俺がカードに魔力を籠めて猫獣人と思われる女性スタッフに手渡した。


「にゃにゃにゃ!」

 驚きながら俺とカードを見ている女性スタッフが、深呼吸をした後で俺にカードを戻す。


「こ、こちらへどうぞ、にゃ」

 緊張している様子の女性の後に付いて裏へと進む。


 制服のパンツから出しているふわふわしている尻尾はダランと下に垂れていた。


「ギルドチョー!お客様です、にゃ!」

 そう言ってドアを開ける女性スタッフ。


「なんじゃ!というか語尾どうした?」

「だってー、びっくりしすぎてそんな余裕はないんですよー、にゃ」

 ギルド長と思われるゴツイおっさんに縋り付く女性スタッフの様子を見るに、語尾は客受けを狙ったサービスだったのだろう。


「どもー。クロと言います」

 爽やかに挨拶をするが、ギルド長の顔を冷たかった。


「何だお前は、カチコミか?」

「ギルドチョー、違うっすよー、クロさんですー、伝説のクロギリさんですー!」

 もはやニャが取れた女性スタッフを生暖かい目で眺めた後、口を開けて固まってしまったギルド長には絶対に目線を向けない様にして、下を向きぷるぷると震えるしっぽを凝視していた。


「失礼しました、黒霧様ですね。本日はどのようなご用件でしたでござんしょうか?」

「ギルドチョー、ミャーは敬語ができないからどうしたら良いでござんしょぅ?」

 いやギルドチョーもできてないし。


「気遣いは無用ですよ?俺も平民っすから」

「そう言ってくれると助かる。敬語はできないことはないが、苦手なんでな」

「そう言う事なら助かるにゃ。ミャーはミャーデリカにゃ。ミャーデリカ・エルミーニャと言う猫族界のプリンセスにゃ!」

 ビジネス猫語を操る女性スタッフはミャーデリカと言うらしい。


「俺はフングラタラタのギルドマスターをしている、セヴェリーノ・スキャパレッリと言う。セバノと呼んでくれて構わない」

「よろしくセバノ。今日は挨拶に来ただけだが、暫く滞在する予定でいる。何か問題事は起きてないか?それとなくなら気に掛けるぞ?」

「そうか。それなら、最近魔獣が増えてきているんだが、そんなこと頼んでいいのか?いや、気に掛けると言っただけだったな。忘れてくれ」

「はは。気に掛けとくよ。だが森の魔獣程度なら、そこまで強くはないだろ?血気盛んな冒険者がいたっぽいが?」

 俺の返事を聞いて頬を掻くセバノ。


「そうにゃ!あいつ等、黒霧様とそちらの女性を襲って返り討ちにあってたにゃ……ってそういえばそちらのあなたは?」

「俺はジュリア、クロの彼女。なのでそこの猫ちゃんはクロにその悩ましい尻尾で誘惑しないように。ね?」

「分かったにゃ……圧が強いなにゃ……」

 ミャーデリカはセバノの後ろに隠れてしまった。


「ジュリアさん、ミャーをそんな虐めないでやってくれ。しかし、早速やらかした奴等がいるのかまったく……あいつらは簡単な依頼しかこなさない極潰しどもだ。あいつらが徒党を組んで嫌がらせをするから、冒険者が育たねーんだよ」

「いっそ全員叩き出してやったらどうだ?」

「そうしてーんだが、あいつ等を纏めてるリーダーが、この街の領主のバカ息子でな、対応に苦慮してるんだ」

「へー」

 俺は面白い話を来たと思ってしまった。


 気付けば俺は、「その話を詳しく」とお願いしていた。


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