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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第二章

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54.その者、転生者としての記憶を思い出す


 俺の名はリッカルド・コッポラ。

 俺は転生したのだと気づいたのは15の頃だった。


 ヴァナヘイム聖教国のドゥアトと言う港町。

 それなりに活気に満ちた街で、生活に困ることは無い程度の商人の長男として育った俺は、跡取りとして商隊の一員として親父と一緒に各地を巡り、良い商品を仕入れそれを別の街で売ったりという日々を過ごしていた。


 ドゥアトには街の北側の外れに炭鉱があり、良質の鉱石が採れる。

 それらを安く買い付けては帝国のアナタラッタやムスペルヘイムへ卸し、アナタラッタでは豊富な海産物を、ムスペルヘイムでは砂漠地帯特有の魔物の素材などを中心に買い付けてはドゥアトやその周辺の街に卸している。


 そんなある日、15になった俺を含めた商隊は、アナタラッタへ向かって砂漠地帯を横断中、盗賊団の略奪に巻き込まれた。

 当然今までもそんなこともあったが、冒険者の護衛も雇っているので事なきを得ていた。


 仮に冒険者が負けたとしても殺されることは無く、物資を提供することで見逃してもらっていた。

 盗賊側もその方がまた略奪できる。

 親父からは「決死の抵抗をしなければ殺されはしないのだ」と教えてもらっていた。


 だが、その日は護衛にしていた冒険者があっさりと倒され拘束されると、親父達も縛り上げられ、荷を全て奪われそうになっていた。


 荷馬車を全て持っていくようなことは今まで経験したこともなく、親父も縛られた体で必死に頭を砂に擦りつけ、帰りの馬車と食料だけはどうかと懇願していた。


「うるせーよ!おい、お前達」

 頭と思われる髭もじゃの男が部下たちにそう言うと、何人かが冒険者の元へ向かう。


 冒険者達が殺されるのでは、と思ったがそれは逆の驚きに代わる。


「ふう。縛り方が雑すぎだ。ちょっと跡残っちまったじゃねーか」

 冒険者のリーダーの男はそう言いながら手首を摩り、首をゴキゴキと鳴らし、ため息をついていた。


「お、お前達まさか……」

 親父の叫び声に俺も察してしまう。


 こいつらは、グルなのだろうと。

 道理であっさりと拘束されたはずだ。


 最初からそうやって略奪をさせるつもりだったのだろう。


 盗賊の1人が剣を抜き、親父に向かって歩きだした。

 俺は、このまま全員殺されるのかと恐怖を感じたが、同時に驚くほどの怒りも感じ頭の中がぐちゃぐちゃと黒い何かが這いずり回る感覚を覚えた。


「弱い者は蹂躙され、死ぬんだな……」

 口が勝手にそう言った。


 自分の声ではないと思ったぐらいの低い声がでた。


「あ?お前から死ぬか?」

 親父の方を歩いて行った男がこちらを睨み、その足をこちらに向けた。


 そして俺は、頭が沸騰するような感覚と同時に意識が途切れた ―――




「あ、ああ……」

 喉の渇きと体中に何かが纏わりつく不快感に開きずらい口を開く。


「何か、飲み物を……」

 砂漠の暑さに渇きを覚えたのだろうと目元を袖で拭うと、少しだけ視界が開けた。


「なんだ、これは……」

 目の前には赤く汚れた砂漠の砂。


 そして、目を恐怖に染めた親父と商隊の仲間達。

 さらには血塗れになった盗賊だった者達と思われる体があちこちに散乱していた。


「親父、これはどう言う事だ?」

 俺の問いに返事は無かった。


 途端に吐き気が込み上げ、膝をつき胃の中の物を全て出す。

 吐くものが無くなっても吐き気は止まらず、俺は再び意識を失った。




「ここは?」

 朧気ながら意識が戻り目を開ける。


 どうやらテントの中の様で、ガンガンと痛む頭を我慢しながら体を起こす。

 野営用の狭いテントだと分かり少しだけホッとする。


 俺は……

 夢を見ていた。


 前世のものと思われる忌まわしい記憶。


 俺は前世では日本という場所で高校生をしていた。


 名を白川聖人(しらかわせいと)

 勉強も運動も苦手な俺は、半分は不登校だったが両親の激しい叱咤により嫌々学校に通っていた。


 クラスのカーストトップの男からの執拗な虐めを受け、何度も自殺を考えた。

 それは偶々居合わせた隣のクラスの男の「やめろ、くだらない」という一言により、一旦は大人しくなっていた。

 だが、それは単に水面下に潜っただけであった。


 毎日放課後に引きずり回され、暴力を振るわれ続ける日々。

 親に訴えるとお前が弱いからだと言われ、街の道場に通わせようとしてきたが、そもそもそこの道場の息子が虐めの加害者だと訴える。


 じゃあ自主的に鍛えてみろと言われて放置された。

 そのまま放置して不登校を認めてくれれば良かったのに……


 世間体を気にした両親はそれを良しとしなかった。

 ご丁寧に親父が毎日学校まで送り、校内に入るのを見届けてさえいた。


 それから何度か、誰か彼かに虐めの現場を見られ止められることもあったが、卒業まで虐めは治まることはなかった。

 そして、卒業と同時に俺は電車に身を投げ死を選んだ。


 あのカーストトップの男が道場を継ぎ、俺はその小間使いとして住み込みで働くことを強要されたからだ。

 そんな地獄みたいな人生はまっぴら御免だ。


 そして俺は死に、神に出会ってこの世界に転生した。


 そんな夢を見ていたが、それは夢ではなく紛れもなく現実だと理解した。


「<鑑定>」

 自身のステータスを開くと、名前の後にはっきりと勇者という文字が浮かんでいた。


 さらに称号には[無限の魔力][魔道の理][女神の祝福]という三つが表示されていた。


 俺は、勇者としてこの世に生を受けたのだ。


挿絵(By みてみん)


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