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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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42.冒険者クロ、王都で久々の飯を楽しむ


 俺とジュリアとナディアの3人は、城を出ると城から続く王都の大通りを歩いていた。


「俺も久々に王都に来たから、子爵には後で報告するとして、何日かは滞在して色々買い込んでから帰らないか?」

「いいのか?確かに父上への報告なんて後回しでいいし、楽しくなってきたな!」

「だったら私がクロ様を、王都でお勧めのお店に案内致しますわ!」

 俺の両側から体を押し付けてくる2人。


 後でちゃんとエドモンドには報告をしておこう。


「クロには俺がいるから、ナディアはもう巣に帰ってもいいんじゃないか?」

「ジュリア様は王都に詳しく無いのでは?」

「それは何とかなるだろ!」

「いーえ!私のとっておきのお店を紹介するので今回はお供します!」


 そんなことを言い合いをしている2人の頭を撫で、まずは飯屋だと近場の店に入る3人だった。


 店内はかなり賑わっている様だ。


「いらっしゃーい!3名っすかー」

「ああ、3名で」

「こちらどうぞー」

 軽いトーンで話す女性店員の後につき席まで移動する。


 オープンなスペースで周りの席とも近く騒がしい。


「個室の方がよかったっすか?」

「いや、ここで良いよ。料理は適当にお勧め運んできてくれ。余っても良いからさ。後、酒は今何がお勧め?」

「お酒は、米で作った米酒ってのがありますよ?後はワインとかも良いの入ってますけど、とりま両方持ってきます?」

「ああ、両方頼む。ジュリアは?」

「俺は肉があればいいぞ?」

「了解っすー!」

 ジュリアの返答を聞いたところで店員は軽い返事で厨房へと戻って行った。


「いやー、さっきはびびったなー!」

「あれってデマだったんだろ?」

「東門が襲撃されたって奴?」

「そうそう!」

「いやマジっぽい?でもまあ嘘でもホントでも、何もなかったってことで」

「飲みますかー!かんぱーい!」

「ウェーィ!」


 近くで騒いでいるグルーブが、東門でのことを話しているようだ。

 良く見ると、他の場所でも異様に盛り上がってる様だし、もしかしたら皆が同様の情報で騒いでいるのかもしれない?


 いや、そんなことある筈ないよな?

 俺はバカな考えを思い描きながらも、目の前に運ばれてきた透明な酒を一口飲んだ。


「あー旨い!」

 一口飲んでこれは間違いなく日本酒だと確信した。


 以前は王都でも無かった様な気がするが、よくよく考えたら今まで王都ではこんな感じの店は来たことが無かったなと思い出す。

 王都ではもっぱら高級な店で接待されてたりするので、蒸留酒やワインなどを飲んでいたと記憶している。


 日本酒をぐびぐび飲みながら、得体の知れない肉が入った煮物を摘まんだ。


「旨いなー」

 日本酒をチビチビ飲みながら唸るようにそう口にする。


 やっぱ日本人は日本酒だよな。

 俺はそもそも酒飲みで……うーん、やっぱり何も思い出せない。


 俺の中にある前世についての記憶は、日本人だったことと、そして極普通の一般常識。

 そして山に入ったら神と遭遇してこっちに来たことぐらいだ。


 この体が前世の体なのか?死んだとしたら享年は?学生だった?会社員?はたまた引きニートだったり?それに、家族や恋人なんかはいたのだろうか?

 まったく思い出せない過去を、今まで何度思い悩んだんだろう。


「クロ?つらい?」

 ジュリアの優しい声と同時に、俺の頭は優しく撫でられていた。


「あ、いや?ちょっと酒が旨すぎて浸ってただけだ」

「そう」

 ジュリアは俺の目元を自分の袖で撫でる。


「俺は、泣いてたのか?」

「うん」

「はは、なんだ。俺も年とったってことかー?」

「ふふ。クロは年齢だけならおじいちゃん通り越してるんだよね?」

「そうだなー」

 俺はジュリアの笑顔に心が軽くなる。


 今が楽しければそれでいいだろ?

 そう思いながらも次々に運ばれてきた料理を口に運んでは無限収納(インベントリ)に収納していった。


「クロ様!私も構ってください!」

「ああ、分かった分かった」

 俺はそう言いながら目の前の串をナディアに差し出すと、大きな口を開けたナディアがパクリと喰いついた。


「お客さん良く食べるっすね!」

「ああ!ここは飯が旨いな!」

「ふふん!そうでしょ。贔屓にしていいんっすよ?うち、今日は特に賑わってるっすけど、昼間は東門で魔物が出たとかで大騒ぎしてて暇だったんっすよ?それホントかは知らねーっすけど」

 結構噂にはなっていたようだ。


「ふふーん!感謝するんだな!東門の魔物はな!俺のクロがきっちりとた―――」

「おーい、何酔っぱらってるんだ?」

 ジュリアが余計なことを口にしようとしてたので顔を引き寄せ胸に抱く。


「ちょっとー、店の中で卑猥なことは勘弁っすよー」

「そうですよ、クロ様!宿に帰って私も混ぜて下さい!」

 俺は2人の戯言は無視をした。ジュリアを可愛がるのに夢中なので。


 それから1時間程、飲み食いしながら3人で盛り上がっていた俺は、背後からポンと肩を叩かれる。


「これはこれは英雄様!こんなところで祝杯ですか!奇遇ですね!」

 振り向けばさっきぶりの将軍であった。


 背後にはゾロゾロとむさ苦しい男達がいるので恐らく王国軍の兵士達だろう。


「いやそうだけど、五月蠅いよ?あまりあの話を広めてくれるなよ」

「改めまして私はフランコ・ヴェストリス、陛下からは騎士爵を賜り、将軍などと身に余る立場を拝命しております!」

 ダメだ、俺の話を聞いてくれない。


「いやーそれにしても、クロ様は本当に御強い!今度ぜひ、我々に修行をつけてはくれませんかな!」

「ふふん!俺のクロはすげーからな!指導してほしい気持ちは分かるぞ!」

「いいから静かに!お前達は大人しく食ってはよ帰れよ!ジュリアも、こっちで大人しく飲もうなー?」

 このフランコという男は、話も聞かずにペラペラと……さらにジュリアも俺を褒められ上機嫌なのか俺の良いところなんて話し始め、俺に口を押えられてもモゴモゴ言っている。


「お客さんってフランコさんとも知り合いだったんっすか?」

「あ、ああ。それよりもこいつらさっさと席に案内して飯食わせて返せよ」

「へーい。フランコさーん。あっちの席に案内するっすー」

 チャラい店員も興味津々でやってきたので、将軍の案内を頼んでみた。


「俺達はこの席の近くにできんか?ジュリア殿ともっとクロ様の話をしたいからな!」

「えー、そんなにっすか?何やったんすか?」

「東門の騒動を1人で収めたのがクロ様で―――」

「うぉーい!お前に守秘義務というものはないんか!」

「守秘義務?クロ様、守秘義務とはなんでしょう?」

 フランコは小首をかしげているが、もちろんまったく可愛気は無いし、逆に殺意を覚えるぐらいイラっとした。

 

 この世界に守秘義務という慣わしは無いようだ。


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