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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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46.冒険者クロ、王都最後の夜に


 王都に来て6日目。

 一応は今日が王都の迷宮探索の最終日である。


 王都で初めて迷宮で別行動した日の夜、ジュリアに"もう何日かスイと修行を続けたい"と懇願された。

 ベッドの上でそう言われてしまえば、鼻の下を伸ばした俺はその望みを叶えるという返答しか選択肢は無かった。


 翌日からまだ別行動で迷宮に籠るという寂しい日々を過ごす。

 おかげで精霊石を含む素材が多数集まった。


 昨日なんかは勢い余って100階層付近の竜種を狩りつくす勢いで殲滅を繰り返し、大量の竜素材を集めてしまった。

 だが、これでジュリアにも竜素材を潤沢に注ぎ込んだ真の装備が作れるだろうと、俺は薄暗い迷宮で独り頬を緩ませていたのだ。


 そして今日、ジュリアが記録しておいたという35階層へ一緒に転移する。


「まずは見ててくれ!」

 そう言って小部屋から外に飛び出すと、付近をキョロキョロとした後で正面の通路を走るジュリア。


 俺も当然脳内マップは準備済みなので、ジュリアが魔物が一番密集している部屋へと向かっているのが分かった。


「おい!ジュリア、1人では危険だ!」

 そう言って追いかけたが、すでに迫ってきていた強毒大蠍(デススコーピオン)斑紫紋毒蜘蛛(グロリオサスパイダー)の群れに左手を翳していた。


「貫け!<氷針乱武(アイスクラッシャー)>!」

 ジュリアの翳した手からは短剣サイズほどの無数の氷の針が飛び散り、群がる蠍と蜘蛛を蜂の巣にしていた。


 腰にある灼熱之牙にも右手を添えているので、討ち漏らしがあっても即対応できる様に準備はできているのだろう。


「ジュリア、凄いな」

「うん!スイ様に鍛えてもらったからな!魔物の位置も何となく分かるようになったし、肉弾戦だけでもライラにいた頃より格段に強くなったぞ!」

「そうか!じゃあ、強くなったジュリアに見合った武器を作らないとな!」

「ふふ。それは嬉しいな!そうだ、新しくしたらまた名前を考えなきゃ!今夜は寝られないかもな!」


 "今夜は寝られないかもな!"


 そんなジュリアの言葉を聞いた俺はちょっとだけドキドキして、そして微妙にガッカリする。

 もちろん俺も名付けは大好きだ。

 だが、やっぱり別の意味で寝られない夜を過ごしたい。

 だがしかし……


「よし!今日は徹夜で作成(クリエイト)するぞ!」

「おー!」

 俺も、ジュリアも笑顔であった。


「と、その前にジュリアは他に何ができるようになった?」

「うーんと、<氷結界(ガード)>、後は、いけー!<氷槍(アイスアロー)>!」

 ジュリアの声に合わせ、左半身を守るように半透明で煌めく大盾のような物が出現する。


 そして、2メートル程の大きな氷の槍、とうより太い氷柱が迷宮の壁に向かって飛び、大きな音を立てて弾けていた。


「おお!凄いな。この盾、重さとかはないんだろ?」

「ああ、すげーだろ。まったく重さは無いな!」

 ジュリアの手の動きに合わせて角度を変える盾に触れると、ひんやりとした冷気を感じる。


 拳の裏でコンコン叩いてみるが、強度もそれなりにありそうだ。


「<氷結界(ガード)>」

 俺も真似して氷の盾を出してみる。


「うーん、やっぱすぐには上手くいかないな」

 俺も同じように左半身を覆うように氷の盾を作ってみたが、歪な上に強度も弱そうなものができてしまった。


 これなら視界のクリアな結界(シールド)の方が強度も強く使い勝手も良いだろう。

 リズが全の精霊だからだろうが、スイとも契約したのだから、徐々に馴染んでくるのかもしれない。


「俺もたまに練習しておこう。衝撃を受けた時だけ可視化される結界(シールド)よりも、常に見えている氷結界(ガード)の方がカッコイイからな」

「そうだぞ!これ、見ろよ、ここの部分はハートに抜いてあるんだ!可愛いだろ?スイ様も喜んでくれたんだ!」

「おお!いいなそれ!じゃあ俺はそこを髑髏に……いや、竜の形にでも抜くか?」

「剣、どかはどうだろう?」

「いいな!」


 そんな話をしながら、2人で襲い来る魔物達を叩き伏せていた。




 夕暮れに差し掛かった頃、迷宮を十二分に楽しんだ俺達は外に出る。

 冒険者ギルドに顔を出し、ジュリアの魔法のバッグに預けてある不要と思われるいくつかの素材を提出する。

 もちろんジュリアの冒険者ランクを上げる為だ。

 ランクを上げておいた方が舐められないからな。


 俺はカウンターで話をしているジュリアを眺めながらロビーの椅子に腰掛け待っていた。

 今回は報連相してないのでギルドに関わりたくなかった。


「よー兄ちゃん、見ない顔だが新入りかい?」

 不意に横から声をかけられたが、関わりたくないので聞こえぬふりをする。


「無視かよ!お前だよ黒頭!」

 明らかに厄介者だ。


 無視だ、無視。

 そう思っていたが、ただならぬ気配を感じ椅子から飛びのいた。


 元居た場所を見ると、そこには2メートルほどの大男が自分の握った拳を眺めて首を傾げている。

 俺は、挙動不審な動きをする男がいるその場を離れ、反対側に設置してある椅子へ移動を……


「おう待てや!」

 再び俺宛と思われる怒鳴り声に、やっぱ無理かとため息をつく。


「俺?」

「そう、お前だ!」

「何用?」

「何用って、新人かって聞いてただろ?何を聞いてたんだ?ったく……俺はこの王都で有名な神斧(しんぷ)のサンチョだ!Aランク冒険者であり、神斧武神(しんぷのぶしん)のリーダーだ!どうだ?お近づきになりたいだろ?」

 目の前のサンチョと名乗った男は、腕を組み得意気にこちらを見ている。


「いや、何を言ってるのかわからん」

「お前……バカだろ」

 俺はバカにバカと言われ膝をつく。


「クロ、どうした?」

 背後からジュリアの可愛い声が聞こえたのでスッと立ち上がり腰に手を回す。


「何でもない。終わったか?」

「うん!」

「じゃ、帰ろうか」

 俺はいちゃつきながらギルドを出ようとして、また呼び止められた。


「おいって!なんで無視して帰ろうとしている!」

「なんだようるさいな」

「お、お前!急に強気になりやがって、隣にいるのはここ何日か30階層からの素材を提供しているソロ冒険者のジュリアじゃねーか……ははーん、さてはお前、ジュリアの紐か?」

「いや、何を言ってるのかわからん。そして気持ち悪っ」

 俺は、大声で叫ぶサンチョをジュリアの動向をストーキングしている危険人物であり底抜けのバカと認定して無視をする。


「さっ、早く帰ろう」

 ジュリアを笑顔で出口までエスコート。


 そんな俺の前に、サンチョはデカイ体に見合わない速度で回り込み、ドンと大きな音を立て床を踏んだ。


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