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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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49.冒険者クロ、ニヴルヘイムへの帰還


「お、お待ちください黒霧様!」

 涙目のギルドマスター、マティルデを見てため息をつく俺。


(わたくし)にも、魔石を……」

「あ、俺も魔石は必要なんだが?」

「酷いですクロ様、(わたくし)にあんなに黒々で大きなモノを見せておいて、おあずけなんていけずですぅ……」

「俺も魔石はめちゃ使うんだってば。明日から大量に作成(クリエイト)するし、魔石はいくらあっても足りないんだぞ?」

「武具合成なら結局粉砕するのですよね?大きな魔石でなくても良いではありませんか!中サイズも魔石ならいっぱいありますしその分量も出せますから!お願いですからぁ~」

「うーん」

 面倒だと悩んでいる間に、マティルデが俺にしな垂れてきていた。


「クロ」

 背後から冷たい声が聞こえる。


「ジュリア、待て待て、不可抗力だ!お前もいい加減いしろよ!融通するのは3つだけだ!同額の魔石、用意できるんだろうな?」

「はい!もちろんですわクロ様!すぐにご用意させますから!」

 マティルデが嬉しそうにスキップしながら出ていった。


 もうさっきまでの威厳あるツンはどこ行った?

 完全に中身ガキじゃねーか……


「では私もこれで、クロ殿ありがとうございました。黒霧については他言無用は理解しておりますのでご安心を……では、失礼仕ります!」

「ああ、またな」

 フランコも部屋を出ていった。


「2人きりだな……」

「うん!」

 気疲れを癒すように抱き合うと、直後にガチャリとドアが開いた。


「クロ様、お待たせいたしましたわ!」

「お、おお」

 何事も無かったかのようにスッと離れる俺達。


「これだけあれば良いかしら?」

 そう言いながらテーブルの上に拳サイズの魔石で崩れ落ちそうな程の山を作るマティルデ。


「まあいいだろう。<無限収納(インベントリ)>」

 俺はテーブルの上の魔石を収納し、代わりに大きな魔石を3つ出した。


「きゃはっ!」

 笑顔で涎を垂らし魔石に頬ずりするマティルデ。


「じゃあ俺帰るから」

「はーい」

 こちらを見もしないマティルデに呆れながら部屋を出る。


 ギルドを出る際には、何を思ったかサンチョが俺に「ちゃっす!」と言って最敬礼をしていたが、気にしないことにした。 


 宿に戻ると、やきもちを焼き過ぎたジュリアが本当の意味で寝かせてくれなかったので、作成(クリエイト)はまた明日、と言いつつ昼過ぎまで爆睡してしまった2人だった。




「よし!帰ろう!」

 帰ろうという表現があっているかわ分からないが、ニヴルヘイムへ戻り一先ず子爵邸には顔を出そうと思っている。


 結局2~3日で帰ると言ったっきり連絡しておらず、色々と丸投げしていたのもあるので心苦しい。

 領内の後始末は領主としての仕事でもあるのだろうが、その原因の一端は俺にもあるし酒造地の確認の件もある。


 俺はジュリアを抱き上げる。

 今回はナディアを呼ばずに自分の力で飛んでみることにした。


「<風の壁(ウィンドウォール)>、お、おわっ、ジュリア、大丈夫か?」

「あ、うん。クロに包まれてるから幸せ!」

 そう言う意味で聞いた訳ではないが、思わずにやけてしまう頬を引き締め、風の壁(ウィンドウォール)を操作し空へと飛び出した。


 空中での微調整は慣れてきたのかあまりふらつきは無かった。

 このまま高速で飛び続ける為に、目の前に空気の壁を作る様にイメージしてみる。


「これなら普通にしゃべれるな!」

「そうだね!誰にも邪魔されず、クロと2人きり!」

「いや、そうだけどな、おわっとっと!」

 ジュリアが抱き着き胸に唇を寄せると、イメージが可笑しなことになってフラフラと空を彷徨い、ジュリアは「きゃ」と可愛い悲鳴をあげた。


「そういうのは屋敷に戻ってからな」

「うん!」

 それから俺の胸に顔を寄せて鼻をスンスンさせていたジュリアを、必死の思いで気にしないようにして飛び続け、あっと言う間にニヴルヘイムへと到着した。


「着いたぞー!」

「早ーい」

 さて、屋敷は見えるがここからどう降りるか……


「よし!降りるぞ!」

「きゃっ!」

 急に高度を落とすとジュリアが悲鳴をあげぎゅっと抱き付いてくる。


 もちろん俺も高度を下げたことで下半身がキュっとなる。

 そしてイメージは崩れ勢い良く落下し、2人は悲鳴をあげる。


 俺は再度下から風の壁(ウィンドウォール)を操作しようとするが、それより先にジュリアが目の前に特大の水弾を打ち出し、子爵邸の庭に大きな水溜まりを作りそれに突っ込んだ。


 バシャンと大きな音を立て突っ込んだ俺達。

 当然それだけで衝撃を殺すことはできず、痛みを堪え泥だらけになりながら池か沼か分からない所から体を起こす。


「な、何事だ!」

「だ、旦那様まずは安全を!」

 音を聞きつけて庭へ出てきたのはエドモンドとチェチーリア、そして執事フィエロであった。


「あの、すんません」

「ごめーん」

 2人ですまなそうに3人に頭を下げるが、どうやら泥だらけで完全な不審者扱いであった。


 まずはフィエロさんはそのいつの間にか出したナイフは閉まってほしい。


「<水の壁(ウィーターウォール)>、うぉほっ!」

「きゃっ!」

 下から大量の水を浴びなんとか泥を落とす。


「ジュリア!クロ君も、おかえり、と言っていいのだろうか?」

「只今戻りました」

「ただいまー」


 その後、めちゃくちゃになった庭は俺が土魔法で整地し、あとは庭師が植物魔法でなんとかするというのでもう一度謝り屋敷へと入っていった。

 すぐに侍女からタオルを渡され、ジュリアはそのまま風呂へと直行し、俺は体を拭き終えるとエドモンドに今回の騒動について改めて説明した。


 ジュリアが精霊の加護を獲たことについては話さなかったが、とりあえず精霊の件は全て終わったことを告げ、集まった皆が安堵のため息をついていた。

 ジュリアが速攻戻ってきたので俺も風呂を頂き、少し早い夕食を頂きながらエドモンドの話を聞いた。


 取りあえず鬼人族がやっていた酒場と娼館は無事引継ぎが終わり領の直営となった。

 担当はオルランドがするようだ。


 奴隷商に密偵を送ると、担当がいなくなり手薄になって居たためすぐに違法な取引が見つかり、合法的に処分することができたようだ。

 どうやらあの魔道兵器に乗せられていた奴隷達もあの奴隷商が違法に攫って集めてきたのだと言う。

 ひどい話である。


 酒造地についてもエドモンドが話が付けてくれており、「明日に出も酒場に行ってみる良い」と教えてくれた。

 行けば担当の者が制作現場を案内する様に手配済みで、その後の交渉も好きにして良いとお墨付きを頂いた。


 今から楽しみである。


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