55.その者、勇者としての覚醒と道しるべを見つける
勇者としてこの世に生を受けたと理解した俺。
独りテントの中で3つある称号を確認する。
――― 無限の魔力
尽きることのない無限の魔力
――― 魔道の理
無詠唱で十全に魔法を操る力
――― 女神の祝福
女神に愛された者、その成長を加速させる
「使用できる魔法を無限に、そして無詠唱で扱える。そしてより早くレベルアップということかな?」
全ての魔法を操るということではないとなんとなく理解できた。
だが、同時に異世界あるあるな魔法が程よく使えることも理解できた。
鑑定、転移、無限収納、肉体強化に超回復、そして攻撃魔法は四大属性に光と闇魔法。
これだけ使えれば魔王だって倒せるだろう。
「<転移>」
無詠唱で良いのだが、思わず口に出してしまった。
そして気付けば自宅だった。
思わず頬が緩む。
この力で、人に害をなす者を蹂躙し、この世界を手に入れる。
そう考え、元の場所を思い浮かべもう一度転移を使った。
そしてテントの中で胡坐をかき考える。
さっきの惨劇を作ったのは俺だろう。
朧気ながら記憶がある。
盗賊共を纏めて真空の刃で切り刻んだ光景を。
「よし。まずはこれで金を稼ぐしかないな」
一人呟きテントを出た。
傍には親父がいるであろう大きなテントがあった。
中に入ると親父や他の重役連中が何人かいた。
「リ、リッカルド、大丈夫、なのか?」
「親父、俺は大丈夫だ。それより、びっくりしただろ?」
「あ、ああ。何が何だか分からないが、お前があんな力を隠し持っていたなんてな」
震え声でそう返す親父を見て笑いそうになる。
俺は、周りの者達を見てから親父に小声で話しかける。
「2人だけで話がしたい。隣のテントに来てくれるか?」
「わ、わかった」
俺は親父と共に元のテントに戻ると、胡坐をかいて端に座った。
「隠していたわけじゃないんだよ。あの時、親父が殺されるかもと思ったら怒りが込み上げ、そして思い出したんだ。俺が勇者だってことをさ」
「勇者、だと?」
「ああ。この通り」
俺は次元収納に近くにあったランプを入れ、そして出して見せた。
「収納術!」
「親父、声が大きすぎ。だが凄いよな。商人としてこれだけで大成功間違い無し、だろ?」
「でかした!流石は俺の子だ!」
親父は器用に小声で叫び、俺に抱きつこうとして、それを躱すように転移する。
「はっ!」
「こっちだよ」
親父は無言で振り向き口を開けて驚いている。
狭いテント内ではあるが、親父のすぐ背後に転移して見せた。
「転移魔法。もちろん行ったことのある場所にも一瞬で行ける。さっき自宅に行ってみたが本当に一瞬だった」
「お前は!お前は本当にっ、良くやった!良くやった!」
もはや叫んでいた親父は、その場で膝をつき顔を両手で覆う。
「親父には苦労させないから。俺は、親父をこの世界一の大商人にしてやるよ!」
「ああ、神様は何と素敵な息子を俺に授けてくれたのだ!」
両手を胸の前に合わせ祈るようにして目を瞑る親父の目からは、涙が流れ落ちていた。
悪いな。
俺はお前なんかに搾取される気はねーよ。
喜ぶ親父を見ながら、俺はいつ親父を切り捨てるかを考えていた。
それから数週間、親父は最低限の商隊を残し、親父も俺も帯同せずにそれらを適当に行き来をさせていた。
それらで利益を得る気は無く、偽装の意味もあった。
実際は俺の転移で今まで行ったことのある街を回っては、無限収納に大量の品を収めて他の場所へ売ることに全力を注いだ。
重要な品を運搬する仕事も始めた。
盗賊などに会う事のなく迅速に、確実に、絶大な信頼を得ることに成功し、その度に親父から俺が紹介され顔を売った。
ある程度知名度も上がった俺は、親父に許可を取りさらに遠くへ馬を走らせ転移先を増やした。
