44.水の精霊スイ、空気が読める精霊に
めでたく水の精霊の名がスイに決まった。
「クロォ、精霊にかまってないで私もかまってー」
「お、おお」
ベッドの上で膝立ちして両手をこちらに伸ばしているジュリアに笑顔を向ける。
ギュッと抱きしめよしよしと背中を撫でる。
ふと視線を感じるので背後に顔を向けると、リズとスイがこちらをじっと見ていた。
いつもはリズが俺に意識をさせないタイミングで消えているから気にならなかったが、今日は何故にこちらをガン見しているのか理解ができない。
視線を意識すると次第に恥ずかしくなってきた。
「なあ、なんでそんな……いつもはいつのまにか消えてるだろ?」
『リズは空気読める』
「じゃあなぜ?」
『今日はスイいる』
俺はリズをじーっと見てみる。
『リズは空気読めるできる精霊』
「これを上げよう」
俺は笑顔で特大の魔力の塊をリズに放った。
リズはそれにガシッと噛り付くとすぐに消えてしまった。
『私も空気読めると思うのぉ?』
「俺もお前をできる子だと信じてるよ?」
『スイもそう思うよぉ!』
俺はその言葉を信じて特大の魔力の塊を出した。
『すっごぃ!これがオヤツてやつなのねぇ!』
そう叫んだ後、スイは全身でその塊にガシリとしがみ付くとクルクル回りながら消えていった。
消えたんだよね?いないよね?
俺はそんな不安を感じつつ、待ちきれずに俺の体をまさぐっているジュリアを押し倒した。
「クロ様、ずるいです!」
「くっ!」
さすがに騒がしすぎたかナディアが起きて頬を膨らませていた。
◆◇◆◇◆
某国某所。
「鬼人族の輩達は失敗か……まあ、予もあまり期待などしていなかったがな」
「ですが、折角捕獲した精霊でありますのに、少々勿体なかったのではございませぬか?」
鬼人族には研究開発の技術提供と同時に、捕獲した精霊を封印し提供していた。
「いや、あんな精霊程度で王都に大ダメージを与えられたとしたら十分に釣りは来るだろ?今回は予が偶々博打に負けただけよ」
「では、魔王様は精霊も使い潰せる程度のものだとおっしゃるのですか?」
「もちろんだ。あの程度の存在を捕獲しておくことなどたやすい。それに、予には切り札があるからな」
魔王と呼ばれた男は玉座に座り顎に手をやり考える。
「しかし、あの黒霧が王都の危機に手を貸すとはな。厄介なことだ。どうせなら悪役のままであれば狩り易いものを……」
「昔から、彼奴は本当に邪魔な存在でございますね!」
「まあ仕方ない。まずは暫く大人しくしていよう。新たに王都を潰す為の人員は確保している。だが、すぐに動かすのは予でも難しいからな。王国は今のうちにつかの間の平和を謳歌しておけば良い。次は確実に……」
こうして、某国に潜む魔王は口を閉じ心を落ち着ける様に瞳を閉じた。
一緒に居た男も静かに頭を下げ、部屋ると室内には静寂が訪れる。
その次に魔王が瞑想から目覚めるのは、切り札と言われた一人の男がやってきた時だった。
◆◇◆◇◆
結局あれから何事もなく起きた俺達は、食堂で朝食を頂くとナディアの案内で王都内を散策した。
道すがらいくつかの店で買い食いをし、最初に向かったのは素材屋であった。
さすが王都だと感心するぐらいの品揃えであったので、枯渇気味の鉄鋼素材などを大量購入した。
残念ながら精霊石は無かったので、精霊石ならギルドに依頼をかけるか迷宮へ行こうとジュリアに言われ、そう言えばギルドに挨拶もしてなかったなと思い出す。
「うーん、2~3日で離れるからギルドはいいかな。それに、ニヴルヘイムに戻れば精霊石は取れるし……」
それから、ナディアの案内で魔道具や衣服を見て回る。
やはり王都は魔道具も品ぞろえも多種多様で、魔力を籠めると膨らんで音を出しながら萎む物や、魔力で回る風車の様な物など、どんな時に使うかよく分からない変わった仕様のものも多く、見ているだけなら楽しかった。
魔力でキュッキュと鳴りながらぐるぐる回る魔道具は、ジュリアが面白いと笑っていたので購入した。
金貨1枚だった。
今回、一応世話にはなったのでナディアにも服を一着購入した。
いつ着るの?と思った純白のドレスだったが、本人がぜひ!と懇願するので購入したが、試着して頬を赤らめながらこちらを見つめる幼女に、すぐに着替えろと命じた。
そのまま着て移動する気だったらしく、頬を膨らませていた。
そんな格好で歩くなら一緒には歩けないと言うと、渋々元の服装に戻していた。
おまけに金貨5枚の高級仕様であったが、それぐらいなら痛くも痒くもない懐事情だしと、他にも何着買ってやると上機嫌で「何かあれば何でも言ってくださいませ!」と言っていたので、また何かあれば扱き使ってやろうと思った。
ナディアに対抗してジュリアも深紅のドレスを試着していたので、店員を呼んで速買いした。
そのまま着ていくか?と確認したら、少し恥ずかしいから、とすぐにいつもの服に着替えてしまった。
他にも数着普段着と下着を何着か購入し、今夜は楽しみにしてと言われ鼻の下を伸ばす。
今日は絶対にナディアには帰ってもらおう。
久しぶりにゆったりとした観光を楽しんだ俺達は、夕食は王都一の飯屋を利用した。
入り口でどなたかの紹介ですか?と止められたが、ナディアが自分の冒険者カードを出すと慌てた店員が支配人だという男を連れて奥の個室に通された。
「お前、秘密結社の首領じゃなかったか?」
「そうですけれど、表向きは銀級冒険者ですから」
そう言うナディアは少し得意気だった。
次々に出てきた食事は旨かったので、ナディアとは碌に会話をせずに食べ続けているとナディアが涙目になっていた。
「クロ様、私、明日もご一緒しますから!」
「え、いやなんで?」
「せっかくクロ様と素敵なディナーをと思いましたのに……」
「ああ、そっか。悪いな。ナディアのお陰で美味しい食事にありつけて嬉しいよ。じゃあ、明日はデートということで朝、王都の中央広場で待ち合わせな!もちろんジュリアも一緒だけどな」
俺は暗に今夜は帰れと告げるが、ナディアは「クロ様ぁ」と顔を赤くして頬に手をあて喜んでいた。
「明日は楽しみにしてますね!おやすみなさいませクロ様、ジュリア様」
「ああ、おやすみナディア」
「ナディアおやすみー」
思惑通りご機嫌なまま転移でいなくなったナディア。
その夜は念のため部屋を変更し、2人でシャワーを浴びた後、ベッドの周りに結界のベールを設置して熱い夜を過ごした。
結果、翌日は昼まで爆睡し、宿の廊下で叫ぶナディアにより目が覚めたのは良い思い出であった。
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