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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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53.冒険者クロ、新たな旅路に


 子爵家の食堂で俺に抱き着く鬼人族の少女オオタ。


 その背後には顔の青いジュリア。

 ふらりと揺れる様に動いたジュリアの右手がオオタの首をガシリと掴む。


「ぐえっ」

「クロ、また浮気ぃ?」

 オオタはポイ捨てされ、俺は顎クイされて至近距離でジッと睨まれる。


「いや待て。俺は今回被害者だぞ?アレが突然抱き付いただな、子供だから殴り飛ばすわけにもいかないだろ?それに、浮気と言うがそう言うのはお前と付き合うと決めてから一度たりとも無いからな?ほんとだぞ?」

「ふーん……」

 俺の言葉に唸ったジュリアは、そのまま俺に膝にしがみつく様にして目を瞑った。


「おーい、ジュリア?」

 返事が無い……こりゃダメそうだ。


 顔色が悪いジュリアを横に抱く。


「そう言う事だからオオタちゃん、気遣いは一切不要だ……寧ろこれ以上関わるって言うなら契約は破棄だ。今日は泊って行けば良いが、明日はすぐに帰ってくれ」

「そ、そんなぁ」

 オオタはしょぼんと落ち込んでいるが、俺は構わず近くの侍女に部屋を用意してもらうようにお願いした。


「じゃあチェチーリアさん、オルランド、俺達は御先に失礼させて頂きます」

 まだ辛うじて意識を保っているであろう2人に挨拶し、そのまま寝室へと向かった。


 大丈夫だろう。

 そうは思ったがどうしても不安は取れず、結界のベールを室内に展開してやっと心が落ち着いた。

 ジュリアの嫉妬心に愛が痛いなと呟きながら頬を緩む。


 装備の作成(クリエイト)のついでに広めに改良した結界のベールは、一部を任意で出入り自由に設定できる仕様にしたため、シャワー室のドアを設置させておけばそこだけは出入りできるようになっている。

 これでトイレなどで開けっぱなしにしてその間に入り込まれる心配もない。


 準備が整えは後は寝るだけだ。

 本当はシャワーを浴びたいが仕方ない。

 俺はジュリアの装備を脱がすと若干の心のざわつきを抑えながらも、優しく紳士的に布団をかぶせ眠りについた。




 翌朝、早めに起きた俺は昨夜のことを覚えていないジュリアと一戦交え、昼過ぎにリビングに顔を出すと、既にオオタは帰っていたとの報告を聞きホッとする。

 そして案の定、エドモンドを含め皆がまだ起きてはいない。


「あの酒は危険だな」

「俺も途中から記憶が無いからな……あれ、本当はヤバイ薬でも入っているんじゃないか?」

「違う、とも言い切れないからな。そう思うならジュリアはあまり飲まない方が良いんじゃないか?」

 俺が揶揄う様に言った言葉にジュリアの冷たい視線が突き刺さる。


「クロから愛情が感じない気がする」

「向かい酒するか?」

「……やめとく」

 ご機嫌取に頭を撫でるとそのままソファに座りイチャイチャしてみる。


 侍女が紅茶とホットケーキの様な軽食を運んできたのでありがたく頂いた。

 甘いものも頂きながら今後の予定を考える。


 元々この街に来る前はあのまま海岸沿いを北上するつもりだったが、折角飛べる様になったことだし……いや、もう少し練習するか。

 毎回泥だらけになっては困るしな。

 そう思って庭に出る。


 風の壁(ウィンドウォール)を軽めに使い低い位置で浮かぶ練習を繰り返す。

 ジュリアも真似してやっている様だが、二つの妖精の加護により増えた程度の魔力であっても、あまり長時間は使えないようだ。


 風の壁(ウィンドウォール)を持続するだけで魔力がそれなりに消費し続けるよう。

 魔力の消費に対し感覚の鈍い俺には実感できないが。


 結局、夕食時まで練習し、高い位置から一気に落ちて地面の手前で再上昇することも難なくできるようになった。

 やはり初めての魔法や初めての使い方をするならこれぐらいの修練が必要だ。

 だがこれで比較的自由に旅をすることができるようになった。


 今まではのんびり野宿をしながらというのが楽しかったが、今はジュリアもいるし、ここに戻ることも多くなるだろう。

 高速な移動手段は必要だ。


 ……転移覚えたいな。


 俺が使う転移(テレポート)は目に見える範囲でしかできない。

 ナディア達が使うエルフの転移(テレポート)は発動する際に転移先の情景が脳裏に映るらしい。


 俺もしっかりイメージが出来ている場所に壁越しなどで何度も転移しようとしたが、結局その壁の手前への転移となってしまう。

 やはりエルフの言葉をマスターしなくてはならないのか、それともエルフにしか使う事ができない魔法なのか。


 また今度、ナディアを呼んで練習してみよう。

 諦めきれない俺は、そんな事を考えながら夕食を頂いた。


 夕食時にはエドモンドから「昨夜はすまない」と謝られ、チェチーリアが「あの酒は私が管理しますね」と言われた。

 エドモンドに任せれば多分在庫全てを呑まれてしまうかもしれないと……


 オルランドも「母様、たまに羽目を外すのは良いのではないですか?」と狼狽えながら言っていたが、「私でさえあのような醜態をさらしたのですよ?」と冷たい笑顔で言われると黙ってしまった。


 やはりあの酒は危険なのだろう。

 だが酔いつぶれて醜態を晒しても、死にかけてのたうち回っても良いから、俺も泥酔してみたい……そんな思いを感じていた。


「リズ、俺も酔いたいのだが……」

『アルコールは敵』

『あれは不浄な水ですよぉ』

 俺のお願いにリズはキッパリと言い放ち、スイまで出て苦言を言ってきた。


 精霊と酒にどのような敵対意識があるのかは知らないが、俺は一生酔いとは無縁の様だ。

 分かってたけどね。


 その後、少し不貞腐れ気味の俺はジュリアに癒されるつつ、エドモンド達に明日からまた少し度に出るので、何かあれば連絡して欲しい事を伝えた。


 その日の夜は、チェチーリアにジュリアを取られ1人寂しく眠る俺。

 広いベッドがやけに寒く感じた。


 だが暫く2人旅だ。

 徐々に湧き上がるワクワクした気持ちに、中々寝付けない夜だった。


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