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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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51.冒険者クロ、酒造地を目指す


 久しぶりの外である。

 太陽がいつもより眩しく感じる。


 ジュリアと2人、酒場に移動、エドモンドからは新たに支配人になった男に言えば良いと言われている。


「いらっしゃーい!2名っすかーって、お兄さーん!また来てくれて、もしかして私に会いに来たっすか?」

 相変わらずのチャラい女店員が出迎えてきた。


 丁度空いていた両手を広げて俺を招き入れようとしている。

 ジュリアは臨戦態勢で俺の前に出る。


「え、ちょっとマジ?彼女さん目がマジだって。お兄さん愛されてるぅ!」

「チャラ女、あまり揶揄うなよ。ジュリアも、大丈夫だから。な?」

 冷たい目でチャラ店員を見るジュリアの頭をポンポンすると、支配人を呼んでくれと伝える。


「あ、ってことはお兄さんが領主様のお嬢様の彼氏さんで……えっ?じゃあお姉さんがお嬢様?……大変失礼いたしました殺さないで打ち首怖い」

「大丈夫だって。なあジュリア」

「クロに手を出したら、明日は来ないからな!」

「ひー、って言う感じですか?」

 たいした恐怖は感じていない様子のチャラ店員だが、まあそう言う気軽なのな人気の店なのだから良いのだろう。


 今日も朝っぱらからそれなりに酔っ払いが多い。

 ……大丈夫かなこの街。


「では、支配人は奥におりますのでご案内いたします。足元にはお気をつけくださいませ。ささ、こちらで……」

「揶揄ってる感が強いからやめた方が良いぞ?なあジュリア」

「うん。バカにしてる感じがする」

「ひー、じゃあやめるね」

 またも軽い返事で答えるチャラ店員は、何だかんだでちゃんと支配人がいる奥の部屋へと案内してくれた。




「この度はご足労頂きありがとうございます。この『憩いの居酒屋ニヴルラム酒』の支配人を仰せつかりました、エルミと申します。身を粉にして働きますので、何なりとお申し付けくださいませ」

 目の前のエルミと名乗った支配人はガチガチで挨拶をしている。


 それなりに鍛えている青年の様だが、引き締まった体がプルプルと小刻みに震え、顔からは汗が流れている。

 大丈夫か?と声をかけたくなるほどの緊張をしている様だ。


「エルミさん、そんなに緊張しないでください。今日は俺達、世話になる立場ですから」

「そうだよエルっち。クロさん良い人よ?」

「テスタさんは砕けすぎだよ!知らないよどうなっても!御貴族様なんて気に食わないことがあったら処刑!とか気に入った女を見たらこっち来い!とか言っちゃうんだよ?怖いんだよ?この人達だってきっと今に僕達に牙を向けて……」

 エルミは早口でまくし立てる。


 チャラ店員はテスタと言う様だ。


 そして、支配人エルミはチャラ店員の肩を揺さぶりながら言いたいことを言った後、思い出したようにハッとした顔でこちらを見る。

 ギギギと音がしそうなほど首の動きが硬くなっているようだ。


「し、し、し、し」

「し?」

「失礼致しましたー!!!」

 ついに土下座を始めたエルミ。


「大丈夫だって。なあジュリア」

「クロはそんな酷い事するわけないしな!でも一部の貴族はマジそれいるからな?気を付けろよ?」

 ジュリアが真顔でそう言っている。


「そもそも俺は平民だからな。だが今みたいなのは気を付けた方が良いぞ?ジュリアの言う通り冗談で済まされない貴族もいるし、この店にも貴族が出入りしたりするんだろ?」

「は、はい!だから、僕が支配人なんて嫌なんです!カーラがやればいいんだよ!僕はもう嫌だ!一生厨房で良いんだ!ふわぁーん!」

 ついには床に丸まって泣き出したエルミ。


「なあ、こいつ大丈夫なのか?こいつが言う様にお前がやったらどうだ?お前なら何にでも動じない鋼魂だろ?」

「え、クロさん酷い。私にも繊細な心が……無かったかな?さーせん」

 本気でチェンジした方が良い気がする。


 その後、なんとかエルミを宥め、自己紹介を終わらせた。


 号泣支配人はレオポルト・エルミ。

 小さな商会の次男らしく、厨房で副料理長として働いていたが、帰らぬ人となった鬼人族以外ではナンバーワンのポジションとなる料理長より、抜けた支配人のポストを任されたそうだ。


 チャラ女店員はカーラ・テスタ。

 実家も食堂だが姉が看板娘として人気を総取りしている為、こっちの店ならとやってきたそうだ。


「まあ、お前もそれなりだから頑張れよ?」

 カーラにそう声をかけるが、その声にジュリアは堪え切れず笑い出し、カーラは「くっ」と声を漏らして腕で顔を隠し俯いた。


「まあ泣きませんけどね?」

「そうだろな」

 顔を上げケロっとしているカーラを見て、やっぱりこの女が支配人やった方が良さそうだと思ったが、その料理長のやらが推薦したのなら仕方のないことなのだろう。


「さて、思わぬところで時間を喰ったが酒造地いは誰が案内してくれるんだ?」

「はいはーい!私、私行きたい!」

 積極的なカーラ。


「ダメ。この女はクロを狙ってる」

「えー、私以外で今日空いてるのって……誰だっけ?エルっち」

「あ、はい。今日のロビーでカーラ以外の担当なしは……パオラさんですね」

「あー、姉さんか……ジュリアさん、パオラ姉さんを紹介するね。こっちきて」

「あ、うん」

 エルミとカーラの会話で今日の案内人はパオラさんと言うお姉さんになるようだ。


 なぜかご指名を受けたジュリアが、部屋を出たカーラの後をついて行く。


「あれがパオラ姉さん」

「ダメ!あれはダネだよ!クロはモロタイプだもん!あれが一緒なぐらいならカーラが良い!カーラならクロは本気にならないし!」

 俺は、カーラが姉さんと言ったパオラという女性を確認する。


 さすがジュリア。

 俺の好みが良く分かってらっしゃる。

 ナイスバディで笑顔が眩しい勝気な雰囲気の素敵なお姉さんだった。


「俺はまあ、どっちでもいいけど?」

「クロ……」

 どっちでもと言ったのにジュリアから冷気を感じるのはなぜ?


 結局、カーラを案内人にして鬼人族の酒造地、北の山の麓を目指して移動を開始した。


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