正教国の聖都アアル、さらにはビフレスト王国の王都テミスにまで足を運んだ。
都会と言うだけあって辺境の素材は高額で売れそうだ。
だが、その地では親父であってもまだ馴染みがなく手が出せなかった。
都会ではまだ駆け出しともいえる俺達だと足元を見られ、値切られるのが落ちだろうと親父が教えてくれた。
それならと俺は聖都アアルの迷宮で着実にレベルを上げていった。
迷宮探索でレベル上げ……俺のテンションはマックスになっていた。
そして、一ヵ月を過ぎれば、すでに冒険者ギルドでは俺の顔を知らぬむのは居ないほどの成果を上げた。
全人未踏の50階層を超え、竜の素材を納品したのが決めてだったのだろう。
ガキがと舐めて手を出してきた輩は手足を折って再起不能にしてやった。
女冒険者も俺に色目を使い、手当たり次第に手を出した。
まさに最高潮で、もはや金を稼ぐことなどどうでも良くなってきた。
俺がこの世界の王様だ!そう感じていた時、教王陛下の使いだという者からお呼びがかかった。
「王との謁見か。仕方ないから行ってやる」
そう答えた時の聖騎士隊という偉そうなやつらの歯噛みした顔は心地よかった。
そして俺は、教王、ティフォン・エヴァンジェリスタ・ヴァナヘイムと出会い、永遠の忠誠を誓ったのだ。
圧倒的な力、いや、圧倒的な存在感と言った方が良いだろう。
何せ相手は魔王だった。
聖なる国の王は魔王だった。
それだけでも人々は泡を吹いて死んでしまうかもしれない。
ヴァナヘイム教王と言う名の魔王は俺にこう言った。
「今代の勇者は弱いのう。どれだけ経験を積んでも、俺の側近にすら勝てそうにないのではないか?」
俺は腹の底から怒りを膨らませながら左右に控える美しい女達を鑑定した。
そして絶望するのだ。
俺の能力値の中で一番高いのが素早さで、成長中とは言え800を超えた程度。
対して側近の女達は2人とも5000を超える。
俺だって初めは凄い速度で能力が伸びていたが、最近はやや緩やかになっている。
5000なんていつ届くのか分からない。
それに魔の王である男は鑑定が効かなかった。
少なくともこの女2人が仕えているというのなら、圧倒的な強者となるのだろう。
俺はまた搾取されるのか……そう思って絶望した。
どの世界にも強者はいて、俺はまた搾取される続けるのだ。
そんな中……
「お前に世界の全てをくれてやろう」
俺は魔王が何を言っているか理解できなかった。
「予は、この世界の混沌が欲しいだけなのだ。まずは目障りな王国を壊し、次は帝国、そして公国、この大陸が終われば他の大陸へ……ゆっくりと侵攻しそれを眺めるのが予の楽しみ。
その後の国がどうなろうと知ったことではないのだ。崩壊した世界を勇者であるお前が導き、立て直し、そして人々の希望になってまた平和な日々を作れば良い。その為に壊すのだ」
楽しそうな笑みを浮かべて話す魔王に共感した。
「で、俺が死んだぐらいにまたその豊かな国を破壊し始めるのですね?」
俺の返答に少し驚いた顔をして、くくくと笑う魔王。
「喜んでお手伝いをさせて頂きます」
「うむ。まずはそうだな、この国の英雄になるべく、今まで通り魔物達を蹂躙するが良いだろう」
「仰せのままに」
俺は頭を下げ、そのタイミングで動き出した側近の1人が、俺を城の一室へと誘った。
その夜、俺は無限のはずの魔力が枯渇するのでは?と不安に思うぐらい体を蹂躙された。
一晩中繋がり、そして搾り取られ、この世の出来事とは思えない程の快楽と身を任せると共に、魔王様に心の底からの忠誠を誓うのだった。
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